東京地方裁判所 平成元年(ワ)8292号 判決 1995年10月30日
第一事件及び第二事件原告(以下「原告」という。)
システムサイエンス株式会社
右代表者代表取締役
菅野清
右訴訟代理人弁護士
平田達
同
小林和彦
第一事件原告訴訟代理人弁護士
岡本政明
第一事件原告訴訟復代理人、第二事件原告訴訟代理人弁護士
小松美男
第一事件被告(以下「被告」という。)
東洋測器株式会社
右代表者代表取締役
前田俊夫
第一事件被告(以下「被告」という。)
村谷紀夫
第一事件被告(以下「被告」という。)
前田俊夫
第一事件被告(以下「被告」という。)
株式会社日本テクナート
右代表者代表取締役
小島三郎
第一事件被告(以下「被告」という。)
小島三郎
第二事件被告(以下「被告」という。)
株式会社永井商会
右代表者代表取締役
武部赳夫
第二事件被告(以下「被告」という。)
武部赳夫
右被告ら七名訴訟代理人弁護士
菊池史憲
同
杉浦智紹
第一事件被告ら訴訟復代理人、第二事件被告ら訴訟代理人弁護士
中野辰久
右被告ら七名訴訟復代理人弁護士
早野貴文
主文
一 原告と被告らとの間で、原告が、別紙物件目録一(一)ないし(四)記載の各プログラムについて著作権を有することを確認する。
二 被告東洋測器株式会社は、別紙物件目録一(一)、(二)及び(四)記載の各プログラムを複製し、又は翻案してはならない。
三 被告株式会社日本テクナートは、別紙物件目録一(一)、(二)記載の各プログラムを複製し、又は翻案してはならない。
四 被告東洋測器株式会社は、別紙物件目録一(一)記載のプログラムを収納した別紙物件目録二(三)記載の装置、別紙物件目録一(二)記載のプログラムを収納した別紙物件目録二(二)、(四)記載の各装置及び別紙物件目録一(四)記載のプログラムを収納した別紙物件目録二(九)記載の装置を頒布し、または頒布のために広告、展示してはならない。
五 被告東洋測器株式会社は、右第四項記載の各装置を廃棄せよ。
六 被告株式会社日本テクナートは、別紙物件目録一(一)記載のプログラムを収納した別紙物件目録二(三)記載の装置、別紙物件目録一(二)記載のプログラムを収納した別紙物件目録二(二)、(四)記載の各装置を頒布してはならない。
七 被告株式会社日本テクナートは、右第六項記載の各装置を廃棄せよ。
八 被告東洋測器株式会社、被告村谷紀夫、被告前田俊夫、被告株式会社日本テクナート、被告小島三郎は、原告に対し、連帯して、金三六二八万九〇〇〇円及びその内金三二六八万九〇〇〇円に対する平成元年七月一日から、金三六〇万円に対する平成元年七月一八日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
九 被告東洋測器株式会社、被告村谷紀夫、被告前田俊夫は、原告に対し、連帯して、金四三六万八〇〇〇円及び内金五五万八〇〇〇円に対する平成元年七月一日から、金四〇万円に対する平成元年七月一八日から、金三四一万円に対する平成三年四月一日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
一〇 原告のその余の請求を棄却する。
一一 訴訟費用は、原告と被告東洋測器株式会社、被告村谷紀夫、被告前田俊夫、被告株式会社日本テクナート及び被告小島三郎との間では、原告に生じた費用の二分の一と右各被告に生じた費用の二分の一を右各被告の連帯負担とし、原告に生じた費用のその余と、右各被告に生じた費用のその余を原告の負担とし、原告と被告株式会社永井商会及び被告武部赳夫との間では、右各被告に生じた費用の四分の一を右各被告の連帯負担とし、原告に生じた費用と、右各被告に生じた費用のその余を原告の負担とする。
この判決は、第二項ないし第九項、第一一項につき仮に執行することができる。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 原告
1 主文第一項と同旨。
2 被告東洋測器株式会社(以下「被告東洋」という。)、被告株式会社日本テクナート(以下「被告日本テクナート」という。)は、別紙物件目録一(一)ないし(四)記載の各プログラムを複製し、又は翻案してはならない。
3 被告株式会社永井商会(以下「被告永井商会」という。)は、別紙物件目録一(四)記載のプログラムを複製し、又は翻案してはならない。
4 被告東洋は、別紙物件目録一(一)記載のプログラムを収納した別紙物件目録二(一)、(三)記載の各装置、別紙物件目録一(二)記載のプログラムを収納した別紙物件目録二(二)、(四)記載の各装置、別紙物件目録一(三)記載のプログラムを収納した別紙物件目録二(五)ないし(八)記載の各装置及び別紙物件目録一(四)記載のプログラムを収納した別紙物件目録二(九)記載の装置を頒布し、または頒布のために広告、展示してはならない。
5 被告東洋は、右第4項記載の各装置を廃棄せよ。
6 被告日本テクナートは、別紙物件目録一(一)記載のプログラムを収納した別紙物件目録二(一)、(三)記載の各装置、別紙物件目録一(二)記載のプログラムを収納した別紙物件目録二(二)、(四)記載の各装置及び別紙物件目録一(三)記載のプログラムを収納した別紙物件目録二(五)ないし(八)記載の各装置を頒布してはならない。
7 被告日本テクナートは、右第6項記載の各装置を廃棄せよ。
8 被告永井商会は、別紙物件目録一(四)記載のプログラムを収納した別紙物件目録二(九)記載の装置を頒布してはならない。
9 被告永井商会は、右第8項記載の装置を廃棄せよ。
10 被告東洋、被告村谷紀夫(以下「被告村谷」という。)、被告前田俊夫(以下「被告前田」という。)、被告永井商会、被告武部赴夫(以下「被告武部」という。)は、原告に対し、連帯して、金三二二万八〇〇〇円及び内金二七二万八〇〇〇円に対する昭和六一年九月二七日から、内金五〇万円に対する平成二年七月六日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
11 被告東洋、被告村谷、被告前田、被告日本テクナート、被告小島三郎(以下「被告小島」という。)は、原告に対し、連帯して金一億二六〇九万四〇〇〇円及び内金八九六六万二〇〇〇円に対する平成元年七月一日から、内金五〇〇万円に対する第一事件訴状送達の日の翌日から、内金三一四三万二〇〇〇円に対する平成三年四月一日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
12 被告東洋、被告村谷、被告前田は、原告に対し、連帯して金四四〇万円及び内金一三六万四〇〇〇円に対する平成元年七月一日から、内金三〇三万六〇〇〇円に対する平成三年四月一日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
13 被告東洋、被告村谷、被告前田は、原告に対し、本判決確定後六〇日以内に
一 別紙記載の謝罪広告一を連名で、別紙記載の掲載規格一により株式会社日本経済新聞社発行の「日本経済新聞」紙面上に、
二 別紙記載の謝罪広告二を連名で、別紙記載の掲載規格二により社団法人日本薬学会発行の「ファルマシア」、社団法人日本農芸化学会発行の「日本農芸化学会誌」の各誌紙面上に、
それぞれ各一回掲載せよ。
14 訴訟費用は、被告らの負担とする。
仮執行宣言。
二 被告ら
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求の原因
1 当事者
(一) 原告は、計測、制御システム機器の設計、製造、販売を行うことを主な目的として、昭和五二年七月二二日に設立された株式会社である。
(二) 被告東洋は、分析機器、計測機、医療機器の製造、販売、輸出入を目的として昭和四八年四月一七日に設立された会社である。
(三) 被告村谷は昭和四九年五月一五日に被告東洋の取締役に就任し、同年一一月三〇日から平成四年三月一三日まで同社の代表取締役の地位にあった。
(四) 被告前田は昭和五二年五月二〇日に被告東洋の取締役に就任し、平成四年三月一三日に同社の代表取締役に就任し、現在もその地位にある。
(五) 被告日本テクナートは、電子機器、情報処理システムの設計、開発、製造、販売等を目的として昭和五〇年一二月三日に設立された会社であり、被告小島は設立と同時に同社の代表取締役に就任し、今日に至っている。
(六) 被告永井商会は、光学機械、電気器具の設計・製作販売並びに仲立を目的として、昭和三二年八月二〇日に設立された会社であり、被告武部は遅くとも昭和五六年一月一日から現在まで同社の代表取締役の地位にある。
2 原告著作物
(一) ゾーンアナライザーシステムZA―FMⅡ暫定版及びZA―FXⅡ暫定版(以下「ZA―FMⅡ暫定版」、「ZA―FXⅡ暫定版」といい、これらを「ZA―FⅡ暫定版」と総称することがある。)は、ゾーンアナライザーシステムZA―FM、ZA―FX(以下「ZA―FM」、「ZA―FX」という。)の改良型であり、種々の培地上の阻止円や発育体、コロニーの数、面積、直径等を正確に自動認識測定し、種々の方式により抗生物質等検体の力価計算を自動的に行い、また各種菌株の面積を自動測定し、活性判断や薬剤に対する感受性判断を自動的に行う最小発育阻止濃度測定装置である。
このうちZA―FMⅡ暫定版は、単一シャーレ検体用システムであり、ZA―FXⅡ暫定版は、八〇阻止円まで培養可能な大型平板を用いて計測する大量検体用システムである。
別紙物件目録一(一)記載のプログラム(以下「ZA―FMⅡ暫定版プログラム」という。)、同一(二)記載のプログラム(以下「ZA―FXⅡ暫定版プログラム」という。)は、それぞれZA―FMⅡ暫定版、ZA―FXⅡ暫定版の回路基盤のリードオンリーメモリーIC(以下「ROM」という。)に収納されている。
なお、阻止円とは、例えば、特別に管理された細菌を塗布した寒天を敷き詰めたシャーレ上に一定量の抗生物質等の試験薬を置き(置き方にはカップ法、ディスク法、ホール法がある)、これを一定温度にて一定時間培養(細菌を増殖させる)したときに該試験薬が阻止した細菌の非増殖部分をいい、非増殖部分が円状となって見えることから、阻止円といわれる。右の阻止円の面積、直径を計測し、その力価計算を行うことにより該試験薬の効能を数字的に現すことができる。
発育体とは、シャーレ上に塗布された発育栄養素(試験薬。例えばビタミンを活性化させる物質)上に置かれた薬剤等(例えばビタミン)のことであり、発育体の拡散度(活性化物質によりビタミンの大きさが広がる)をその拡散部分の面積、直径を計測し、標準化された一定式にあてはめることにより試験薬の効果を力価として現すことができる。
コロニーとは、シャーレ上の培地に発育した細菌(検体)などの群落をいう。例えば、シャーレ上にアルカリ性の培地を作り、培地にある種の酵母菌を混ぜておくと、その酵母菌がアルカリに強いものであれば培地の養分を得て群落を作ることになり、その数或いは面積直径等を計測することによりその検体のアルカリ性に対する抗性等を検査することができる。
最小発育阻止濃度測定とは、薬が効果を表す最小の濃度を測定することであり、例えば、一二枚位のシャーレ上に薬の2のn乗で薬剤濃度を変えた培地(寒天に薬を混ぜたもの)を作り、その培地上にそれぞれ検体の菌を何種類か置き、それぞれの菌が薬により発育を阻止される最小濃度を測定することによりその菌の該薬剤に対する感受性を自動的に測定できることができる。
(二) コロニーアナライザーシステムCA―7Ⅱ(以下「CA―7Ⅱ」という)は、コロニーアナライザーシステムCA―7の改良型であり、薬学、食品検査、医学、生化学、粉粒等の分野における種々多様なコロニー、プラーク、各粒子等検体の面積と数及び直径を計測し、さらにグループ計算や阻止円の力価計算から、データのプリントアウトまでを行う画像処理装置である。
別紙物件目録一(三)記載のプログラム(以下「CA―7Ⅱプログラム」という。)は、CA―7Ⅱの回路基盤のROMに収納されている。
(三) 画像処理法最小発育阻止濃度測定装置MIC(以下「MIC」という。)は、ZA―FⅡの中の最小発育阻止濃度の測定を行う装置であり、右機能を持たないCA―7のオプション装置として開発されたものである。
別紙物件目録一(四)記載のプログラム(以下「MICプログラム」という。)は、MICの回路基盤のROMに収納されている。
3 著作権の帰属
(一) ZA―FMⅡ暫定版プログラム、ZA―FXⅡ暫定版プログラム
(1) ZA―FMⅡ暫定版プログラム、ZA―FXⅡ暫定版プログラムは、原告の法人著作物であって、その著作権は、原告に帰属する。
(2) すなわち、原告代表者である菅野清、原告の取締役である唐沢誠は、原告の業務に従事しているものであるが、原告の発意に基づき、職務上、両名において、昭和五九年一一月一〇日頃から昭和六〇年六月三〇日頃までの間に、ZA―FⅡのシステム分析検討、プログラムの仕様検討を行い、また、唐沢において、同年三月二〇日頃から同年九月三〇日頃までの間に、ZA―FMⅡ暫定版プログラム、ZA―FXⅡ暫定版プログラムのゼネラルフローチャート及びディテイルフローチャートを作成し、右ディテイルフローチャートをアッセンブラー言語でコーディングして手書きのソースプログラムを作成し、これを電子計算機に入力し、アッセンブルしてオブジェクトプログラムを作成し、デバッグを行い、最後に、両名において、同年九月一五日頃から総合テストを行い、同月二六日頃、右各プログラムを完成させた。
(3) ZA―FXⅡ暫定版プログラムは、ZA―FMⅡ暫定版プログラムの全てを包含しており、ZA―FMⅡ暫定版は、そのROM内にFXⅡ暫定版プログラムが収納されており、ハード面においてFX用のプログラムの部分が作動しないようにしてあるものである。
(4) 原告は、ZA―FXⅡ暫定版プログラムを複製してROM内に収納し、右ROMをZA―FMⅡ暫定版の回路基盤に装着し、昭和六〇年九月二六日に二台、昭和六一年二月二〇日に三台、その他に六台のZA―FMⅡ暫定版を被告東洋に納品した。
ZA―FMⅡ暫定版プログラム、ZA―FXⅡ暫定版プログラムは、ZA―FMⅡ暫定版、ZA―FXⅡ暫定版プログラムのためにのみ作成されており、それ自体を独立したソフトウェアとして取引の対象とすることは予定されておらず、また、ZA―FMⅡ暫定版、ZA―FXⅡ暫定版プログラムには原告の製造銘板が貼付されているから、ZA―FMⅡ暫定版プログラム、ZA―FXⅡ暫定版プログラムは、原告がZA―FXⅡ暫定版プログラムの複製物を収納したROMを装着したZA―FMⅡ暫定版の販売を開始した時点又は遅くとも五台納品された昭和六一年二月二〇日の時点で原告名義で公表された。
(5) 仮に、前記記載の事実では未だ公表したものと解されないとしても、ZA―FMⅡ暫定版プログラム、ZA―FXⅡ暫定版プログラムを作成した唐沢、菅野は、右プログラムを公表するようなことになれば当然原告のものとして公表することを予定していたものである。また、右各プログラムは、菅野、唐沢が原告の勤務時間内に、原告の計算機等の機械を使用して作成したものであり、かつ他の資料とあいまって原告の将来の組織的な共同研究開発作業の基礎となり、またその過程で必要な修正等を加えられるべき性質のものである。更に、原告は、右各プログラムに関して、ソースプログラム、製造仕様書等の重要書類も合わせて作成者を含む全社員に公表を禁止していたものであって、このような事実からすれば、ZA―FMⅡ暫定版プログラム、ZA―FXⅡ暫定版プログラムは、仮に公表されるとしたら、当然に原告名義で公表される性格のものであったから、昭和六〇年法律第六二号による改正前の著作権法一五条の規定にいう「公表」の要件を充足する。
(二) CA―7Ⅱプログラム
(1) CA―7Ⅱプログラムは、原告の法人著作物であって、その著作権は、原告に帰属する。
(2) すなわち、菅野及び唐沢は、原告の業務に従事しているものであるが、原告の発意に基づき、職務上、両名において、昭和六〇年一〇月一日頃から同年一一月一五日頃までの間に、CA―7Ⅱのシステム分析検討、プログラム仕様検討を行い、次に、唐沢において、同年一〇月二〇日頃から同年一二月三〇日頃までの間、ゼネラルフローチャート、ディテイルフローチャートを作成し、右ディテイルフローチャートをアッセンブラー言語でコーディングして手書きのソースプログラムを作成し、これを電子計算機に入力し、アッセンブルしてオブジェクトプログラムを作成し、デバッグを行い、最後に、両名において、昭和六一年一月五日頃から総合テストを行い、同年三月二〇日頃、CA―7Ⅱプログラムを完成させた。
(三) MICプログラム
(1) MICプログラムは、原告の法人著作物であって、その著作権は、原告に帰属する。
(2) すなわち、菅野及び唐沢は、原告の業務に従事しているものであるが、原告の発意に基づき、職務上、まず、両名において、昭和五四年一一月一日頃から昭和五五年一月一五日頃までの間に、MICのシステム分析検討、プログラムの仕様検討を行い、次に、唐沢において、昭和五四年一二月二〇日頃から昭和五五年三月二〇日頃までの間に、ゼネラルフローチャート、ディテイルフローチャートを作成し、右ディテイルフローチャートをアッセンブラー言語でコーディングして手書きのソースプログラムを作成し、これを電子計算機に入力し、アッセンブルしてオブジェクトプログラムを作成し、デバッグを行い、最後に、両名において、同年三月二〇日頃から総合テストを行い、同年四月二〇日頃、MICプログラムを完成させた。
(3) MICプログラムは、MICのためにのみ作成されており、また、原告の製造銘板を貼付して昭和五六年三月一四日に一号機を、同年五月二三日には二号機を被告東洋に納品しているから、一号機を納品した昭和五六年三月一四日、あるいは遅くとも二号機を納品した昭和五六年五月二三日には、MICプログラムの公表があった。
(4) 仮に公表の事実が認められないとしても、前記(一)(5)と同様の理由により、MICプログラムも、原告の名義で公表される性格のものであったから、昭和六〇年法律第六二号による改正前の著作権法一五条の規定にいう「公表」の要件を充足する。
(四) 仮に、ZA―FMⅡ暫定版プログラム、ZA―FXⅡ暫定版プログラム、CA―7Ⅱプログラム、MICプログラムが原告の法人著作物と認められないとしても、原告は、昭和六三年五月二三日、唐沢及び菅野から、右各プログラムの著作権を無償で譲り受けた。
4 確認の利益及び被告らの権利侵害行為
被告らは、本件各プログラムの著作権が被告東洋に帰属すると主張して、原告が本件各プログラムの著作権を有することを争い、次のとおり原告の権利を侵害する行為を行っている。
(一) 昭和五七年八月一日から平成元年六月三〇日までの間の侵害行為
(1) 被告東洋は、昭和六一年七月から九月頃被告日本テクナートに対し、ZA―FXⅡ暫定版と同様の装置の製作を依頼し、これを受諾した被告日本テクナートは、原告が被告東洋に既に納入し在庫となっていたZA―FMⅡ暫定版三台を別紙目録二(二)、(四)記載のゾーンアナライザーZA―FXⅡ、ZA―FXⅢ(以下「被告ZA―FXⅡ」、「被告ZA―FXⅢ」という。)に改造し、その際、被告日本テクナートは、ZA―FXⅡ暫定版プログラムを複製して、他のROMに収納し、被告ZA―FXⅡ、被告ZA―FXⅢの回路基盤に装着した。被告東洋は、被告日本テクナートから、これらの被告ZA―FXⅡ、被告ZA―FXⅢの納入を受けて、右期間に販売した。
(2) 被告東洋は、被告日本テクナートに対し、右(1)とは別にZA―FXⅡ暫定版と同様の装置の製作を依頼し、これを受諾した被告日本テクナートは、被告ZA―FXⅢ一台を製造したが、その際、被告日本テクナートは、ZA―FXⅡ暫定版プログラムを複製して、他のROMに収納し、被告ZA―FXⅢの回路基盤に装着した。被告東洋は、被告日本テクナートから、この被告ZA―FXⅢの納入を受けて、右期間に販売した。
(3) 被告東洋は、被告日本テクナートに対し、ZA―FMⅡ暫定版と同様の装置の製作を依頼し、これを受諾した被告日本テクナートは、別紙目録二(三)記載のゾーンアナライザーZA―FMⅢ(以下「被告ZA―FMⅢ」という。)一三台を製造し、その際、被告日本テクナートは、ZA―FMⅡ暫定版プログラムを複製して、他のROMに収納し、被告ZA―FMⅢの回路基盤に装着した。被告東洋は、被告日本テクナートから、これらの被告ZA―FMⅢの納入を受けて、右期間に販売した。
(4) 被告東洋は、被告日本テクナートに対し、CA―7Ⅱと同様の装置の製作を依頼し、これを受諾した被告日本テクナートは、別紙目録二(五)ないし(八)記載のコロニーアナライザーシステムCA―9A、CA―9M、CA―9F、CA―9D(以下「被告CA―9A」、「被告CA―9M」、「被告CA―9F」、「被告CA―9D」といい、これらを「被告CA―9」と総称することがある。)合計一七台を製造したが、その際、被告日本テクナートは、CA―7Ⅱプログラムを複製して、他のROMに収納し、被告CA―9A、被告CA―9M、被告CA―9F、被告CA―9Dの回路基盤に装着した。被告東洋は、被告日本テクナ―トから、これらの被告CA―9A、被告CA―9M、被告CA―9F、被告CA―9Dの納入をうけて、右期間に販売した。
被告らは、平成元年六月三〇日までに販売した被告CA―9の台数を一七台から一六台に変更しているが、原告は、被告らの右自白の撤回に異議がある。また、右自白が真実に合致しないことの証明もない。
(5)(ア) 被告東洋は、被告永井商会に対し、MICと同じ装置の製作を依頼し、これを受諾した被告永井商会は、別紙目録二(九)記載の画像処理法最小発育阻止濃度測定装置(以下「被告MIC」という。)四台を製造したが、その際、MICプログラムを複製して、他のROMに収納し、右ROMを被告MICの回路基盤に装着した。被告東洋は、被告永井商会から、これらの被告MICの納入を受けて、右期間に販売した。
(イ) また、被告東洋は、昭和五九年二月頃から、被告MIC二台を製造したが、その際、MICのROMに収納されているMICプログラムの複製物を複製して、他のROMに収納し、右ROMを被告MICの回路基盤に装着し、これらの被告MICを右期間に販売した。
(二) 東京地方裁判所昭和六二年(ヨ)第二五三一号著作権侵害差止仮処分申請事件の却下決定に対する抗告事件(東京高裁平成元年(ラ)第三二七号)についての決定(以下「別件高裁決定」という。)後である平成元年七月一日から平成三年三月三一日までの間の侵害行為
(1) 被告東洋は、被告日本テクナートに対し、ZA―FXⅡ暫定版と同様の装置の製作を依頼し、これを受諾した被告日本テクナートは、被告東洋が販売済の被告ZA―FMⅢ四台を被告ZA―FXⅢに改造したが、その際、被告日本テクナートは、ZA―FXⅡ暫定版プログラムを複製して、他のROMに収納し、被告ZA―FXⅢの回路基盤に装着した。被告東洋は、被告日本テクナートから、これらの被告ZA―FXⅢの納入を受けて、右期間に販売した。
(2) 被告東洋は、被告日本テクナートに対し、ZA―FXⅡ暫定版と同様の装置の製作を依頼し、これを受諾した被告日本テクナートは、被告ZA―FXⅢ二台を製造したが、その際、被告日本テクナートは、ZA―FXⅡ暫定版プログラムを複製して、他のROMに収納し、被告ZA―FXⅢの回路基盤に装着した。被告東洋は、被告日本テクナートから、これらの被告ZA―FXⅢの納入を受けて、右期間に販売した。
(3) 被告東洋は、被告日本テクナートに対し、ZA―FMⅡ暫定版と同様の装置の製作を依頼し、これを受諾した被告日本テクナートは、被告ZA―FMⅢ二台を製造したが、その際、被告日本テクナートは、ZA―FMⅡ暫定版プログラムを複製して、他のROMに収納し、被告ZA―FMⅢの回路基盤に装着した。被告東洋は、被告日本テクナートから、これらの被告ZA―FMⅢの納入を受けて、右期間に販売した。
(4) 被告東洋は、被告MIC四台を製造したが、その際、MICのROMに収納されているMICプログラムを複製して、他のROMに収納し、右ROMを被告MICの回路基盤に装着し、これらの被告MICを右期間に販売した。
(三) 被告東洋の責任
被告東洋は、ZA―FMⅡ暫定版、ZA―FXⅡ暫定版、CA―7Ⅱ、MICにそれぞれ収納されているZA―FMⅡ暫定版プログラム、ZA―FXⅡ暫定版プログラム、CA―7Ⅱプログラム、MICプログラムの著作権が原告に帰属していることを知りながら、右(一)、(二)のとおり、被告日本テクナート及び被告永井商会に右各プログラムの複製を指示し、また、自らMICプログラムを複製したものである。
そして、右のように複製したプログラムを収納したROMを装着した各装置を、被告日本テクナート及び被告永井商会から情を知って買受け、販売したものであり、これは、被告日本テクナート及び被告永井商会を利用した複製行為そのものであり、仮にそうでないとしても違法な複製行為の教唆として、複製者と同様の責任を負うものである。
更に、情を知って取得している以上、前記各装置を頒布する行為は著作権法一一三条一項二号により侵害行為とみなされる。
被告東洋の、本件侵害行為時の代表取締役であった被告村谷は、本件各プログラムは原告の菅野、唐沢が作成したことを承知しており、各プログラムを収納した装置を原告から継続的に買い受けて販売するに至った経緯から、本件各装置のROMに収納されている各プログラムの著作権が原告に帰属していることを知っていた。
仮に、被告東洋に故意が認められないとしても、被告東洋は原告との本件各装置の供給契約を解約するにあたり、弁護士に委任して原告に対して契約解除の通告書を送付し、これに対し、原告から昭和六一年七月一日付けで本件各装置の全ての権利が原告に帰属している旨の回答書の送付を受けていた。被告東洋の代表者であった被告村谷は、弁護士に相談すれば、プログラム著作権が誰に帰属するかを容易に知り得たはずであるが、相談することなく漫然と他社にプログラムを複製させて装置に装着させて、あるいは自らプログラムを複製したうえ装置に装着して販売したもので、被告東洋には重過失がある。
更に、被告東洋は、仮処分手続中に「本件装置は今後販売しないし、現に販売してもいない」と主張し、また、平成元年六月二〇日に、ZA―FMⅡ暫定版プログラム、ZA―FXⅡ暫定版プログラム、MICプログラムを収納した被告ZA―FMⅢ、被告ZA―FXⅢ、被告MICを頒布してはならないという仮処分決定を受けたにもかかわらず、その後も頒布を継続していたものであり、右期間については故意というよりも悪意、害意があったといわざるを得ない。
(四) 被告日本テクナートの責任
被告日本テクナートは、被告東洋からZA―FⅡ暫定版、CA―7Ⅱ装置と同様の装置の製作を依頼された際、被告東洋が原告の承諾なく原告装置のハード、本件プログラムを含めたソフトをそっくり複製して販売することを承知のうえ、あえて被告東洋の依頼を受諾し、その製造を行うようになったものである。
被告日本テクナートは特許権を有していて、工業所有権やプログラム著作権に詳しい会社である。そういう会社であれば、仮に被告東洋が装置の開発をしたりプログラムの権利を有しているというのであれば、当然に装置の製造のために必要な設計図面や回路図面、プログラムリスト等の技術的資料、ROM内のプログラムのソースプログラム、製造仕様書等権利者であれば所持しているはずの書類を所持していないことに気付くはずである。被告東洋がいかなる説明をしたとしても、これらの資料を有していない被告東洋を権利者であると判断したはずはない。
また、前記のとおり、被告日本テクナートが工業所有権等の権利関係に詳しい会社であること、被告東洋から渡されたという装置の現物に原告の製造銘板が貼付してあったこと、被告日本テクナートにおいては、原告に連絡をとってプログラムの権利関係について確認をとろうと思えば容易に確認し得たはずであること、被告日本テクナートの代表者である被告小島は、原告から東洋への納品価格が一般の下請け業者の卸値であると認識していながら、それより大幅に安い卸値で取引していること等からすれば、仮に被告日本テクナートに故意が認められないとしても、重過失がある。
更に、原告代理人から被告日本テクナートに対して昭和六三年七月二三日付け内容証明郵便(同月二五日到達)で権利侵害の事実を伝えて警告し、原告代理人から事情を説明する旨も伝えたものである。したがって、少なくとも昭和六三年七月二五日以降の複製分については、被告日本テクナートに故意又は重過失がある。
仮処分の高裁決定後にZA―FⅢのハードウェアのみを納入したものとしても、これに被告東洋がZA―FMⅡ暫定版プログラム、ZA―FXⅡ暫定版プログラムを複製し、収納して、販売した以上、被告日本テクナートには故意がある。
(五) 被告東洋と被告日本テクナートの共同不法行為
被告東洋は、ZA―FMⅡ暫定版、ZA―FXⅡ暫定版、CA―7Ⅱにそれぞれ収納されているZA―FMⅡ暫定版プログラム、ZA―FXⅡ暫定版プログラム、CA―7Ⅱプログラムの著作権が原告に帰属していることを知りながら、また、被告日本テクナートは、右各プログラムの著作権が被告東洋に帰属していないことを知りながら、あるいは過失によりそれを知らないで、前記(一)(1)ないし(4)、(二)(1)ないし(3)の行為をしたものであるところ、被告東洋は、右行為によって原告の卸値より大幅に安い価格で被告ZA―FXⅡ、被告ZA―FXⅢ、被告ZA―FMⅢ及び被告CA―9A、被告CA―9M、被告CA―9F、被告CA―9Dの供給を受け、販売することができ、被告日本テクナートは、各プログラムを複製し、右各装置を製造、販売して利益を得ることができ、いわば一体となって、相互に補完しながら複製、販売を継続することによって利益を上げることができるという関係にあったもので、客観的な関連共同は勿論、主観的にも関連共同しながら原告のプログラム著作権を侵害したものである。
(六) 被告村谷、被告前田、被告小島の責任
右に被告東洋及び被告日本テクナートの行為と主張した行為は、具体的には、被告東洋の代表取締役であった被告村谷、同じく取締役であった被告前田、被告日本テクナートの代表取締役である被告小島が、被告村谷についてはその職務として被告東洋の行為をし、被告小島についてはその職務として被告日本テクナートの行為をし、また、被告前田についてはその業務執行として被告東洋の右行為をしたものである。
したがって、被告村谷、被告前田、被告小島の右各行為は個人の行為としても共同不法行為を構成するとともに、商法二六一条三項、七八条二項、民法四四条一項の規定又は民法七一五条一項の規定により、被告東洋と被告日本テクナートも不法行為上の責任を負うものであり、右五名の被告らの行為は共同不法行為を構成する。
また、被告村谷、被告前田、被告小島は、それぞれ被告東洋又は被告日本テクナートの職務を忠実に遂行する義務に重大な過失により違反して前記の行為をしたものであるから商法第二六六条の三の規定に基づき、原告に対し、右行為によって原告が被った損害を賠償すべき義務がある。
(七) 被告永井商会の責任
被告永井商会は、被告東洋から事情説明を受け、被告東洋が原告の承諾なく原告製品のハード、ソフトをそっくり複製して販売することを承知の上、あえて被告東洋の依頼を受諾し、ロムライターを用いて原告のMICプログラムを複製し、MIC装置の製造を行うようになったものであり、原告の権利侵害につき故意がある。
仮にそうでないとしても、被告永井商会は、被告東洋が本件装置のROM内のプログラムのソースプログラム、製造仕様書等権利者であれば当然所持しているはずのプログラムの権利に関する重要な書類も持たずに製造を依頼してきたにもかかわらず、あえてその製造を行うようになった。
すなわち、被告永井商会は、被告東洋が持ち込んだ原告の装置の回路基盤に装着されたROMに収納されたオブジェクトプログラムをロムライターを用いて原告に無断で他のROMに移し替え、あるいは、被告東洋が持ち込んだ原告のオブジェクトプログラムを違法に複製収納したROMから更に他のROMに移し替え、新たにそのオブジェクトプログラムを収納したROMを用いて原告の装置と同じ機能、形態、名称を有する分析精密機器を製造して被告東洋に販売し、被告東洋は被告永井商会から仕入れた右装置を販売したものである。
被告永井商会では、当時、社長の息子である武部明が何度も原告を訪問していたし、原告代表者菅野とは旧知の間柄であったのだから、プログラムの権利について原告に確認しようと思えば容易に確認できたにもかかわらず、あえて確認せず複製行為を行ったものであり、少なくとも過失がある。
(八) 被告東洋と被告永井商会の共同不法行為
被告東洋は、MICに収納されているMICプログラムの著作権が原告に帰属していることを知りながら、また、被告永井商会は、右プログラムの著作権が被告東洋に帰属していないことを知りながら、あるいは過失によりそれを知らないで、前記(一)(5)(ア)の行為をしたものであるところ、被告東洋は、右行為によって原告の卸値より大幅に安い価格で被告MICの供給を受け、販売することができ、被告永井商会は、右プログラムを複製し、被告MICを製造販売して利益を得ることができ、いわば一体となって、相互に補完しながら複製、販売を継続することによって利益を上げることができるという関係にあったもので、客観的な関連共同は勿論、主観的にも関連共同しながら原告のプログラム著作権を侵害したものである。
(九) 被告村谷、被告前田、被告武部の責任
右に被告東洋及び被告永井商会の行為と主張した行為は、具体的には、被告東洋の代表取締役であった被告村谷や、同じく取締役であった被告前田、被告永井商会の代表取締役である被告武部が、被告村谷についてはその職務として被告東洋の行為をし、被告武部についてはその職務として被告永井商会の行為をし、また、被告前田についてはその業務執行として被告東洋の右行為をしたものである。
したがって、被告村谷、被告前田、被告武部の右各行為は個人の行為としても共同不法行為を構成するとともに、商法二六一条三項、七八条二項、民法四四条一項の規定又は民法七一五条一項の規定により、被告東洋と被告永井商会も不法行為上の責任を負うものであり、右五名の被告らの行為は共同不法行為を構成する。
また、被告村谷、被告前田、被告武部は、それぞれ被告東洋又は被告永井商会の職務を忠実に遂行する義務に重大な過失により違反して前記の行為をしたものであるから商法二六六条の三の規定に基づき、原告に対し、右行為によって原告が被った損害を賠償すべき義務がある。
5 差止請求権、廃棄請求権
(一) 被告東洋は、前記4(一)ないし(三)のとおり、ZA―FMⅡ暫定版プログラムを収納した被告ZA―FMⅢ、ZA―FXⅡ暫定版プログラムを収納した被告ZA―FXⅡ、被告ZA―FXⅢ、CA―7Ⅱプログラムを収納した被告CA―9A、被告CA―9M、被告CA―9F、被告CA―9D、MICプログラムを収納した被告MICを製造、販売しているので、原告は、著作権法一一二条一項、二項又は同法一一三条一項二号の規定に基づき、被告東洋の右行為の際の本件各プログラムの複製、翻案及び右各装置の頒布等の差止請求権並びに同法一一二条二項の規定に基づき、被告東洋の所有する右各装置の廃棄請求権を有する。
(二) 被告日本テクナートは、前記4(一)(1)ないし(4)、(二)(1)ないし(3)、(四)のとおり、ZA―FMⅡ暫定版プログラムを収納した被告ZA―FMⅢ、ZA―FXⅡ暫定版プログラムを収納した被告ZA―FXⅡ、被告ZA―FXⅢ、CA―7Ⅱプログラムを収納した被告CA―9A、被告CA―9M、被告CA―9F、被告CA―9Dを製造、販売しているので、原告は、著作権法一一二条一項又は同法一一三条一項二号の規定に基づき、被告日本テクナートの右行為の際の右各プログラムの複製、翻案及び右各装置の頒布の差止請求権並びに同法一一二条二項の規定に基づき、被告日本テクナートの所有する右各装置の廃棄請求権を有する。
(三) 被告東洋、被告日本テクナートは、ZA―FMⅡ暫定版プログラムを複製してZA―FMⅡ暫定版と同様な機器を製作していたのであるから、ZA―FMⅡ暫定版と同一の別紙目録二(一)記載のゾーンアナライザーZA―FMⅡ(以下「被告ZA―FMⅡ」という。)を製造販売するおそれがあるので、原告は、被告東洋、被告日本テクナートの右行為の予防請求権を有する。
(四) 被告永井商会は、前記4(一)(5)(ア)のとおり、MICプログラムを収納した被告MICを製造、販売しているので、原告は、著作権法一一二条一項又は同法一一三条一項二号の規定に基づき、被告永井商会の右行為の際の右プログラムの複製、翻案及び右装置の頒布の差止請求権並びに同法一一二条二項の規定に基づき、被告永井商会の所有する右装置の廃棄請求権を有する。
6 損害額
(一) 主位的主張
(1) 昭和五七年八月一日から平成元年六月三〇日までの間に販売した分
(ア) ZA―FMⅡ暫定版を改造した被告ZA―FXⅡ、被告ZA―FXⅢ三台について
被告東洋による被告ZA―FXⅡ、被告ZA―FXⅢ各一台の実績販売価格(標準小売価格一五〇〇万円の八割)は一二〇〇万円である。
他方、ZA―FMⅡ暫定版の原告から被告東洋への販売価格は四〇〇万円であり、ZA―FMⅡ暫定版を被告ZA―FXⅢに改造する場合は、更に材料費六六万八一九八円を要するから、材料現価は、四六六万八一九八円である。
被告日本テクナートの工場部門の直接作業者の時間単価(アワーレート)は四〇〇〇円とするのが相当であるところ、ZA―FMⅡ暫定版を被告ZA―FXⅡ、被告ZA―FXⅢに改造するのに要する製造・調整・検査等の工数時間は、641.8時間であるから、製造・調整・検査等の工賃は二五六万七二〇〇円である。
また、被告東洋の販売経費は、実績販売価格の一〇%の一二〇万円である。
したがって、被告ZA―FXⅡ、被告ZA―FXⅢに要した総原価は一台当たり八四三万五三九八円であり、標準小売価格に対する利益率は約二三%となる。この標準小売価格、利益率を基に被告東洋及び被告日本テクナートが得た三台分の利益の額を算出すると合計約一〇三五万円となり、著作権法一一四条一項の規定により、原告は同額の損害を被ったものと推定される。
(イ) 被告ZA―FXⅢ一台について
被告東洋による被告ZA―FXⅢ一台の実績販売価格(標準小売価格一五〇〇万円の八割)は一二〇〇万円である。
他方、材料原価は二一六万八一九八円であり、外注組立配線費は五万五八五〇円である。
被告日本テクナートの工場部門の直接作業者の時間単価は四〇〇〇円とするのが相当であるところ、被告ZA―FXⅢの製作に要する製造・調整・検査等の工数時間は717.2時間であるから、製造・調整・検査等の工賃は二八六万八八〇〇円である。
また、被告東洋の販売経費は、実績販売価格の一〇%の一二〇万円である。
したがって、被告ZA―FXⅢの製造販売に要した総原価は一台当たり六二九万二八四八円であり、被告東洋及び被告日本テクナートが得た利益の額は約五七〇万円であり、原告は同額の損害を被ったものと推定される。
(ウ) 被告ZA―FMⅢ一三台について
被告東洋による被告ZA―FMⅢ一台の標準小売価格は七七〇万円であるが、実績販売価格の平均値は六三二万五〇〇〇円である。
他方、材料原価は一四〇万八九四〇円であり、外注組立配線費は七万八五一五円である。
被告日本テクナートの工場部門の直接作業者の時間単価は四〇〇〇円とするのが相当であるところ、被告ZA―FMⅢの製作に要する製造・調整・検査等の工数時間は75.37時間であるから、製造・調整・検査等の工賃は三〇万一四八〇円である。
また、被告東洋の販売経費は、実績販売価格の一〇%の六三万二五〇〇円である。
したがって、被告ZA―FMⅢの製造販売に要した総原価は一台当たり二四二万一四三五円であり、標準小売価格に対する利益率は五〇%を上回るので五〇%とみて、標準小売価格と利益率を基に被告東洋及び被告日本テクナートが得た一三台分の利益の額を計算すると合計約五〇〇五万円となり、原告は同額の損害を被ったものと推定される。
(エ) 被告CA―9一七台について
被告東洋による被告CA―9一台の標準小売価格は四二〇万円であるが、実績販売価格の平均値は二八三万円である。
他方、材料原価は九〇万円であり、外注組立配線費は六万四三八七円である。
被告日本テクナートの工場部門の直接作業者の時間単価は四〇〇〇円とするのが相当であるところ、被告CA―9の製作に要する製造・調整・検査等の工数時間は47.825時間であるから、製造・調整・検査等の工賃は一九万一三〇〇円である。
また、被告東洋の販売経費は、実績販売価格の一〇%の二八万三〇〇〇円である
したがって、被告CA―9の製造販売に要した総原価は一台当たり一四三万八六八七円であり、標準小売価格に対する利益率は約三三%となる。この標準小売価格と利益率を基に被告東洋及び被告日本テクナートが得た一七台分の利益の額を計算すると合計約二三五六万二〇〇〇円となり、原告は同額の損害を被ったものと推定される。
(オ) 被告MIC六台について
被告東洋による被告MICの標準小売価格は一一〇万円であるが、実績販売価格は八八万円である。
他方、材料原価は二万三四〇〇円である。
被告永井商会の工場部門の直接作業者の時間単価は四〇〇〇円とするのが相当であるところ、被告MICの製作に要する製造・調整・検査等の工数時間は約二〇時間であるから、製造・調整・検査等の工賃は八万円である。
また、被告東洋の販売経費は、実績販売価格の一〇%の八万八〇〇〇円である。
したがって、被告MICの製造販売に要した総原価は一台当たり一九万一四〇〇円であるので、標準小売価格に対する利益率は約六二%となり、標準小売価格と利益率に基づいて被告東洋及び被告永井商会が被告MIC四台の販売によって得た利益の額を計算すると合計約二七二万八〇〇〇円であり、被告東洋が被告MIC二台の販売によって得た利益の額を計算すると合計約一三六万四〇〇〇円であり、原告は合計約四〇九万二〇〇〇円の損害を被ったものと推定される。
(2) 別件高裁決定後の平成元年七月一日から平成三年三月三一日までの間に販売した分
(ア) 被告ZA―FMⅢを改造した被告ZA―FXⅢ四台について
被告東洋による被告ZA―FXⅢの実績販売価格(標準小売価格一五〇〇万円の八割)は一二〇〇万円である。
他方、改造前の被告ZA―FMⅢの実績販売価格は六三二万五〇〇〇円であり、ZA―FMⅢを被告ZA―FXⅢに改造するに要した材料費は六六万八一九八円であるから、材料原価は六九九万三一九八円である。
製造・調整・検査等の工賃は、前記(1)(ア)と同様に、二五六万七二〇〇円である。
また、被告東洋は、別件高裁決定後、被告ZA―FXⅢの販売活動はしていないというので、基本的には販売経費はかかっていないことになるが、少なくとも荷造運送費程度の販売経費が必要であるところ、これを多く見積っても一%を越えることはないから被告東洋の販売経費は、実績販売価格の一%の一二万円である。
したがって、被告ZA―FXⅢの改造、販売に要した総原価は一台当たり九六八万〇三九八円であるので、標準小売価格に対する利益率は約一五%となり、標準小売価格と利益率に基づき被告東洋及び被告日本テクナートが得た四台分の利益の額を計算すると合計九〇〇万円であるから、原告は同額の損害を被ったものと推定される。
(イ) 被告ZA―FXⅢ二台について
被告東洋による被告ZA―FXⅢの実績販売価格(標準小売価格一五〇〇万円の八割)は一二〇〇万円である。
他方、前記(1)(イ)と同様に、材料原価は二一六万八一九八円であり、外注組立配線費は五万五八五〇円であり、製造・調整・検査等の工賃は二八六万八八〇〇円である。
また、被告東洋の販売経費は、前記(ア)と同様に、一二万円である。
したがって、被告ZA―FXⅢの製造、販売に要した総原価は一台当たり五二一万二八四八円であるので、標準小売価格に対する利益率は約四五%となり、標準小売価格と利益率に基づき被告東洋及び被告日本テクナートが得た二台分の利益の額を計算すると合計一三五〇万円であるから、原告は同額の損害を被ったものと推定される。
(ウ) 被告ZA―FMⅢ二台について
被告東洋による被告ZA―FMⅢの一台の標準小売価格は七七〇万円であるが、実績販売価格の平均値は六三二万五〇〇〇円である。
他方、前記(1)(ウ)と同様に、材料原価は一四〇万八九四〇円であり、外注組立配線費は七万八五一五円であり、製造・調整・検査等の工賃は三〇万一四八〇円である。
また、被告東洋の販売経費は、前記(ア)と同様に、実績販売価格の一%の六万三二五〇円である。
したがって、被告ZA―FMⅢの製造、販売に要した総原価は一台当たり一八五万二一八五円であるので、標準小売価格に対する利益率は五八%となり、標準小売価格と利益率に基づき被告東洋及び被告日本テクナートが得た二台分の利益の額を計算すると合計八九三万二〇〇〇円であるから、原告は同額の損害を被ったものと推定される。
(エ) 被告MIC四台について
被告東洋による被告MICの標準小売価格は一一〇万円であるが、実績販売価格は八八万円である。
他方、前記(1)(オ)と同様に、材料原価は二万三四〇〇円であり、製造・調整・検査等の工賃は八万円である。
また、被告東洋の販売経費は、前記(ア)と同様に、実績販売価格の一%の八八〇〇円である。
したがって、被告MICの製造販売に要した総原価は一台当たり一一万二二〇〇円であるので、標準小売価格に対する利益率は約六九%となり、標準小売価格と利益率に基づき被告東洋が得た四台分の利益の額を計算すると合計三〇三万六〇〇〇円であり、原告は同額の損害を被ったものと推定される。
(二) 予備的主張(その一)
(1) 昭和五七年八月一日から平成元年六月三〇日までの間に販売した分
仮に前記(一)(1)(ア)ないし(オ)の被告東洋の販売経費率一〇%が認められないとしても、被告東洋の昭和六二年度、昭和六三年度、平成元年度の売上に占める販売経費率の平均は13.2%である。
この販売経費率の平均値13.2%に基づいて前記(一)(1)(ア)ないし(オ)を計算しなおすと次のとおりである。
(ア) ZA―FMⅡ暫定版を改造した被告ZA―FXⅡ、被告ZA―FXⅢ三台について
被告ZA―FXⅡ、被告ZA―FXⅢに要した総原価は一台当たり八八一万九三九八円であるので、標準小売価格に対する利益率は約二一%となり、標準小売価格と利益率に基づいて被告東洋及び被告日本テクナートが得た三台分の利益の額は合計九四五万円である。原告は同額の損害を被ったものと推定される。
(イ) 被告ZA―FXⅢ一台について
被告ZA―FXⅢの製造販売に要した総原価は一台当たり六六七万六八四八円であるので、標準小売価格に対する利益率は約三五%となり、標準小売価格と利益率に基づき被告東洋及び被告日本テクナートが得た一台分の利益の額を計算すると五二五万円であり、原告は同額の損害を被ったものと推定される。
(ウ) 被告ZA―FMⅢ一三台について
被告ZA―FMⅢの製造販売に要した総原価は一台当たり二六二万三八三五円であるので、標準小売価格に対する利益率は約四八%となり、標準小売価格と利益率に基づき被告東洋及び被告日本テクナートが得た一三台分の利益の額を計算すると合計四八〇四万八〇〇〇円であり、原告は同額の損害を被ったものと推定される。
(エ) 被告CA―9一七台について
被告CA―9の製造販売に要した総原価は一台当たり一五三万一二八七円であるので、標準小売価格に対する利益率は約三一%となり、標準小売価格と利益率に基づいて被告東洋及び被告日本テクナートが得た一七台分の利益の額を計算すると合計二二一三万三〇〇〇円であり、原告は同額の損害を被ったものと推定される。
(オ) 被告MIC六台について
被告MICの製造販売に要した総原価は一台当たり二一万九五〇〇円であるので、標準小売価格に対する利益率は約六〇%となり、標準小売価格と利益率に基づいて被告東洋及び被告永井商会が被告MIC四台の販売によって得た利益の額を計算すると合計二六四万円であり、被告東洋が被告MIC二台の販売によって得た利益の額を計算すると合計一三二万円であり、その合計は三九六万円となり、原告は合計三九六万円の損害を被ったものと推定される。
(2) 別件高裁決定後の平成元年七月一日から平成三年三月三一日までの間に販売した分
仮に前記(一)(2)(ア)ないし(エ)の被告東洋の販売経費率一%の主張が認められないとしても、別件高裁決定により販売が差し止められていることを考慮すれば、別件高裁決定前の被告東洋の昭和六二年度、昭和六三年度、平成元年度の売上に占める販売経費率の平均13.2%の二分の一の6.6%とするのが相当である。
この販売経費率6.6%に基づいて前記(一)(2)(ア)ないし(エ)を計算しなおすとつぎのとおりである。
(ア) 被告ZA―FMⅢを改造した被告ZA―FXⅢ四台について
被告東洋による被告ZA―FXⅢの実績販売価格、材料原価、製造・調整・検査等の工賃は、前記(一)(2)(ア)と同様である。
したがって、被告ZA―FXⅢの改造、販売に要した総原価は一台当たり一〇三五万二三九八円であり、標準小売価格に対する利益率は約一一%となり、標準小売価格と利益率に基づいて被告東洋及び被告日本テクナートが得た四台分の利益の額を計算すると合計六六〇万円であり、原告は同額の損害を被ったものと推定される。
(イ) 被告ZA―FXⅢ二台について
被告ZA―FXⅢの製造、販売に要した総原価は一台当たり六〇〇万四八四八円であるので、標準小売価格に対する利益率は約四〇%となり、標準小売価格と利益率に基づいて被告東洋及び被告日本テクナートが得た二台分の利益の額を計算すると合計一二〇〇万円であり、原告は同額の損害を被ったものと推定される。
(ウ) 被告ZA―FMⅢ二台について
被告ZA―FMⅢの製造、販売に要した総原価は一台当たり二二六万九六三五円であるので、標準小売価格に対する利益率は約五三%となり、標準小売価格と利益率に基づいて被告東洋及び被告日本テクナートが得た二台分の利益の額を計算すると合計八一六万二〇〇〇円であり、原告は同額の損害を被ったものと推定される。
(エ) 被告MIC四台について
被告MICの製造販売に要した総原価は一台当たり一七万〇二八〇円であるので、標準小売価格に対する利益率は約六五%となり、標準小売価格と利益率に基づいて被告東洋が得た四台分の利益の額を計算すると合計二八六万円であり、原告は同額の損害を被ったものと推定される。
(3) 被告東洋、被告日本テクナートがZA―FMⅡ暫定版、ZA―FXⅡ暫定版、CA―7Ⅱを複製するために要した複製初期費用一八三五万七九一〇円は、八年間で償却されるものとするのが相当であるところ、複製初期費用を機種別の開発費、ハード、ソフトごとの開発費に分析して算出すると、被告東洋、被告日本テクナートがZA―FMⅡ暫定版プログラム、ZA―FXⅡ暫定版プログラムを複製して製造した被告ZA―FMⅢ、被告ZA―FXⅡ、被告ZA―FXⅢについての五年分の償却額は六一一万六〇〇〇円となり、CA―7Ⅱプログラムを複製して製造した被告CA―9A、被告CA―9M、被告CA―9F、被告CA―9Dについての三年分の償却額は三二一万五〇〇〇円となるから、右(1)の(ア)ないし(エ)、右(2)の(ア)ないし(ウ)の行為によって被告東洋及び被告日本テクナートが得た利益から減額される複製初期費用の償却額は、九三三万一〇〇〇円である。
よって、右(1)の(ア)ないし(エ)、右(2)の(ア)ないし(ウ)の行為によって被告東洋及び被告日本テクナートが得た利益の合計額一億一一六四万三〇〇〇円から右償却額を控除した一億〇二三一万二〇〇〇円が、被告東洋及び被告日本テクナートが得た利益として、原告が受けた損害額と推定される。
(三) 予備的主張(その二)
(1) 昭和五七年八月一日から平成元年六月三〇日までの間に、被告東洋、被告日本テクナートは、共同して、少なくともZA―FMⅡ暫定版を改造した被告ZA―FXⅡ及び被告ZA―FXⅢ三台、被告ZA―FXⅢ一台、被告ZA―FMⅢ一三台、被告CA―9(被告CA―9A、被告CA―9M、被告CA―9F、被告CA―9D)一六台を製造、販売した。
また、別件高裁決定後の平成元年七月一日から平成三年三月三一日までの間に、被告東洋、被告日本テクナートは、共同して、少なくともZA―FXⅢ二台、被告ZA―FXⅢ一台、被告ZA―FMⅢ二台を製造、販売した。
被告東洋、被告日本テクナートが右行為によって得た利益は、四二四七万五六〇六円である。
(2) 被告東洋、被告永井商会は、昭和五七年八月一日から平成元年六月三〇日までの間に、共同して、被告MIC四台を製造、販売した。
被告東洋、被告永井商会が右行為によって得た利益は、一四五万一七〇〇円である。
(3) 被告東洋は、被告MICを、昭和五七年八月一日から平成元年六月三〇日までの間に少なくとも一台、別件高裁決定後の平成元年七月一日から平成三年三月三一日までの間に少なくとも二台、各製造、販売した。
被告東洋が右行為によって得た利益は、七二万五八五〇円である。
(四) 本件各装置の販売利益に対する本件各プログラムの寄与度
本件各装置は、ハード部分もプログラムも、それぞれ密接に関係しており、ハード部分もプログラムも全く代替性のないものである。
本件各プログラムは各装置の機能を発現させるためにのみ作成されたものである。また、本件各装置のハード部分は本件各プログラムを離れて機能することは全く不可能であり、専ら本件各プログラムを有効に機能させる手段として使用されているものである。原告も被告らも、本件各装置のハード部分とプログラムを切り離して別個に販売したことは一切ない。
原告は、本件各装置に関しては、本件プログラム著作権以外には、ハードウェア部分についてもプログラムについても他に著作権や特許権等の工業所有権を有しておらず、また、他人がそれらについて著作権や特許権等の工業所有権を有してもいない。
以上のような、本件各プログラムの不代替性、装置の構成部分における重要度、他の権利の不存在、本件各装置のハード部分もデッドコピーされているという各事実からすれば、被告らが本件各装置を販売して得た利益に対する本件各プログラムの寄与度は一〇〇%である。
(五) 弁護士費用
原告は、被告らの本件著作権侵害行為に対処すべく原告訴訟代理人らを代理人として、本件訴訟に先立ち仮処分申請を委任し、金一〇〇万円の着手金を支払い、さらに本件訴訟を委任し着手金五〇万円を支払い、更に第一東京弁護士会弁護士報酬規則所定の報酬金を支払う旨約束した。被告らの本件侵害行為と相当因果関係にある弁護士費用は金五五〇万円を下らない。
(六) 損害額の結論
(1) 主位的主張
被告東洋、被告前田、被告村谷と被告日本テクナート、被告小島は、民法七〇九条、商法二六一条三項、七八条二項、民法四四条一項、七一五条、七一九条一項、商法二六六条の三の規定に基づき、連帯して、被告らの前記4(一)(1)ないし(4)、4(二)(1)ないし(3)の行為によって、前記(一)(1)(ア)ないし(エ)及び(一)(2)(ア)ないし(ウ)のとおり原告が被った損害金一億一二〇九万四〇〇〇円及び右(五)の弁護士費用相当の損害金の内五〇〇万円の合計一億二六〇九万四〇〇〇円を賠償すべき義務がある。
また、被告東洋、被告前田、被告村谷と被告永井商会、被告武部は、民法七〇九条、商法二六一条三項、七八条二項、民法四四条一項、七一五条、七一九条一項、商法二六六条の三の規定に基づき、連帯して、被告らの前記4(一)(5)(ア)の行為によって、前記(一)(1)(オ)のとおり原告が被った損害金の内二七二万八〇〇〇円及び右(五)の弁護士費用相当の損害金の内五〇万円の合計三二二万八〇〇〇円を賠償すべき義務がある。
更に、被告東洋、被告前田、被告村谷は、民法七〇九条、商法二六一条三項、七八条二項、民法四四条一項、七一五条、七一九条一項、商法二六六条の三の規定に基づき、連帯して、被告らの前記4(一)(5)(イ)及び4(二)(4)の行為によって、前記(一)(1)(オ)のとおり原告が被った損害の内一三六万四〇〇〇円及び(一)(2)(エ)のとおり原告が被った損害金三〇三万六〇〇〇円の合計四四〇万円を賠償すべき義務がある。
(2) 予備的主張(その一)
被告東洋、被告前田、被告村谷と被告日本テクナート、被告小島は、民法七〇九条、商法二六一条三項、七八条二項、民法四四条一項、七一五条、七一九条一項、商法二六六条の三の規定に基づき、連帯して、被告らの前記4(一)(1)ないし(4)、4(二)(1)ないし(3)の行為によって、前記(二)のとおり原告が被った損害金一億〇二三一万二〇〇〇円及び前記(五)の弁護士費用相当の損害金の内五〇〇万円の合計一億〇七三一万二〇〇〇円を賠償すべき義務がある。
また、被告東洋、被告前田、被告村谷と被告永井商会、被告武部は、民法七〇九条、商法二六一条三項、七八条二項、民法四四条一項、七一五条、七一九条一項、商法二六六条の三の規定に基づき、連帯して、被告らの前記4(一)(5)(ア)の行為によって前記(二)(1)(オ)のとおり原告が被った損害金の内二六四万円及び右(五)の弁護士費用相当の損害金の内五〇万円の合計三一四万円を賠償すべき義務がある。
更に、被告東洋、被告前田、被告村谷は、民法七〇九条、商法二六一条三項、七八条二項、民法四四条一項、七一五条、七一九条一項、商法二六六条の三の規定に基づき、連帯して、被告らの前記4(一)(5)(イ)及び4(二)(4)の行為によって、右(一)(1)(オ)のとおり原告が被った損害金の内一三二万円及び(一)(2)(エ)のとおり原告が被った損害金二八六万円の合計四一八万円を賠償すべき義務がある。
(3) 予備的主張(その二)
被告東洋、被告前田、被告村谷と被告日本テクナート、被告小島は、民法七〇九条、商法二六一条三項、七八条二項、民法四四条一項、七一五条、七一九条一項、商法二六六条の三の規定に基づき、連帯して、被告らの前記(三)(1)の行為によって原告が被った損害金四二四七万五六〇六円及び前記(五)の弁護士費用相当の損害金の内五〇〇万円の合計四七四七万五六〇六円を賠償すべき義務がある。
また、被告東洋、被告前田、被告村谷と被告永井商会、被告武部は、民法七〇九条、商法二六一条三項、七八条二項、民法四四条一項、七一五条、七一九条一項、商法二六六条の三の規定に基づき、連帯して、被告らの前記(三)(2)の行為によって原告が被った損害金一四五万一七〇〇円及び前記(五)の弁護士費用相当損害金の内五〇万円の合計一九五万一七〇〇円を賠償すべき義務がある。
更に、被告東洋、被告前田、被告村谷は、民法七〇九条、商法二六一条三項、七八条二項、民法四四条一項、七一五条、七一九条一項、商法二六六条の三の規定に基づき、連帯して、被告らの前記(三)(3)の行為によって原告が被った損害金七二万五八五〇円を賠償すべき義務がある。
7 謝罪広告の請求
被告東洋は、本件各プログラムの著作権が自己に帰属していないことを知りながら、顧客に対して、被告東洋が開発して開発費も払っていたにもかかわらず、下請けである原告が勝手に製造、販売を開始した、などと虚偽の事実を伝えて販売を継続している。
被告東洋が、別件高裁決定の後も、従前とほぼ同一の広告を繰り返しているので、原告は、顧客に対し、仮処分事件において原告にプログラム著作権が帰属する旨認められた(但し、被告東洋が変更したと主張するCA―9プログラムを除く)こと及び被告東洋の製品が原告のプログラムを含む全てをデッドコピーした製品であることを知らしめ、ユーザーに対し、注意を喚起するとともに、原告の製品と被告東洋の製品との混同を生じないよう注意した。
ところが、被告東洋は、その後も、社団法人日本薬学会発行の「ファルマシア」、社団法人日本農芸化学発行の「日本農芸化学会誌」等の雑誌に、従来と同一の内容の広告を掲載し続けるとともに、平成元年八月頃、原告と競合する被告東洋の取引先に対し、「システムサイエンス株式会社は昭和五二年に菅野が一人で独立し、東洋測器に『何か仕事をさせて欲しい』と訪問してきた」、「東洋測器の社外技術員の一人としてコロニーアナライザーの開発に従事させた」、「そのうち社員も増え会社組織(総員三名)として整ったのでその後は完全な製造下請けの会社として仕事を出すようになった」、「システムサイエンス株式会社は電気技術員のみでスタッフが占められ、……微生物分野の測定装置を自主開発する能力はない」、「微生物分野での測定の自動化にかかるノウハウは全て東洋にあり」、「東洋はシステムサイエンス株式会社を指導して二、三の機器を開発させた」、「開発に係わる費用はすべて東洋測器が持ち」、「システムサイエンス株式会社が作成したソフトはあまりにも無駄が多い」、「コロニーアナライザーの新規ソフトは全く問題ないと東京地裁は判断した」等の虚偽の事実を挙げ、また、別件高裁決定について、「システムサイエンス株式会社が下請けとしてソフトを作ったことに鑑み……製品の販売等しないように」との判断を下した旨故意に事実を歪曲する内容の文書を送付し、原告の営業を妨害し、かつ原告の名誉を著しく侵害する行為を行ってきた。
被告東洋が右のような文書を送付したことにより、製薬会社等の客先から原告が被告東洋の装置を勝手に作って販売しているかのように言われ、また原告の説明さえ聞こうとしない取引先さえあり、原告の名誉、信用は著しく害された。
また、被告東洋は、平成元年八月頃、取引先に対して無差別に、事実とは異なる内容を記した「システムサイエンス株式会社の件に関する事情説明書」と題する書面を送付し、客先によっては更に口頭により虚偽の事実を告げて回った。
たとえば、右書面には、「CA―7Ⅱプログラムについては、(原告の主張には)理由がないとして認められなかった」、「その三は、『システム』(原告)の主張するプログラム(本件各プログラム)や機器については、当社は、現在、全く製造、販売しておらず、当社の販売しているものは、全て当社の開発し製造したもので『システム』の主張するプログラム・機器とは関係のないものであることであります。」、「裁判所の決定は、『システム』のその余の申請を却下し、当事者の責任割合を基準に決める『申請費用及び抗告費用』はこれを二分し、『システム』が二分の一を、当社が二分の一を負担する旨決定しております。このことはその責任分担割合を均等と認めたものといってよいものであります。」、「もっと重要なことは、これら裁判所の決定が、本裁判を前提とした仮処分申請に対する決定であって、これらプログラムや機器の実質的権利については、本裁判において審理が行なわれ」、「当社は、『システム』のいうこれら機器及びプログラムの製作については、当社が多額の開発費を『システム』に対し、支払ってきたこと、そして、『システム』のいうプログラムや機器の製作に当たっては、……村谷紀夫が……指導して今日に至ったという事実」や「当社は『システム』から一方的に仕掛けられた裁判に対し、やむなく防御措置をとって斗わざるをえませんが」等と虚偽又は事実を歪曲する事実が記載されている。
被告東洋の右のような行為によって、常に独創的な装置の開発、製造に勤しんできた原告の名誉、信用が、著しく毀損された。
これを回復するためには本件各装置を現場で扱う購入、使用担当者を対象として、例えば農芸化学関係の研究者、技術者向けには「日本農芸化学会誌」、薬学関係の研究者、技術者向けには「ファルマシア」、企業の購買、工務担当者向けには「日本経済新聞」に謝罪広告を掲載させる他に途はない。
8 結論
よって、原告は、
(一) 原告と被告らとの間で、原告が本件各プログラムについて著作権を有することの確認、
(二) 著作権法一一二条、及び同法一一三条一項の規定に基づき、
(1) 被告東洋、被告日本テクナートに対する本件各プログラムの複製、翻案の差止め、
(2) 被告永井商会に対するMICプログラムの複製、翻案の差止め、
(3) 被告東洋に対する①ZA―FMⅡ暫定版プログラムを収納した被告ZA―FMⅡ、被告ZA―FMⅢ、②ZA―FXⅡ暫定版プログラムを収納した被告ZA―FXⅡ、被告ZA―FXⅢ、③CA―7Ⅱプログラムを収納した被告CA―9A、被告CA―9M、被告CA―9F、被告CA―9D、④MICプログラムを収納した被告MICの頒布、頒布のための広告、展示の差止め、
(4) 被告東洋に対する同被告の所有する右(3)項記載の各装置の廃棄、
(5) 被告日本テクナートに対する①ZA―FMⅡ暫定版を収納した被告ZA―FMⅡ、被告ZA―FMⅢ、②ZA―FXⅡ暫定版プログラムを収納した被告ZA―FXⅡ、被告ZA―FXⅢ、③CA―7Ⅱプログラムを収納した被告CA―9A、被告CA―9M、被告CA―9F、被告CA―9Dの頒布の差止め、
(6) 被告日本テクナートに対する同被告の所有する右(5)項記載の各装置の廃棄、
(7) 被告永井商会に対するMICプログラムを収納した被告MICの頒布の差止め、
(8) 被告永井商会に対する同被告の所有する右(7)項記載の装置の廃棄、
(三) 被告東洋、被告前田、被告村谷、被告永井商会、被告武部に対し、連帯して、損害金三二二万八〇〇〇円及び内金二七二万八〇〇〇円に対する昭和六一年九月二七日から、内金五〇万円に対する平成二年七月六日から、各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払い、
(四) 被告東洋、被告前田、被告村谷、被告日本テクナート、被告小島に対し、連帯して、損害金一億二六〇九万四〇〇〇円及び内金八九六六万二〇〇〇円に対する平成元年七月一日から、内金五〇〇万円に対する第一事件の訴状送達の日の翌日から、内金三一四三万二〇〇〇円に対する平成三年四月一日から、各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払い、
(五) 被告東洋、被告前田、被告村谷に対し、連帯して、損害金四四〇万円及び内金一三六万四〇〇〇円に対する平成元年七月一日から、内金三〇三万六〇〇〇円に対する平成三年四月一日から、各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払い、
(六) 被告東洋、被告前田、被告村谷に対し、民法七二三条の規定に基づき、本判決確定後六〇日以内に、
(1) 別紙記載の謝罪広告一を連名で、別紙記載の掲載規格一により株式会社日本経済新聞社発行の「日本経済新聞」紙面上に、
(2) 別紙記載の謝罪広告二を連名で、別紙記載の掲載規格二により社団法人日本薬学会発行の「ファルマシア」、社団法人日本農芸化学会発行の「日本農芸化学会誌」の各誌紙面上に、
それぞれ各一回掲載すること、
をそれぞれ求める。
二 請求の原因に対する認否
1 請求の原因1は認める。
2 請求の原因2は認める。
3 著作権の帰属について
(一) ZA―FMⅡ暫定版プログラム、ZA―FXⅡ暫定版プログラムについて
(1) 請求の原因3(一)(1)は否認する。
同(2)のうち、菅野、唐沢がいずれも原告の取締役であること、ZA―FMⅡ暫定版プログラム、ZA―FXⅡ暫定版プログラムの制作に関わったこと、唐沢が右各プログラムの具体的な制作作業に従事したことは認め、菅野及び唐沢の原告内部における業務内容や制作作業の進捗状況は知らない。原告の発意に基づくとの点は否認する。
同(3)は知らない。
同(4)のうち、原告が被告東洋にZA―FMⅡ暫定版を一一台納品したこと、ZA―FMⅡ暫定版プログラムは、ZA―FMⅡ暫定版のためにのみ作成されており、それ自体を独立したソフトウェアとして取引の対象とすることが予定されておらず、ZA―FMⅡ暫定版に製造銘板が貼付されていることは認め、原告名義で公表されたことは否認する。
ZA―FMⅡ暫定版は、被告東洋の製品として宣伝広告され、装置に貼付されている製造銘板には被告東洋を示す「TOYO」の表示があり、被告東洋の製品であることが社会的に認知されているから、被告東洋名義で公表されたものである。
同(5)のうち、菅野、唐沢と原告との内部関係は知らない。右プログラムが仮に公表されるとしたら当然に原告名義で公表される性格のものであったとの点は争う。
(2) 後記三1のとおりZA―FMⅡ暫定版プログラム、ZA―FXⅡ暫定版プログラムは、被告東洋の法人著作物である。
(二) CA―7Ⅱプログラムについて
(1) 請求の原因3(二)のうち、菅野及び唐沢がCA―7Ⅱプログラムの制作に関わったこと、唐沢が右プログラムの具体的な制作作業に従事したことは認め、菅野及び唐沢の原告内部における業務内容や制作作業の進捗状況は知らない。原告の発意に基づくとの点は否認する。
(2) 後記三1のとおりCA―7Ⅱプログラムは、被告東洋の法人著作物である。
(三) MICプログラムについて
(1) 請求の原因3(三)(1)は否認する。
同(2)のうち、菅野及び唐沢がMICプログラムの制作に関わったこと、唐沢が右プログラムの具体的な制作作業に従事したことは認め、菅野及び唐沢の原告内部における業務内容や制作作業の進捗状況は知らない。原告の発意に基づくとの点は否認する。
同(3)のうち、MICプログラムがMICのためにのみ作成されている点は認め、その余は否認する。
同(4)のうち、菅野あるいは唐沢と原告との内部関係は知らない。右プログラムが仮に公表されるとしたら当然に原告名義で公表される性格のものであったとの点は争う。
(2) 後記三1のとおりMICプログラムは、被告東洋の法人著作物である。
(四) 請求の原因3(四)は知らない。
4 確認の利益及び被告らの権利侵害行為について
被告らが、本件各プログラムの著作権が被告東洋に帰属すると主張して、原告が本件各プログラムの著作権を有することを争っていることは認める。
(一) 昭和五七年八月一日から平成元年六月三〇日までの間の侵害行為
(1) 請求の原因4(一)(1)のうち、被告東洋が、被告日本テクナートに対し、ZA―FXⅡ暫定版と同様の装置の製作を依頼し、これを受諾した被告日本テクナートが、原告が被告東洋に既に納入し在庫となっていたZA―FMⅡ暫定版三合を被告ZA―FXⅡに改造し、被告東洋が、右被告ZA―FXⅡ三台の納品を受けて右期間に販売したとの事実は認める。
右被告ZA―FXⅡ三台の内昭和六三年六月二七日分一台については、被告日本テクナートが六〇検体用のX―Yテーブル及びソフトを作ったもので、ZA―FXⅡ暫定版プログラムの複製、収納と評価すべき余地はない。
(2) 請求の原因4(一)(2)は認める。ただし、被告日本テクナートが製造した被告ZA―FMⅢを被告ZA―FXⅢに改造したものである。
(3) 請求の原因4(一)(3)は認める。
(4) 請求の原因4(一)(4)は、被告CA―9一六台について認め、その余は否認する。
被告らは、準備書面(七)で、被告東洋が被告日本テクナートから納品を受けて販売したCA―9は一七台であることを認めたが、台帳を再度検討したところ重複記載した例があり、被告東洋が被告日本テクナートの納品を受けて販売した被告CA―9A、被告CA―9M、被告CA―9F、被告CA―9DでCA―7Ⅱプログラムが収納されたものは合計一六台である。
(5) 請求の原因4(一)(5)(ア)は認める。同(イ)は、被告MIC一台について認めその余は否認する。
甲第一七五号証記載の「CA―9用MIC測定システム」は「CA―9」の誤記であり、これは、昭和六二年一〇月二二日に販売した被告CA―9Aとして乙第四一号証に記載されているものに相当する。
(二) 別件高裁決定後である平成元年七月一日から平成三年三月三一日までの間の侵害行為
(1) 請求の原因4(二)(1)は、被告東洋が、別件高裁決定前に販売した被告ZA―FMⅢ二台を客の依頼により被告ZA―FXⅢに改造し、これを右期間に客に納品した限度で認め、その余は否認する。
右別件高裁決定前に販売した被告ZA―FMⅢ二台は、請求の原因4(一)(3)に計上されているものである。
被告日本テクナートは、被告ZA―FⅢのハードウェアを製造して被告東洋に納入したが、プログラムは収納していない。このハードウェアには新しいプログラムが収納されている。
(2) 請求の原因4(二)(2)は、被告東洋が被告ZA―FXⅢ一台を販売したことは認め、その余は否認する。
被告東洋は、顧客に販売前の被告ZA―FMⅢ一台を被告ZA―FXⅢに改造して販売した。
被告日本テクナートは、被告ZA―FⅢのハードウェアを製造して被告東洋に納入したが、プログラムは収納していないことは右1のとおりである。
(3) 請求の原因4(二)(3)中、被告東洋が被告ZA―FMⅢ二台を販売したことは認め、その余は否認する。
被告東洋は、顧客との間で、別件高裁決定前に納入する約束をしていたのに、遅れて在庫のままであった被告ZA―FMⅢ二台を、別件高裁決定後に納入したものである。
(4) 請求の原因4(二)(4)は、被告MIC二台について認め、その余は否認する。
原告主張の一台(甲第一八〇号証)は、顧客から「研究で比濁法と寒天平板法との比較データを採りたいので貸してくれないか」との依頼があったために被告東洋の在庫のMICを無料で貸し出して、これがそのままになっていたところ、数年後、右顧客が新たに右装置関係のソフト等の導入が必要となり、そのため費用(予算)を捻出するために右の被告MICを購入した取り扱いにしたのである。したがって被告東洋としては同顧客にMICを販売したことも、それによって利益を得たこともない。
(三) 請求の原因4(三)は否認する。
被告東洋の代表者であった被告前田、取締役であった被告村谷は、右各プログラムの著作権が被告東洋に帰属していると確信していたものである。
(四) 請求の原因4(四)は否認する。
被告日本テクナートの代表者の被告小島は本件各プログラムの著作権が被告東洋にあると理解しており、一点の疑念も持っていなかった。
下請けが注文者に技術的資料を渡さずに抱え込んでいる例は稀ではなく、注文者も現に発注している機械の技術的資料はそのまま下請けに持たせている。被告日本テクナートは、被告東洋が技術的資料をもっていなかったこともよくありがちなことと受け止めたのである。
また、受注者である被告日本テクナートが、注文者である被告東洋と紛争関係にある第三者である原告に、被告東洋と原告との間の紛争に関連する内部関係を問い合わせる義務はない。
更に、原告の卸値には開発費用が加算されているのに、被告日本テクナートの卸値には開発費用が含まれていないこと(別途請求する取扱いであった。)、原告は納品価格の吊り上げが目立ったのに、被告日本テクナートは納品価格の低減に努力したことからすれば、卸値の高低をもって被告日本テクナートの故意又は重過失の根拠とすることはできない。
(五) 請求の原因4(五)は否認する。
被告東洋と被告日本テクナートは、資本参加や役員の派遣の関係のない全く別個独立の企業体であり、ただ、本件で対象となっている装置について、被告日本テクナートが被告東洋から注文を受けて、その製造を請け負ったにすぎない。このような請負契約関係をもって客観的な関連共同があるとはいえない。
(六) 請求の原因4(六)は否認する。
(七) 請求の原因4(七)は否認する。
被告永井商会の代表者被告武部は、右プログラムの著作権が被告東洋に帰属していると確信していた。
被告東洋が、原告の指摘する重要な書類を持たなかったことを理由に被告永井商会に重過失があったということはできない。
また、受注者である被告永井商会が、当該装置の従前の受注者である原告と注文者である被告東洋との内部関係を原告に問い合わせるべき義務はない。
(八) 請求の原因4(八)は否認する。
被告東洋と被告永井商会は、全く別個独立の企業体であり、ただ、本件で対象となっている装置について、被告永井商会が被告東洋から注文を受けて、その製造を請け負ったにすぎない。このような請負契約関係をもって客観的な関連共同があるとはいえない。
(九) 請求の原因4(九)は否認する。
5 請求の原因5は争う。
被告東洋が、現在カタログを作り販売しているゾーンアナライザーZA―FMⅢ、コロニーアナライザーCA―9Aには被告東洋が独自に開発したプログラムを収納している。したがって、原告製造の同等機種ZA―FMⅡ暫定版、CA―7Ⅱとは全く別機種である。
被告日本テクナートは、仮処分決定の前の段階で本件各プログラムの複製等を中止しているから、被告日本テクナートに対する差し止めの必要性はない。
また、本件各プログラムをROMに記憶させる行為が複製であるとしても、各プログラムを収納した装置は、「侵害の行為を組成した物」でも「侵害の行為によって作成された物」でもなく、その他著作権法一一二条二項に定める物には該当しない。したがって、各プログラムを収納した装置を差止め、廃棄の対象とすることはできない。
6 損害額について
(一) 請求の原因6の内(五)は知らない。その余は全て争う。
(二) 本件において著作権法一一四条一項の適用はない。
すなわち、著作物の無断複製・利用等によって著作権者が受ける「損害」とは、複製、利用行為そのものによって著作権者が被った損害である。
本件の著作物たる本件各プログラムについて原告が著作権法一一四条一項を援用しようとする場合、本件各プログラムを複製、利用することによって原告が著作権者として得べかりし利益に対応する被告東洋の得た利益を主張し立証しなければならない。
ところで、本件各機器は、それぞれ役割を与えられた部品群が有機的に結合、作動してはじめて財貨としての意義を持つものであり、部品一つ一つだけでは全くの無価値であり何の役にも立たない。本件に則していえば、原告が本件各プログラムだけを取り出してその価値を主張しても、本件各プログラムだけでは何の商品価値も認められない。
本件各プログラムは、本件各機器の一個の部品として他の部品と有機的に結合して初めて機器として商品価値が認められるにすぎないから、仮にこれ自体について原告の得べかりし利益を想定することが可能であるとしても、これと部品たる本件各プログラムを内蔵した機器を販売することによって得られた利益との間には何らの論理的対応関係も認めることができない。つまり販売利益額を損害額として推定すべき基礎を欠くのであり、このような場合には著作権法一一四条一項は適用されない。
本件で対象となっている各機器の構造の中では測定装置部がメインである、本件各プログラムは右測定装置を効率的に作動させる手段的なものであること、微生物関係を扱う特定分野を市場とするものであることから販売に当たっては営業努力が大きな要因となること等を考慮すれば、各機器の販売による利益に対する本件各プログラムの寄与率は極めて小さい。
(三) 仮に、本件において著作権法一一四条一項の適用があるとしても、原告の損害額の算定は、主位的主張も予備的主張も全て争う。
まず、著作権法一一四条一項にいう「利益」とは、被告らがそれぞれの「行為」によって得た利益である。利益額は、いわゆる純利益として算出すべきもの、換言すれば、被告らが現実に得ることができたと評価できるものでなければならない。そうすると、右規定の「利益」とは、売上高から売上原価を差し引いて算出された売上総利益から、更に販売費、一般管理費(給与、賞与その他の人件費、通信費、旅費交通費、賃借料、広告宣伝費、運搬費、保管費、荷作費等の諸費用)、営業外損益及び特別損益を差し引いた純利益である。
被告東洋による本件各機器の実際の販売価格、商品原価、経費は、別紙期別売り上げ利益一覧表のとおりである。右一覧表のとおり、被告東洋の利益額の合計は多くとも二七五五万三八八八円であるが、他方、被告テクナートは三九五七万円の赤字であり、結局、被告らは、本件において利益を得ていない。
(四) 仮に、原告の損害額の算定によるとしても、その算定方法は争う。
(1) 被告日本テクナートの時間単価を四〇〇〇円とするとの点は争う。
(2) 被告東洋の経費を一〇%とする点は争う。
被告東洋の展開する販売関係の業務は、取扱機器についての需要が特殊専門化しており、しかもしばしば潜在化しているので需要の掘り起しに相当の企業努力が強いられ、しかも一台の単価が比較的高いこともあって取引関係の成立まで数年を要し、その間、数限りない訪問、説明、資料提出その他の働き掛けを重ねる。その過程で莫大な販売経費を投下している。したがって、販売経費が実際の販売価格(原告のいう実績販売価格)の一〇%で収まるということはありえない。
また、一つ一つの売上げは、被告東洋の一体となった企業活動の成果として具体化する。営業部門の社員の販売活動だけで売上げが成り立つわけではなく、営業活動の本拠(事務所)が確保され、在庫の管理、保管が適切になされ、技術(工場)部門による営業活動の支えがあって初めて成り立つものである。営業、技術(工場)、事務の各業務は、直接・間接に製品の販売に寄与しており、これらがなければ企業活動としての販売活動は不可能である。それゆえ諸経費のうち「販売経費」のみを取り上げる計算では、投下された経費を過小に評価することになる。
7 請求の原因7は争う。
別件仮処分事件について、東京地方裁判所では原告の申請が全て退けられ、その抗告審の別件高裁決定では、原告の申請の一部が認容されたものの、CA―7Ⅱプログラム、被告CA―9は右差止め決定の対象外となった。
ところが、原告は、平成元年七月二七日付けで、別件高裁決定の一部を複写したものを添付した「デッドコピー製品についての御注意」と題する、被告東洋の名誉を毀損し、業務を妨害する書面を被告東洋の取引先に頒布した。右文書の内容は、概ね次のとおりのものであった。
「従前、東洋測器(株)は、当社が権利を有するコロニーアナライザーCA―7Ⅱ、ゾーンアナライザーZA―FMⅡ、ZA―FXⅡ、画像処理法MIC装置を販売しておりましたが、昭和六一年五月をもって販売関係を解消いたしました。東洋測器(株)は、当社の各装置のデッドコピー(複製)を行い、それぞれコロニーアナライザーCA―9、ゾーンアナライザーZA―FMⅢ、ZA―FXⅢ、画像処理法MIC装置と紛らわしい名称で販売してまいりました。これに対し、当社は東京地方裁判所に裁判を起こしましたが、東洋測器(株)がプログラムのデッドコピーを中止するということを約束したため差止の決定が出されませんでしたが、この度、東京高等裁判所において、これら東洋測器(株)の各装置が当社の各装置のプログラム著作権を侵害していることが認められ、平成一年六月二〇日付で各装置について、製造、販売、広告、展示の差止の決定が出されました。但し、CA―9については平成一年一月中旬に東洋測器(株)がプログラム変更を行い、変更前(平成一年一月中旬以前)の装置は販売しないということを約束したため、販売差止が出されませんでした。しかし、東洋測器(株)の上記各装置は当社のプログラム、ハードウェアを共に全くデッドコピーしていた製品であり、性能、仕様共に当社の現在の製品(CA―7Ⅱ、ZA―FMⅡ、ZA―FXⅡ、MIC装置)と大きく異なりますので、混同され、ご迷惑を被らぬ様に御注意申し上げます。」
原告の頒布した右文書は文字どおり公然事実を摘示し、被告東洋の名誉、信用を毀損するものであると同時に被告東洋の営業を妨害するものである。
被告東洋は、右のような原告の名誉毀損、業務妨害行為に困惑して被告東洋に問い合わせを行った顧客に対し、個別に原告主張の文書を配布し、事情を説明したものにすぎない。
8 請求の原因8は争う。
三 被告らの主張
1 本件各プログラムは、被告東洋を権利帰属主体とする法人著作である。
(一) 被告東洋は、昭和四八年四月に設立された微生物関係の測定機器等を専門とする製造販売会社である。
被告東洋は、かねてよりこの分野の測定機の製品化のための専門的知識、情報を有しており、本件各機器はこのような知識・情報をもとに製品化された。
すなわち本件各機器は、微生物関係の測定機であり、検体の科学的特徴や測定内容・測定技法に関し専門的知識を有し、研究測定作業現場における具体的な要望を把握してはじめて開発可能なものである。
一方、原告にそのようなノウ・ハウはなかった。電子工学、システム工学、機械工学関係の人員はいたとしても、検査対象の微生物関係の知識を有するものは皆無であった。コンピュータ・プログラミング技術があっても、何を、どういう目的で、どのような尺度で測定し、そのためには如何なる構造の機械に、如何なる機能を持たせるかが定まらなければ、測定機械の開発は不能である。原告にはその前提となる能力がなかった。
(二) 被告東洋は測定機器の製造販売を目的とする会社であるが、開発を決定した機器を製品化する際の製造作業は外注することにしていた。当該機器がコンピュータを使用する場合には、製造外注の中にはプログラム作成作業も含まれていた。
昭和五二年、訴外SIC退社後、菅野が被告東洋に仕事を求めて来たのも、被告東洋が右のように製品の製造を外注する体制をとっていたことを知悉しており、それを前提に被告東洋製品の製造を菅野あるいは同人の設立にかかる原告において受け持つことを企図してのものであった。
原告は、こうして被告東洋の開発した諸製品の製造を担当する会社として出発した。その製造にはプログラム作成も含まれた。法人格こそ別であるが、数人の技術者を擁するにすぎない原告は被告東洋のいわば製造部門、更にはプログラミング部門という位置付けの存在であった。被告東洋の与えるアイデアや資料をもとに、被告東洋の指示・指導を受けて原告の技術者が製造作業を行うというのがその実態であった。
(三) 原告の人的構成は変遷があったが、概していえば、菅野、唐沢、井上の三名が中心となり、それに数名の社員がいるだけという実態であった。
そのうちプログラミングの技術者は唐沢であり、同人以外では、菅野はシステム設計、井上は板金・機構設計、片岡は基盤・回路設計という職務分担となっていた。つまり原告はソフト技術者一人、ハード関係の技術者二〜三人という陣容の企業であり、いわゆるソフト開発会社でもなければ微生物関係の測定機器を自主開発できるような会社でもなく、外部から企画や製品仕様を具体的に提示され、その製造作業を受注してはじめて業務活動が成り立つ会社である。
実際のところ、創立から暫くの間、原告にとってほぼ唯一の発注元となったのが被告東洋であった。原告は、被告東洋に依存してのみ存続可能な企業として出発したもので、ゾーンアナライザーZA―F、コロニーアナライザーCA―7、MICなどの機器が開発された当初の五年間において、原告の総売上において被告東洋に対する売上の占める割合は九〇%を越えていた。原告が、被告東洋のいわば製造部門(さらにはプログラミング部門)という位置付けの存在であったというのはこの意味である。
被告東洋と原告間に存在した通常の外注関係を越える一体性や被告東洋と原告の技術者との間の指揮監督関係の基盤になっていたのも、こうした企業としての能力の違いや経済的な依存性からくる被告東洋の原告に対する主導性である。原告そして原告の技術者は被告東洋の主導性のもとでこれに従いながら作業せざるを得なかったのである。
(四) 製品の開発は、資金力を背景に、需要を把握する力と製品の企画力そして実用化し得る技術力が総合されて初めて可能となる。本件各機器の開発においては、被告東洋が顧客の需要をとらえ、製品の企画を練ってこれを定め、これに基づいて原告が実用化の作業を行った。本件各機器は技術的に特に新規なものが含まれているわけではなく、既存の技術の組み合わせや応用によって製造することが可能なものであった。その意味で、製品の企画(機器の基本構造と基本動作をどのようなものにするか。具体的な製品像)が決まれば、実用化にさほどの困難はないもので、需要の把握と製品企画が開発の決定的な要素であった。それを行ったのが被告東洋である。
(五) 被告東洋と原告の技術者との間には、法人著作として被告東洋に本件各機器のプログラムの著作権を帰属させるのに必要な指揮監督関係があった。
すなわち、第一に、開発の全過程を主導したのは被告東洋であり、原告の技術者はこれに従って製品の具体化作業を担当したに過ぎない。こうした被告東洋の主導性は被告東洋と原告間に存在した特殊な企業関係の反映であり、原告そして原告の技術者は被告東洋の主導性のもとでこれに従いながら作業せざるを得なかった。
第二に、被告東洋が、製品の具体化に必要な資料、情報を供与した。原告の技術者に参考機器を分析させたり(例えば、コロニーアナライザーの先行機器であるNBS社製コロニーカウンター。その資料として「NBS社自動コロニーカウンター取扱説明書」(乙第六号証)、必要な技術資料(例えば、ゾーンアナライザーの先行機器であるゾーンプロセッサーFの開発資料で、訴外SICから被告東洋が取得したもの。(乙第七号))その他の関連資料(例えば、関連または類似する機器の取扱説明書その他の資料。あるいは乙第八号証のような論文)を供与したりした。
第三に、被告東洋は、右の資料、情報の供与とともに、あるいはこれと別途に、多様な形態で製作過程を統制していた。資料、情報の供与だけで素人である原告の技術者が企画を理解し現実の製造作業に入れるわけではなく、被告東洋による説明や指示が必要である。被告東洋は、原告の技術者と常に密接に接触しながら、開発の初期段階では市場の状況や製品像の概要を説明し、次いで、具体的な製品仕様を定め、製造過程においても逐次生ずる機能、技術面の諸問題に対処し、必要な指示や決定を行って製品を完成に導いた。
このような事実関係からすれば、被告東洋の社員が作業現場に臨んで陣頭指揮をしながら文字どおり原告の技術者を手足として具体的な製造作業を行ったような事実はないにしても、原告の技術者は、その作業の全過程において被告東洋が製品企画、製品仕様、機能や改善点の指摘、資料の提供などを通じて行った製品製造のための各種指示に従って作業をしなければならない立場にあり、これに反して作業することのできない状況にあったということができ、本件各機器の製造過程が、プログラムの制作作業を含めて、被告東洋の指揮監督のもとで進められたものである。
(六) 本件各プログラム自体に被告東洋名義の表示はないけれども、本件各プログラムについて被告東洋名義での公表があったと解して差し支えない。
昭和六〇年法律第六二号による改正前の著作権法一五条に「公表」の要件が設けられた趣旨は、法人名義で公表される著作物であれば、対外的にも法人のものとして受け取られるであろうし、当事者(特に制作者)としても法人が著作権の主体としての地位に就くことを当然のこととして予想するであろうとの考慮に基づくものである。しかし、公表がなくとも法人の発意に基づき法人の業務に従事する者が職務上これを作成したときには、その著作物の著作権が法人に帰属することを予定しているのがむしろ通常のあり方であろう。その意味で公表の要件の存在意義には疑問があり、少なくとも厳密な意味で法人名義の公表を要求して徒に法人著作の成立範囲を狭くするのは法人著作を認めた趣旨にも反することになろう。したがって適宜これを緩やかに認定すべきである。
原告も主張するように、本件各プログラムは本件各装置のためにのみ作成されており、それ自体独立したソフトウェアとして取引の対象とすることは予定されておらず、また、物理的にも本件各装置の部品の一つであるROMに記憶された上でROMそのものとともに本件各装置のハードウェアに組み込まれた存在である。特段のことのない限り右ROMは本件各装置と物理的にも法的にも一体となって処理される。
そして本件各装置は、被告東洋の製品として宣伝広告され、装置自体にも「TOYO」という表示プレートが付着されている。つまり、東洋測器の製品であることが表示されかつ社会的に認知されている。装置自体がそうである限り、その部品たるROMについても、更には、ROMに収納された本件各プログラムについても被告東洋名義での公表があったとして差し支えない。
(七) 被告東洋が自ら企画し、仕様を定め、製造のために必要な技術資料を与え、製造過程においても適宜指示を与えて作られたものが本件各装置とその使用に供される本件各プログラムである。それは被告東洋の発意に基づき被告東洋の業務に従事する原告の技術者が職務上作成したものとしての実態を有している。完成後は、本件各プログラムの作成費用を含めた開発費用を被告東洋が負担している。これらの事実に加え原告と被告東洋との取引関係の実態を勘案すれば、本件各プログラムにつき被告東洋に法人著作が成立したことは明らかである。
2 仮に右1の主張が認められないとしても、被告東洋は、次のとおり、原告から、本件各プログラムの著作権をそれぞれ有償で取得した。
(一) 被告東洋と原告とは、被告東洋が企画したZA―FMⅡ暫定版、ZA―FXⅡ暫定版、CA―7Ⅱ、MICを外注先たる原告が製造しこれを被告東洋に納品する旨の有償契約を各締結していた。
(二) ZA―FMⅡ暫定版プログラム、ZA―FXⅡ暫定版プログラムは、ZA―FMⅡ暫定版、ZA―FXⅡ暫定版の、CA―7ⅡプログラムはCA―7Ⅱの、MICプログラムはMICの、それぞれいわば一部品として右装置に関する権利関係に当然に従属、付随するものである。
すなわち、本件各プログラムは、ZA―FMⅡ暫定版、ZA―FXⅡ暫定版、CA―7Ⅱ、MICの各一部品であるROMに収納されて右各装置に組み込まれており、右各装置を作動させる際に所定の役割を果たす限りで意味のあるものであり、右各装置のハードウェア以外のハードウェアの使用に供しえず、独立のソフトウェアとして流通におかれることも予定されていないものである。しかも、右各装置においてソフトウェアの果たす役割は小さく、右各プログラムの技術水準も高いものではない。そのため、被告東洋と原告との間の取引において、右各装置の製造、発注と右各プログラムの製造、発注は一体化されており、後者は前者に当然に含まれるものとして取り扱われていた。
(三) 被告東洋は、本件各プログラム取得の対価として、開発費用(ハードウェアの設計、試作費、ソフトウェアの設計、デバッグ費、いいかえれば、被告東洋より基本設計仕様を呈示、説明されてから製品が完成するまでの間に原告が製品完成のために行った作業の費用)を負担した。
(四) したがって、被告東洋は、原告が受注したZA―FMⅡ暫定版、ZA―FXⅡ暫定版、CA―7Ⅱ、MICの各一号機を完成し納品した時点で、右各装置に対する権利とともにZA―FMⅡ暫定版プログラム、ZA―FXⅡ暫定版プログラム、CA―7Ⅱプログラム、MICプログラムの著作権を取得した。
3 請求原因7において原告が主張する被告東洋が送付した文書の記載内容はいずれも真実である。
四 被告らの主張に対する認否
被告らの主張はいずれも否認する。
第三 証拠関係
本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 請求の原因1の各事実は、当事者間に争いがない。
二 請求の原因2の事実は、当事者間に争いがない。
三 著作権の帰属について判断する。
1 請求の原因3(一)のうち、菅野及び唐沢がいずれも原告の取締役であること、菅野及び唐沢がZA―FMⅡ暫定版プログラム、ZA―FXⅡ暫定版プログラムの制作に関わったこと、唐沢が右各プログラムの具体的な制作作業に従事したとの事実は、当事者間に争いがない。
弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第四三号証、甲第四四号証の一ないし三、甲第四五号証、甲第四六号証、甲第四七号証の一及び二、甲第一三五号証、弁論の全趣旨により原本の存在及び真正な成立が認められる甲第一三六号証、成立に争いのない甲第一五二号証、原告代表者本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第一九二号証並びに弁論の全趣旨によれば、菅野、唐沢は、昭和五九年一一月頃からZA―FⅡのシステム分析検討、プログラムの仕様検討を行い(以上両名共同)、ZA―FMⅡ暫定版プログラム・ZA―FXⅡ暫定版プログラムのゼネラルフローチャート及びディテイルフローチャートを作成し、右ディテイルフローチャートをアッセンブラー言語でコーディングして手書きのソースプログラムを作成し、これを電子計算機に入力し、アッセンブルしてオブジェクトプログラムを作成し、デバッグを行い(以上唐沢単独)、最後に総合テストを行って(両名共同)、昭和六〇年九月下旬頃、右各プログラムを完成させたことが認められる。
また別紙物件目録一(一)及び(二)、とりわけ別紙添付オブジェクトプログラム一及び二の記載、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第二三号証、甲第一〇六号証、前記甲第一五二号証及び弁論の全趣旨によれば、ZA―FXⅡ暫定版はX―Yテーブルを備えているのに対して、ZA―FMⅡ暫定版はこれを備えておらず、逆に、ZA―FMⅡ暫定版はマイクロヘッドを備えているのに対して、ZA―FXⅡ暫定版はこれを備えていない点に機構上の相違がある他はほぼ同様であること、プログラムの面においては、ZA―FMⅡ暫定版の回路基盤に装着されたROMには、ZA―FXⅡ暫定版プログラムが収納されており、同プログラムの中のX―Yテーブルの操作に関する部分については、ZA―FXⅡ暫定版にあるX―Yテーブルのスイッチによって作動するようにしてあること、したがって、ZA―FMⅡ暫定版では、そのROM内に収納されたZA―FXⅡ暫定版プログラムのうちX―Yテーブルの操作に関する部分をハード面において使用しないようにしているものであり、その状態を念頭において、ZA―FXⅡ暫定版プログラムからX―Yテーブルの操作に関する部分を除外したものを、本件では、ZA―FMⅡ暫定版プログラムとしていることが認められる。
2 請求の原因3(二)のうち、菅野及び唐沢がCA―7Ⅱプログラムの制作に関わったこと、唐沢が本件各プログラムの具体的な制作作業に従事したことは、当事者間に争いがない。
弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第三六号証、甲第四八号証、甲第四九号証、甲第五〇号証の一及び二、甲第一三七号証、前記甲第一五二号証並びに弁論の全趣旨によれば、菅野及び唐沢は、昭和六〇年一〇月頃から、CA―7Ⅱのシステム分析検討、プログラム仕様検討を行い(以上両名共同)、次に、ゼネラルフローチャート、ディテイルフローチャートの作成を行い、右ディテイルフローチャートをアッセンブラー言語でコーディングして手書きのソースプログラムを作成し、これを電子計算機に入力し、アッセンブルしてオブジェクトプログラムを作成し、デバッグを行い(以上唐沢単独)、最後に、総合テストを行い(両名共同)、遅くとも昭和六一年三月二〇日頃までにCA―7Ⅱのプログラムを完成させたものと認められる。
3 請求の原因3(三)のうち、菅野及び唐沢がMICプログラムの制作に関わったこと、唐沢が本件各プログラムの具体的な制作作業に従事したことは、当事者間に争いがない。
弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第三七号証、甲第五一号証ないし甲第五三号証、弁論の全趣旨により原本の存在及び真正な成立が認められる甲第一二五号証、前記甲第一五二号証並びに弁論の全趣旨によれば、菅野及び唐沢は、昭和五四年一一月頃からMICのシステム分析検討、プログラムの仕様検討を行い(以上両名共同)、次に、MICプログラムのゼネラルフローチャート、ディテイルフローチャートを作成し、右ディテイルフローチャートをアッセンブラー言語でコーディングして手書きのソースプログラムを作成し、これを電子計算機に入力し、アッセンブルしてオブジェクトプログラムを作成し、デバッグを行い(以上唐沢単独)、最後に、総合テストを行い(両名共同)、昭和五五年四月頃までに一応プログラムを完成したが、昭和五六年一月から三月にかけて、前記両名においてこれに改良を加えて、MICプログラムを最終的に完成させたことが認められる。
4 成立に争いのない甲第八号証の二ないし四、甲第一五号証、甲第一七号証、甲第二五号証、甲第二六号証、甲第五七号証の一、甲第七九号証の一ないし一〇、甲第九七号証、乙第九号証の一及び二、乙第一一号証、乙第一三号証、乙第一七号証の一、三、乙第二〇号証、乙第二六号証、原本の存在及び成立ともに争いのない甲第一二九号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第一〇号証、甲第一二号証、甲第一三号証、甲第九八号証の二、甲第一〇〇号証、甲第一〇四号証、甲第一二四号証、甲第一三一号証、甲第一五九号証、乙第二五号証の一、乙第四九号証の一ないし九四、乙第五〇号証の一ないし三〇、被告村谷本人尋問の結果により真正に成立したと認められる乙第五五号証(後記信用できない部分を除く)、弁論の全趣旨により原本の存在及び真正な成立が認められる甲第一三三号証、前記甲第二三号証、前記甲第一五二号証(後記信用できない部分を除く)、前記甲第一九二号証(後記信用できない部分を除く)、証人唐沢誠の証言、原告代表者尋問の結果、被告前田本人兼被告東洋代表者尋問(以下「被告前田本人尋問」という。)の結果、被告村谷本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
前記甲第一五二号証、甲第一九二号証、乙第五五号証、証人唐沢誠の証言、原告代表者尋問の結果、被告前田本人尋問の結果中の次の認定に反する部分は信用することができない。
(一) 被告東洋は、分析機器、計測機、医療機器の製造、販売、輸出入を目的とし、昭和四八年四月一七日に設立された会社であり、設立当初の資本の額は一〇〇万円であったが、三回の増資の後、昭和五九年九月に二〇〇〇万円に増資した。被告東洋は、製薬会社、医療機関等を主な取引先としており、製造業者に製造させた自社ブランドの医療機器、理化学機器等を販売するなどの事業を営んでいた。
(二) 被告東洋は、昭和五〇年頃、顧客の明治製菓株式会社から、新たな阻止円測定装置の製作依頼を受け、これを訴外システムインスツルメンツ株式会社(以下「SIC」という。)に製造依頼した。これを受諾したSICでは、同社の技術担当者であった菅野、唐沢らがその製作に当たり、新たな阻止円自動測定装置ゾーンプロセッサー―Fを完成させて、被告東洋に納品した。
(三) 菅野は、昭和五二年四月にSICを退社するとともに、同月から、「システムサイエンス」との名称で、計測、制御システム機器の設計、製作等に関する個人事業を開始し、原告は、同年七月二二日の設立と同時に菅野の上記事業を引き継いだ。菅野は、原告の代表取締役に就任し、唐沢は、同年一〇月に原告の取締役に就任した。
(四) 原告は、計測、制御システム機器の設計、製造、販売を行うことを主な目的として、昭和五二年七月二二日に設立された株式会社であり、設立当初の資本の額は五〇〇万円であったが、三回の増資を経て、昭和六〇年七月には三一五〇万円となった。
(五) 被告東洋は、昭和五一年頃、明治製菓株式会社薬品開発研究所より、新たな大型平板用寒天培地自動せん孔機の製造依頼を受けていたところ、昭和五二年四月ないし六月頃、菅野に、右機器の製造を依頼した。これを受諾した菅野及び菅野の事業を引き継いだ原告は、仕様書を作成して被告東洋に提出するとともに、大型平板用寒天培地自動せん孔機、ゾーンパンチャーを製作し、同年一一月二一日頃にこれを納品した。被告東洋は、その製品対価として一五〇万円を支払うとともに、原告の要望により、原告の右機器開発に関する出費の一部を負担することにして「初期開発費の一部」との名目で別途四〇万円を支払った。
原告は、その後の被告東洋との取引で、ゾーンパンチャーの根本的な改良を要する時には、製品の対価とは別個に開発費を要求し、昭和五三年五月頃から昭和五八年六月頃までの間に、ゾーンパンチャーを少なくとも三台納品した。原告は、昭和五三年五月三一日頃に納品の二号機については、開発費の請求をせず、製品対価一五〇万円のみ請求したが、昭和五六年一月一〇日頃に納品した三号機については、開発費の名目ではなかったが、製品対価を一九〇万円に値上げして請求し、昭和五八年六月二一日頃に納品した四号機では、製品対価を二五〇万円に値上げして請求し、これに対して、被告東洋は、特段の異議を申立てることもなく原告の請求どおりに支払っていた。
(六) 被告東洋は、昭和五一年一〇月頃、SICに、NBS製コロニーカウンターと同様の機器の製作を依頼したが断られたため、菅野や原告に製作の検討を依頼した。原告は被告東洋の顧客の有するNBS製コロニーカウンターの修理を引き受ける外、種々検討の結果、昭和五二年八月頃、見積書と概説書を被告東洋に提出したところ、被告東洋は、同年一〇月その製作を発注した。これを受諾した原告は、装置及びプログラムの製作に着手し、コロニーカウンターより性能を高めた改良機器コロニーアナライザーCA―7(以下「CA―7」という。)を製作して、昭和五三年五月頃までに、これを被告東洋に納品した。被告東洋は、その製品対価として一八〇万円を支払うとともに、原告の要望により、一号機の受注時のみに支払うとの約束で、原告の右機器開発に関する出費の一部を負担することにして「開発分担金」の名目で別途四〇万円を支払った。
原告は、CA―7の二号機ないし一〇号機については、開発分担金名目の請求をせずに、製品対価を二二〇万円に引き上げた。これに対して、被告東洋は、特段の異議を申立てることもなく原告の請求どおりに支払っていた。
CA―7は、原告及び被告東洋の売れ筋商品となり、原告は、これを量産し、被告東洋は、販路拡大に努力し、昭和六一年一〇月頃までの間に、CA―7一〇〇台以上の納品を受けて、販売した。
(七) 被告東洋は、明治製菓株式会社から、CA―7のオプションシステムである画像処理法最小発育阻止濃度測定装置(MIC)の製造を検討するよう依頼を受け、昭和五四年秋頃原告に製造の検討を依頼し、原告はこれを引き受け、菅野が明治製菓の担当者と技術的打合せを重ねて、原告内部でシステム分析検討、プログラム仕様検討その他の検討を進め、概略仕様書を作成して、被告東洋、明治製菓に示し、昭和五五年一月頃には、明治製菓向けのMICの見積書を被告東洋に提出した。被告東洋はこの見積書等に基づいて顧客の開拓に当たり、原告は、MICの装置部分を設計し、製作するとともに、前記3認定のとおり昭和五五年四月頃にはMICプログラムを一応作成し、昭和五六年一月から三月にかけて改良し、MICプログラムを完成して、MIC装置の回路基盤のROMに収納して複製し、完成したMICを、昭和五六年三月一四日頃、その頃までに注文を受けていた明治製菓向けのものとして、被告東洋に納品し、被告東洋は明治製菓に納品した。被告東洋は、その対価として四〇万円、CA―7の改良費として五万円を支払った。また、原告は、同年五月二三日頃二号機を被告東洋に納入した。
(八) 被告東洋は、昭和五四年の秋頃以降、SICとの取引を停止され、同社からゾーンプロセッサー―Fを購入することができなくなったため、その頃、原告に、ゾーンプロセッサー―Fの製作の検討を依頼し、これを受けた原告は、被告東洋の意見も聞いて検討の結果、昭和五五年一月、ゾーンプロセッサー―Fの改良型であるゾーンアナライザーZA―F(以下「ZA―F」という。)を製作することを提案して見積書を提出し、被告東洋は、同年二月八日頃その製作を注文したので、原告は、製造、プログラム作成にかかり、これを完成し、その仕様、測定方式、構成等を含む詳細な説明書を提出するとともに、ZA―F(ZA―FX)を一台製造し、昭和五五年九月三〇日頃、これを被告東洋に納品した。被告東洋は、その製品の対価として七九〇万円を支払った。原告は、ZA―Fの開発については、被告東洋に対し、開発費の分担の要請をしなかった。原告は、その後一部変更したZA―F(ZA―FM)も完成した。
原告は、被告東洋の注文に応じて、昭和五六年三月頃から昭和六一年頃までの間に、ZA―FX、ZA―FMを含むZA―Fを三〇台納品した。
(九) 原告は、CA―7の機能向上等を図った改良型のCA―7Ⅱを開発することを検討し、昭和六〇年一〇月頃、その企画書を被告東洋に渡してその販売上の条件を示すとともに、自らCA―7Ⅱの開発を進め、CA―7ⅡについてはCA―7と違ってプログラムによる作動をさせることにし、フットスイッチポートの標準装備、平均値計測機能、ビデオセレクター、フットスイッチ、高感度マクロ仕様等の新機能を加えたCA―7Ⅱの装置を設計し、これを製作するとともに、前記2認定のとおりCA―7Ⅱプログラムを作成し、これを複製して、CA―7Ⅱ装置の回路基盤のROMに収納し、完成したCA―7Ⅱを、昭和六一年六月頃までに、数台被告東洋に納品した。
(一〇) 原告は、昭和五九年一一月頃から、ZA―Fの販売増加を目指し、ZA―Fの計測能力を強化するなどしたZA―Fの改良型のZA―FMⅡ、ZA―FXⅡを開発する計画を立て、昭和六〇年五月頃、その企画書を被告東洋に渡すとともに、自らZA―FMⅡ、ZA―FXⅡの開発を進め、ホール法阻止円の計測能力強化(高感度の画像処理)、センシティビティスイッチによる薄い阻止円の計測能力強化、計測の高速化、新型プリンタによる整理される出力フォーマットと出力時間の短縮、フリーポジション計測モードの増設等のZA―Fにない特徴を加えることとし、ZA―FMⅡ、ZA―FXⅡの装置を設計し、被告東洋の注文に応じて、ZA―FMⅡ暫定版の装置を製作するとともに、前記1認定のとおりZA―FMⅡ暫定版プログラム、ZA―FXⅡ暫定版プログラムを作成し、そのうちのZA―FMⅡ暫定版プログラム(前記1のとおりZA―FXⅡ暫定版プログラム中のX―Yテーブルの操作に関する部分を使用しないようにしたもの)を複製して、ZA―FMⅡ暫定版の装置の回路基盤のROMに収納し、完成したZA―FMⅡ暫定版を、昭和六〇年九月二六日頃、被告東洋に二台納品し、被告東洋は、製品対価として一台当たり四〇〇万円を支払い、その後昭和六一年五月二〇日までに更に六台を納品した。その他、昭和六一年三月頃には、被告東洋が在庫品として有していたZA―FM三台をZA―FMⅡ暫定版に改造した。被告東洋はこれらの内の三台以外は顧客へ販売した。
(一一) 被告東洋は、顧客が要求するゾーンパンチャー、CA―7、MIC、ZA―Fの製造の検討を原告に依頼し、原告の検討結果に基づいて、原告に発注し、原告の製造した各製品を一手に買い受けて、顧客に販売していたもので、原告の設立後しばらくの期間は、原告の売上のほとんどを被告東洋への売上が占めていた。原告が、ゾーンパンチャー、CA―7、MIC、ZA―Fの製造をするについては、被告東洋は原告に顧客と予定される先が希望する機能を伝え、他社の類似機種の修理の機会を作り(CA―7について)、他社の類似機種についての資料を提供し、顧客先へ菅野を同行し、専門家同士が意見を交換する機会を作ったりしたが、装置の設計、製造、プログラムの必要なものについてのプログラムの作成は、一切原告が独自に行った。
ZA―FMⅡ暫定版、ZA―FXⅡ暫定版、CA―7Ⅱの製造についても、被告東洋は、ZA―F、CA―7の改良についての顧客の希望、意見を原告に伝え、菅野を顧客先に同行して意見を交換する機会を作り、顧客先から検体を借り出して装置の試験に供する等したが、装置の設計、製造、プログラムの作成は、一切原告が行った。
5(一) 右1ないし4認定の事実及び請求の原因2の事実によれば、
(1) ZA―FMⅡ暫定版プログラム、ZA―FXⅡ暫定版プログラムについては、原告において、ZA―Fの販売増加を目指し、ZA―Fの計測能力を強化するなどしたZA―Fの改良型のZA―FⅡの開発を企画し、ホール法阻止円の計測能力強化(高感度の画像処理)、センシティビティスイッチによる薄い阻止円の計測能力強化、計測の高速化、新型プリンタによる整理される出力フォーマットと出力時間の短縮、フリーポジション計測モードの増設等のZA―Fにない特徴を加えることとし、原告の取締役である菅野、唐沢がその職務として、共同で、請求の原因2(一)のような作業を行うZA―FMⅡ暫定版、ZA―FXⅡ暫定版の装置部分を作動させるためのものとして、創意工夫によって作成したものであり、
(2) CA―7Ⅱプログラムについては、原告において、CA―7の機能向上等を図った改良型のCA―7Ⅱの開発を企画し、CA―7と違ってプログラムによる作動をさせるものとし、しかも、フットスイッチポートの標準装備、平均値計測機能、ビデオセレクター、フットスイッチ、高感度マクロ仕様等の新機能を加えることとして、原告の取締役である菅野、唐沢がその職務として共同で、請求の原因2(二)のような作業を行って、CA―7Ⅱの装置部分を作動させるためのものとして、創意工夫によって作成したものであり、
(3) MICプログラムについては、原告において画像処理法最小発育阻止濃度測定装置の開発製造を行うこととし、原告の取締役である菅野、唐沢がその職務として共同で、請求の原因2(三)のような作業を行うMICの装置部分を作動させるためのものとして、創意工夫によってMICプログラムを作成したものであって、
右各プログラムは、いずれもプログラムの著作物であり、原告の発意に基づき、原告の業務に従事する菅野、唐沢が、職務上作成したものと認められる。
(二) 前記2認定の事実によれば、CA―7Ⅱプログラムは、昭和六一年一月一日以降に創作された著作物であるから、昭和六〇年六月一四日法律第六二号附則二項により右法律による改正後の著作権法一五条二項の規定の適用がある。そうすると、右一の事実によれば、CA―7Ⅱプログラムは、原告の法人著作物であり、その著作権は原告に帰属するものと認められる。
(三) プログラムの複製物をROMに収納し、そのROMを基盤に装着したものをその構成の一部に含む機器を公衆に譲渡又は貸与した場合、ROM部分を特別な方法で密封するなど、通常の方法ではROMに収納されたプログラムを読み出せない事情があるときを除き、プログラムの複製物が頒布されたものと解するのが相当である。
前記4(一〇)のとおり、原告は一一台のZA―FMⅡ暫定版を被告東洋に販売しあるいは改造して引渡し、被告東洋は、その内八台を顧客に販売したのであるから、原告は、ZA―FXⅡ暫定版プログラムその中に含まれるZA―FMⅡ暫定版プログラムの各複製物を、この種プログラムの性質上公衆の要求を満たすことができる相当数、作成し、頒布したものである。したがって、著作権法三条一項により、ZA―FXⅡ暫定版プログラム、ZA―FMⅡ暫定版プログラムは、発行されたものとされ、同法四条一項により公表されたものとされる。
前記甲第一五二号証によれば、ZA―FMⅡ暫定版のフロントパネルには、「TOYO」の表示と並べて原告を示す「SSC」の表示が付され、リアパネルには「SYSTEM SCIENCE CO」と原告の社名の英語表記が入った製造銘版が付され、装置内のプリント基盤には「SSC」のマークが付されていることが認められ、このリアパネルの表示、プリント基盤の表示によれば、ZA―FXⅡ暫定版プログラム、ZA―FMⅡ暫定版プログラムは原告の名義で公表されたものと認めるのが相当である。
(四) 右(一)、(三)によれば、ZA―FXⅡ暫定版プログラム、ZA―FMⅡ暫定版プログラムは、原告の法人著作物であり、その著作権は原告に帰属するものと認められる。
(五) 前記4(七)の事実によれば、原告はMICを二台被告東洋に販売し、その内一台が明治製菓に販売されたに過ぎないのであって、この種機器が特殊な製品であることを考慮しても、MICプログラムの複製物が公衆の要求を満たすことのできる相当程度の部数頒布されたものとは認められないから、著作権法三条一項所定の発行されたものに当たらず、同法四条一項の「公表されたもの」に該当しない。
しかし、昭和六〇年法律第六二号による改正前の著作権法一五条の規定にいう「法人等が自己の著作の名義の下に公表するもの」とは、公表されていないものであっても、法人名義での公表が予定されているもの及び公表するとすれば法人の名義を付するような性質のものも含むと解するのが相当である。文理的にも、「公表したもの」ではなく、未公表のものを含む趣旨が明らかな「公表するもの」との文言が使用されており、実質的にも、同じく、法人その他の使用者の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成したものでありながら、公表されたか否かで著作者が異なったり、同じ著作物が公表される前と後で著作者が変動する結果となるのは妥当性を欠くからである。
前記(一)認定のとおり、MICプログラムは、菅野と唐沢が原告の発意に基づいて職務上作成したものであり、また、前記甲第一五二号証によれば、原告は、自社の社員に対して、MICプログラム、そのソースプログラム等の公表を禁じていることが認められる。
そうすると、MICプログラムは、未だ公表されていないが、もし公表されるとすれば、当然に原告名義で公表される性質のものであると認められる。
したがって、MICプログラムは、前記改正前の著作権法一五条の規定にいう「公表する」の要件を充足するものであり、MICプログラムは、原告の法人著作物であり、その著作権は原告に帰属するものと認められる。
6 被告らは、ZA―FMⅡ暫定版プログラム、ZA―FXⅡ暫定版プログラム、CA―7Ⅱプログラム、MICプログラムが被告東洋の法人著作物で、その著作権が被告東洋に帰属する旨主張するが、同主張は、次のとおり採用することができない。
(一) 被告らは、原告が、法人格こそ別であるが、被告東洋のいわば製造部門、プログラミング部門という位置付けの存在であるとしているが、前記4認定の事実によれば、原告と被告東洋とは、相互に全く独立した別法人として存在し、人的、物的にも関連性がなくそれぞれ独自の経営方針に従って別個にそれぞれの業務を遂行しており、原告と被告東洋との取引は、原告が、その製造するゾーンパンチャー、CA―7、MIC、ZA―FM、ZA―FX、CA―7Ⅱ、ZA―FMⅡ暫定版、ZA―FXⅡ暫定版を被告東洋に販売し、これに対して、被告東洋が、代金を支払うという通常の売買契約以上のものではなく、一方が他方を指揮監督するような関係は認められない。
前記4認定のとおり、原告は、設立直後から被告東洋の依頼によって、製品を開発し、その製造した製品の全てを被告東洋に納品しており、原告の設立後しばらくの期間は原告の売上のほとんどが被告東洋への売上であり、また、原告がゾーンパンチャー、CA―7、MIC、ZA―Fの製造をするについては、被告東洋は、原告に顧客と予定される先が希望する機能を伝え、他社の類似機種の修理の機会を作り、同じく類似機種についての資料を与え、顧客先へ原告の担当者を同行し専門家同士か意見を交換する機会を作り、更に、原告は、被告東洋から製品の代金中に「初期開発費の一部」、「開発分担金」といった名目で、本来の製品の代金とは別の金銭を含めて受け取っていたものである。
しかしながら、それらの装置の設計、製造、プログラムの必要なものについてのプログラムの作成は一切原告が独自に行ったもので、被告東洋の依頼によって、製品を開発し、その製造した製品の全てを被告東洋に納品しており、更には、それらの製品の開発について情報を提供していたからといって、直ちに被告東洋が原告を指揮監督する関係にあったとはいえない。
また、被告東洋から「初期開発費の一部」、「開発分担金」といった名目で製品の代金とは別の金銭を受け取っていたことをもって、被告東洋が原告を指揮監督する関係にあるとの主張の裏付けとすることはできない。
(二) また、前記4認定のとおり、CA―7の改良型のCA―7Ⅱ、ZA―Fの改良型のZA―FXⅡ、ZA―FMⅡの開発を計画したのは原告であり、その製造、開発の過程で、被告東洋は原告に顧客の意見を伝え、原告の担当者を顧客先に同行して意見を交換する機会を作り、顧客先から検体を借り出して試験に供する等の協力をしたが、装置の設計、製造、プログラムの作成は一切原告が独自に行ったもので、CA―7ⅡやZA―FXⅡ、ZA―FMⅡの開発の過程で製造されたZA―FXⅡ暫定版、ZA―FMⅡ暫定版の開発、製造について被告東洋が原告を指揮監督していたものとは認められない。
四 被告東洋がZA―FMⅡ暫定版プログラム、ZA―FXⅡ暫定版プログラム、CA―7Ⅱプログラム、MICプログラムの著作権を原告から有償で取得したとの被告らの主張について判断する。
1 被告らは、被告東洋と原告とは、被告東洋が企画したMIC、CA―7Ⅱ、ZA―FMⅡ暫定版、ZA―FXⅡ暫定版を外注先たる原告が製造しこれを被告東洋に納品する旨の有償契約を締結していたと主張するところ、前記三6(一)認定のとおり、原告と被告東洋との取引は、通常の売買契約であり、MICの企画、開発、製造等の状況は前記三4(七)認定のとおり、CA―7Ⅱの企画、開発、製造等の状況は前記三4(九)認定のとおり、また、ZA―FMⅡ暫定版、ZA―FXⅡ暫定版の企画、開発、製造等の状況は前記三4(一〇)認定のとおりであって、被告東洋がCA―7Ⅱ、ZA―FMⅡ暫定版、ZA―FXⅡ暫定版を企画したものとは認められないし、MICの企画は被告東洋の依頼がきっかけとなったことが認められるが、技術的な意味でのMICの企画、開発、製造を被告東洋が行ったことを認めるに足りる証拠はない。
2 次に、被告らは、MICプログラム、CA―7Ⅱプログラム、ZA―FMⅡ暫定版プログラム、ZA―FXⅡ暫定版プログラムは、MIC、CA―7Ⅱ、ZA―FMⅡ暫定版、ZA―FXⅡ暫定版のいわば一部品として右装置に関する権利関係に当然に従属、附随するとするが、有体物であるMIC、CA―7Ⅱ、ZA―FMⅡ暫定版、ZA―FXⅡ暫定版の所有権の移転により、その一部品として右各装置の回路基盤に装着された、MICプログラム、CA―7Ⅱプログラム、ZA―FMⅡ暫定版プログラム、ZA―FXⅡ暫定版プログラムの複製を収納したROMも一体として移転するものであっても、MICプログラム、CA―7Ⅱプログラム、ZA―FMⅡ暫定版プログラム、ZA―FXⅡ暫定版プログラムの著作権が従属、附随して移転するものと認めるべき理由はない。
3 被告らは、被告東洋と原告との間の取引において、右各装置の製造、発注と右各プログラムの製造、発注は一体化されており、後者は前者に当然に含まれるものとして取り扱われていたとするが、MICプログラム、CA―7Ⅱプログラム、ZA―FMⅡ暫定版プログラム、ZA―FXⅡ暫定版プログラムの著作権自体をMIC、CA―7Ⅱ、ZA―FMⅡ暫定版、ZA―FXⅡ暫定版と一体化して取り扱うという被告東洋と原告との間の明示の合意あるいは黙示の合意の存在を認めるに足りる証拠はない。
4 更に、被告らは、被告東洋は、MICプログラム、CA―7Ⅱプログラム、ZA―FMⅡ暫定版プログラム、ZA―FXⅡ暫定版プログラム取得の対価として、開発費用を負担したと主張し、前記乙第五五号証には、被告東洋が、昭和六〇年九月二九日から昭和六一年五月二〇日までの間に、ZA―FMⅡ暫定版八台の納入を受け、一台当たりの本体価格三七〇万円、開発費用三〇万円を支払い、合計二四〇万円の開発費用を負担した旨の記載があるが、これを裏付ける伝票、帳簿等の具体的な証拠はなく、たやすく信用できない。
また、乙第五五号証中には、原告が被告東洋に納入したMIC二台について一台当たり五万円の開発費を被告東洋が負担した、原告は右五万円を「改造費」として請求してきたが、開発費と解して支払った旨の部分があり、前記甲第一五号証によれば、原告が昭和五五年一月二九日付けで被告東洋に提出したMICの見積書には、見積価格四五万円の中にシステム改造費五万円が含まれている旨の記載があることが認められる。しかし、右甲第一五号証によれば、MICはそれのみを販売すれば作動させることができるものではなく、これを取付けるCA―7本体を一旦納入先から引揚げて改造する必要があり、MICの価格とは別にCA―7本体の改造費を計上して見積ったものと認められ、MICの見積価格の内五万円が開発費である旨の乙第五五号証の部分は信用できない。
また、被告東洋がCA―7Ⅱの開発費を負担したことを認めるに足りる証拠はない。
更に、被告村谷本人尋問の結果によれば、被告東洋は「初期開発費の一部」、「開発分担金」といった名目で製品の代金とは別の金銭を支払っていたといっても、会計上これを仕入原価とは別のものとして計上し、長期的に償却したり、プログラム著作権の取得費用として処理したことは一切なく、単なる商品の仕入原価として利益を上乗せして販売していたことが認められ、右のような名目の金銭の支払をもって、開発費用を被告東洋が負担したということはできない。
5 以上のとおり、被告東洋がMICプログラム、CA―7Ⅱプログラム、ZA―FMⅡ暫定版プログラム、ZA―FXⅡ暫定版プログラムを原告から有償で取得したとの主張を認めるに足りる証拠はない。
五 著作権確認請求について
被告らが、原告が本件各プログラムの著作権を有することを争っていることは当事者間に争いがなく、右三、四に認定判断したところによれば、原告が本件各プログラムの著作権を有することの確認を求める請求は理由がある。
六 被告らの権利侵害行為について
1 昭和五七年八月一日から平成元年六月三〇日までの間の侵害行為
(一) ZA―FMⅡ暫定版を改造した被告ZA―FXⅡ、被告ZA―FXⅢ三台について
請求の原因4(一)(1)のうち、被告東洋が、被告日本テクナートに対し、ZA―FXⅡ暫定版と同様の機器の製作を依頼し、これを受諾した被告日本テクナートが、原告が被告東洋に既に納入し在庫となっていたZA―FMⅡ暫定版三台を被告ZA―FXⅡに改造し、被告東洋が、右被告ZA―FXⅡ三台の納品を受けて右期間に販売したとの事実は、当事者間に争いがない。
被告日本テクナートが、原告が被告東洋に既に納入し在庫となっていたZA―FMⅡ暫定版を被告ZA―FXⅢに改造したとの事実は、これを認めるに足りる証拠がない。
被告前田本人尋問の結果及びこれによって真正に成立したものと認められる乙第四一号証、被告日本テクナート代表者兼被告本人小島三郎の尋問(以下「被告小島本人尋問」という。)の結果及びこれによって真正に成立したものと認められる乙第五九号証によれば、被告東洋が被告日本テクナートに右のような依頼をしたのは昭和六一年六月頃以降であり、被告東洋が被告日本テクナートから納品を受けた被告ZA―FXⅡを他へ販売したのは同年九月、同年一一月、昭和六三年六月二七日各一台であったこと、右のうち当初の二台のZA―FMⅡ暫定版を被告ZA―FXⅡに改造するに当たり被告日本テクナートは、被告東洋からZA―FXⅡ暫定版の本体を渡されてプログラムはそのまま複製してよいと言われ、これに装着されているROMから収納されているZA―FXⅡ暫定版プログラムを複製して別のROMに収納し、そのROMを改造した被告ZA―FXⅡに装着したことが認められる。
前記三1認定の事実によれば、ZA―FMⅡ暫定版の回路基盤のROMに収納されているのはZA―FXⅡ暫定版プログラムであって、ZA―FMⅡ暫定版では、ハード面においてX―Yテーブルの操作に関する部分を使用しないようにしているものであるから、原告が被告東洋に既に納入し在庫となっていて改造の対象となったZA―FMⅡ暫定版の回路基盤のROMにもZA―FXⅡ暫定版プログラムが収納されていたものであり、被告東洋や被告日本テクナートは、ZA―FMⅡ暫定版を被告ZA―FXⅡに改造するに当たって、既にZA―FXⅡ暫定版プログラムが収納されたROMをそのまま使用すれば足りたはずであるが、被告小島及び被告前田共に、ZA―FXⅡ暫定版プログラムをコピーしたことを明確に供述しており、被告東洋、被告日本テクナート共にZA―FMⅡ暫定版プログラムとZA―FXⅡ暫定版プログラムの前記のような関係を知らないままに、ZA―FXⅡ暫定版プログラムをコピーしたものと認められる。このようなZA―FXⅡ暫定版プログラムのコピーが複製行為に該当することは当然である。
原告は、前記昭和六三年六月二七日納入分の被告ZA―FXⅡにもZA―FXⅡ暫定版プログラムの複製が収納されている旨主張し、前記乙第四一号証、証人中村隆明の証言により真正に成立したと認められる乙第五八号証及び被告前田本人尋問の結果によれば、昭和六三年六月二七日に出荷した被告ZA―FXⅡについては、被告東洋が被告日本テクナートに、原告が被告東洋に既に納入し在庫となっていたZA―FMⅡ暫定版を被告ZA―FXⅡに改造させるに当たり、相当の人件費等の経費をかけて六〇検体用のX―Yテーブルを新たに製作し、また、これを作動するためのプログラムを別途作成させたことが認められ、ZA―FXⅡ暫定版は八〇阻止円まで培養可能な大型平板を用いるものであることを考慮すると、この被告ZA―FXⅡに装着されたROMに収納されたプログラムは、ZA―FXⅡ暫定版プログラムと同一性がない可能性を否定できず、結局この被告ZA―FXⅡについては、ZA―FXⅡ暫定版プログラムの複製行為があったとはいまだ認められない。
(二) 被告ZA―FMⅢを改造した被告ZA―FXⅢ一台について
請求の原因4(一)(2)の事実は、当事者間に争いがない。
前記乙第四一号証、乙第五八号証、被告前田本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、被告東洋は、被告日本テクナートが製造納品した被告ZA―FMⅢを、その後同社に被告ZA―FXⅢに改造させたもので、被告東洋が右被告ZA―FXⅢを顧客に納入したのは平成元年三月三一日であり、被告日本テクナートがZA―FXⅡ暫定版プログラムを複製する等して右被告ZA―FXⅢに改造したのは、その直前頃であったことが認められる。また、被告前田本人尋問の結果、被告小島本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、被告日本テクナートは、右(一)のとおり被告東洋からプログラムはそのまま複製してよいといわれていたので、そのまま複製したものであることが認められる。
(三) 被告ZA―FMⅢ一三台について
請求の原因4(一)(3)の事実は、当事者間に争いがない。
前記乙第四一号証、乙第五八号証、被告前田本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、被告東洋が被告ZA―FMⅢ一三台を顧客に納入したのは昭和六二年一一月頃から平成元年一月頃までの間であり、被告日本テクナートがZA―FMⅡ暫定版プログラムを複製する等して右被告ZA―FXⅢに改造したのは、各その直前頃であったことが認められる。また、被告前田本人尋問の結果、被告小島本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、被告日本テクナートは、右(一)のとおり被告東洋からプログラムはそのまま複製してよいといわれていたので、ZA―FMⅡ暫定版のROMに収納されたプログラムを複製して別のROMに収納し、そのROMを被告ZA―FMⅢに装着したことが認められる。
(四) 被告CA―9一七台について
請求の原因4(一)(4)の事実は、被告CA―9合計一六台の限度で当事者間に争いがない。
被告らは、平成二年七月一六日第七回口頭弁論期日に陳述した一九九〇年六月六日付け被告準備書面(七)において、被告東洋及び被告日本テクナートの製造販売した被告CA―9の台数が一七台である旨の限度で自白していたところ、平成二年一二月五日第九回口頭弁論期日に陳述した一九九〇年一〇月二四日付け被告準備書面(一〇)において、右台数は一五台であるとして自白の一部を撤回し、更に、平成五年四月二三日第二二回口頭弁論期日に陳述した一九九三年三月八日付け被告準備書面(一四)において一六台であると陳述し、結局、当初の自白のうち被告CA―9一台についての自白を撤回し、原告はこれに異議を述べている。
そこで、被告らの自白の撤回が許されるかどうかについて判断する。
前記乙第五八号証によれば、被告日本テクナートは、昭和六一年六月から昭和六三年九月までの間に、被告CA―9を合計三〇台製造して、第三者を介して被告東洋に納品していたことが認められ、また、前記乙第四一号証及び被告前田本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる乙第四六号証には、被告東洋の帳簿を調査した結果として、被告東洋は、昭和六二年二月二八日から平成元年六月三〇日までの間に被告CA―9を三七台販売し(乙第四一号証の記載。乙第四六号証では三八台。)、昭和六二年四月から平成元年一月二〇日までの間では二四台販売した(乙第四一号証の記載。乙第四六号証では二五台。)ことになっているが、他方、右の被告東洋の帳簿上の被告CA―9の納品の記載には誤記があったり、納品の後に返品したものがあったりして必ずしも正確ではなく、実際には昭和六二年四月から平成元年一月二〇日までの間に納品を受けた被告CA―9は一五台である(乙第四一号証の記載。乙第四六号証では一六台。)との記載があり、被告前田本人尋問の結果中にはこれにそう部分もあるが、被告東洋は自己の帳簿を全面的に開示してその裏付けをすることはたやすいことであるはずなのに、取引先や勘定科目を抹消した一部の帳簿を提出するのみであり、被告前田自身、提出された帳簿の一部を見ても、なぜ一旦一七台と認めたものが一五台に減少したのか説明ができず、被告前田本人尋問の結果中の右部分、ひいては、被告前田の作成した乙第四一号証、乙第四六号証の前記自白の撤回にそう部分は信用できず、他に前記自白が真実に反することを認めるに足りる証拠はない。
そうすると、被告東洋や被告日本テクナートが昭和五七年八月一日より平成元年六月三〇日までの間に被告CA―9を一六台を越えて製造販売しなかったことが真実であるとの証明があったとはいえないから、被告らの右自白の撤回は許されない。
よって、請求の原因4(一)(4)の事実は、全て当事者間に争いがないことに帰する。
また、被告前田本人尋問の結果、被告小島本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、被告日本テクナートは、右(一)のとおり被告東洋からプログラムはそのまま複製してよいといわれていたので、CA―7Ⅱプログラムを複製して別のROMに収納し、そのROMを被告CA―9に装着したものであることが認められる。
(五) 被告MIC六台について
(1) 請求の原因4(一)(5)(ア)の事実は、当事者間に争いがない。
証人武部明の証言及び弁論の全趣旨によれば、被告永井商会が被告MIC四台を製造して被告東洋に納入したのは昭和五七年から昭和五八年末までの間であったことが認められる。被告前田本人尋問の結果中には、被告東洋が被告永井商会から被告MICの納品を最後に受けたのは昭和六一年九月である旨の部分があるが、証人武部明の証言中の、武部明は昭和五九年二月まで被告永井商会に勤務していたもので、被告永井商会が製造した四台の被告MICの製造は自分が担当した旨の部分に照らして信用できない。
証人武部明の証言及び被告前田本人尋問の結果によれば、被告永井商会は被告MICを製造するに当たり、原告が被告東洋に納品したMICとその取扱説明書、カタログを示され、これと動作、外観を同じに造るように、プログラムはそっくりそのままでかまわないと言われて、これに従ったものであることが認められる。
(2) 請求の原因4(一)(5)(イ)の事実は、被告MIC一台について当事者間に争いがない。
そこで、被告東洋が昭和五九年二月頃から平成元年六月三〇日までの間に被告MICを二台販売したかどうかについて検討する。
前記乙第四一号証、成立に争いのない甲第一七五号証、被告前田本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したと認められる乙第四二号証ないし乙第四五号証、乙第五三号証、並びに弁論の全趣旨によれば、被告東洋の帳簿には少なくとも、昭和五七年一二月一六日、昭和五八年四月六日、昭和六〇年一月二一日、昭和六一年八月二一日、昭和六一年九月二六日、平成元年六月三〇日各一台、計六台のMICが被告東洋からその顧客に納品された旨の記載があること、被告前田は、その内最初の一台は、原告が被告東洋に納品したMICであると認識し、次の四台は被告永井商会が製造した右(1)の分、最後の一台が被告東洋が製造したものと説明していること、右六台とは別に昭和六二年一〇月二日に、被告東洋から東京都立衛生研究所に被告MICを販売したことが認められ、この東京都立衛生研究所分の被告MICもその販売の時期から、被告東洋が製造したものであり、その際、原告の納入したMICのROMに収納されていたMICプログラムを複製して別のROMに収納しそのROMを右被告MICに装着したものと推認することができる。
被告らは、前記甲第一七五号証の「CA―9用MIC測定システム」の記載は「CA―9」の誤記であり、これは被告東洋が昭和六二年一〇月二二日に販売した被告CA―9A(乙第四一号証)と同一であり、被告MICを販売したものではない旨主張している。
しかし、前記乙第四一号証記載の被告CA―9Aは、納品日が昭和六二年一〇月二二日であるのに対し、前記甲第一七五号証記載の「CA―9用MIC測定システム」を納品した日は昭和六二年一〇月二日であって、二〇日ものずれがあること、また東京都立衛生研究所が、第一東京弁護士会からの購入した装置の正式な型式は何かとの質問に対して、被告CA―9Aの正式の型式である「CA―9」と記載せずに「CA―9用MIC測定システム」と記載していることからすれば、にわかに右書証の「CA―9用MIC測定システム」の記載が「CA―9」の誤記であるとは認められず、被告らの右主張は採用できない。
したがって、被告東洋が昭和六二年一〇月頃から平成元年六月三〇日までの間に、自ら被告MICを二台製造し、又は被告永井商会以外の第三者に製造させて、これを販売したことは原告主張のとおりである。
2 別件高裁決定後の平成元年七月一日から平成三年三月三一日までの間の侵害行為
(一) 販売済の被告ZA―FMⅢを改造した被告ZA―FXⅢ四台について
請求の原因4(二)(1)のうち、被告東洋が、販売済の被告ZA―FMⅢ二台を客の依頼により被告ZA―FXⅢに改造し、これを右期間に客に納品したことは、当事者間に争いがない。
ところで前記1(三)の事実、前記三1認定の事実及び弁論の全趣旨によれば、被告が既に客に納品した被告ZA―FMⅢの回路基盤のROMに収納されているのはZA―FXⅡ暫定版のROMに収納されたプログラムを複製したもの、すなわち、ZA―FXⅡ暫定版プログラムの複製であって、被告ZA―FMⅢでは、ZA―FMⅡ暫定版と同様に、そのプログラムのうちX―Yテーブルの操作に関する部分をハード面において使用しないようにしているものであることが認められる。
ZA―FMⅡ暫定版の基盤に装着されたROMにはZA―FXⅡ暫定版プログラムが収納されている事実は、被告東洋、被告日本テクナート、被告前田、被告村谷、被告小島にいずれも平成元年七月一七日に送達された本件訴状に記載されていたことは本件記録上明らかであるから、被告東洋及び被告日本テクナートは、遅くともその直後頃にはその事実を知ったものと認められる。
そうすると、被告東洋及び被告日本テクナートは、右の時期以後は、被告東洋が販売した被告ZA―FMⅢを被告ZA―FXⅢに改造するに当たって、既にZA―FXⅡ暫定版プログラムの複製が収納されているROMをそのまま使用すれば足りることを知っていたはずであり、他方、被告東洋及び被告日本テクナートにおいて敢えて既存のZA―FXⅡ暫定版プログラムが収納されている右ROMを廃棄して、新たにZA―FXⅡ暫定版プログラムを複製して別途用意したROMに収納し、これを改造した被告ZA―FXⅢに装着したこと及びそのようにする必要があったことを認めるに足りる証拠はない。
したがって、被告東洋又は被告日本テクナートが被告ZA―FMⅢを被告ZA―FXⅢに改造したとしても、その際ZA―FXⅡ暫定版プログラムを複製したとは認めるに足りない。
なお、原告が主張の根拠とする後記甲第一七六号証、前記乙第五五号証には、それぞれそれら改造前の被告ZA―FMⅢは別件高裁仮処分決定前に客に納入されたものであるとされており、乙第五五号証にはいずれも前記1(三)に計上されているものに相当する旨の記載があり、前記乙第四一号証には甲第一七六号証記載の当初の被告ZA―FMⅢに対応するものと解される記載があって、これも前記1(三)に計上されているとされるのであるから、被告ZA―FMⅢ製造時の被告ZA―FMⅡ暫定版プログラムの複製をここで問題にする余地はない。
よって販売済みの被告ZA―FMⅢを被告ZA―FXⅢに改造、納品した台数について判断するまでもなく、原告の主張は認められない。
(二) 被告ZA―FXⅢ二台について
請求の原因4(二)(2)のうち、被告東洋が被告ZA―FXⅢ一台を販売したことは当事者間に争いがない。
第一東京弁護士会の受付印につき当事者間に争いがなく、その余については弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第一七六号証及び弁論の全趣旨によれば、被告東洋は、平成二年三月一四日頃東洋醸造株式会社から注文を受け、同年八月三日頃、被告ZA―FMⅢを改造した被告ZA―FXⅢ一台を納品したことが認められる(右の当事者間に争いがない分である。)。
他方、第一東京弁護士会の受付印につき当事者間に争いがなく、その余については弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第一七七号証、被告前田本人尋問の結果によれば、被告東洋は、平成元年八月頃、サントリー株式会社に被告ZA―FMⅢ一台を納入したが、平成元年一一月頃、同社から被告ZA―FXⅢへの取替えの依頼を受け、平成二年四月頃までに、右被告ZA―FMⅢを被告ZA―FXⅢに改造し、これを納品したことが認められる。
しかし、右二台のいずれについても、前記(一)認定と同様の理由によって、被告ZA―FMⅢを被告ZA―FXⅢに改造するに当たって、ZA―FXⅡ暫定版プログラムを複製したことは認めるに足りない。
もっとも、右二台のいずれもが、別件高裁決定後に被告ZA―FMⅢとして製造され、被告東洋の客に販売されたものであり、その際にはZA―FMⅡ暫定版プログラム(ZA―FXⅡ暫定版プログラムと実質的には同じもの)を複製しROMに収納して回路基盤に装着したものと認められる。
原告は、右二台の被告ZA―FMⅢは、被告東洋の依頼によって被告日本テクナートが製造したもので、被告日本テクナートはその際ZA―FMⅡ暫定版プログラムを複製して他のROMに収納し、被告ZA―FMⅢの回路基盤に装着した旨主張し、被告らは、被告日本テクナートがプログラムを除くZA―FⅢ(被告ZA―FMⅢ及び被告ZA―FXⅢ)を製造し、被告東洋に納入したことは認めているが、被告日本テクナートが、別件高裁決定後である平成元年七月以降、被告ZA―FMⅢ製造の際に、ZA―FMⅡ暫定版プログラムを複製しROMに収納したことを認めるに足りる証拠はない。被告日本テクナートが被告東洋の注文を受けて別紙物件目録二の(一)ないし(八)の装置を製造する際に、別紙物件目録一の(一)ないし(三)のプログラムを複製しROMに収納していたことは右1のとおりであるが、それは別件高裁決定前のことであり、本件紛争の中心は原告と被告東洋との間の別紙物件目録一記載のプログラムの著作権の帰属をめぐる争いであり、被告日本テクナートはいわば従たる立場にあることを考慮すると、かつてプログラムの複製をした事実から、被告東洋とともに被告日本テクナートも相手方(債務者)として、ZA―FXⅡ暫定版プログラム、ZA―FMⅡ暫定版プログラム等の複製、翻案の差止め、これらのプログラムを収納した被告ZA―FXⅡ、被告ZA―FXⅢ、被告ZA―FMⅢ等の装置の頒布等の差止めを命じた別件高裁決定の後にも被告日本テクナートが原告主張のようなプログラムの複製をしたものと推認することはできない。
他方、被告東洋が被告ZA―FMⅢ二台を有していた以上、被告東洋がZA―FMⅡ暫定版プログラムを自ら複製しあるいは第三者に複製させて、ROMに収納したものと推認され、これを左右する証拠はない。
(三) 被告ZA―FMⅢ二台について
請求の原因4(二)(3)の事実中、被告東洋が被告ZA―FMⅢ二台を販売したことは、当事者間に争いがない。
前記乙第五五号証、被告前田本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、右被告ZA―FMⅢ二台は、別件高裁決定前に被告日本テクナートが製造し、被告東洋に納品したものであって、その製造の際にZA―FMⅡ暫定版プログラムを複製して、ROMに収納して装着したことが認められる。
(四) 被告MIC四台について
請求の原因4(二)(4)の事実は、被告MIC二台について当事者間に争いがない。
第一東京弁護士会の受付印部分の成立につき当事者間に争いがなく、その余については弁論の全趣旨により成立を認める甲第一七八号証ないし甲第一八〇号証、前記乙第五五号証及び弁論の全趣旨によれば、被告東洋は、平成元年九月二六日に某社へ被告MIC一台を納品したこと、武田薬品工業株式会社から平成二年六月二五日に被告MIC一台の注文を受け、同年七月二五日にこれを納品したこと(以上は、被告らが自白したものに対応する。)、日本新薬株式会社から平成二年一一月二六日に被告MIC一台の注文を受け、平成三年二月一五日にこれを納品したこと、千葉大学真核微生物研究センターに平成三年三月に被告MIC一台を納品したことが認められる。
被告らは、請求の原因に対する認否4(二)(4)のように主張するがこれを認めるに足りる証拠はない。
被告MIC二台については、被告東洋においてその製造の際MICプログラムを複製して他のROMに収納して、このROMを被告MICの回路基盤に装着したことは争いがなく、この事実と弁論の全趣旨によればその余の二台についても同様に被告東洋がMICプログラムを複製したものと推認される。
したがって、請求の原因4(二)(4)のその余の事実も認めることができる。
七 差止請求権について
1 被告東洋
(一) 被告東洋は、前記六1(一)ないし(五)のとおりの時期に、被告日本テクナートにZA―FMⅡ暫定版プログラムを複製させ、これを収納した被告ZA―FMⅢ、被告日本テクナートにZA―FXⅡ暫定版プログラムを複製させ、これを収納した被告ZA―FXⅡ及び被告ZA―FXⅢ、被告日本テクナートにCA―7Ⅱプログラムを複製させ、これを収納した被告CA―9A、被告CA―9M、被告CA―9F、被告CA―9D、被告永井商会にMICプログラムを収納した被告MICをそれぞれ販売していたものであり、しかも、同2(二)ないし(四)の時期に、被告日本テクナートにZA―FMⅡ暫定版プログラムを複製させ、これを収納した被告ZA―FMⅢ、自ら、ZA―FMⅡ暫定版プログラムを複製し、又は第三者に同プログラムを複製させ、これを収納した被告ZA―FMⅢを改造した被告ZA―FXⅢ、自らMICプログラムを複製し、これを収納した被告MICを別件高裁決定後においても販売していたものである。また、いずれも、第一東京弁護士会の受付印部分の成立について当事者間に争いがなく、その余の部分については弁論の全趣旨によって真正に成立したものと認められる甲第一八二号証ないし甲第一八四号証、弁論の全趣旨によって真正に成立したものと認められる甲第二〇四号証、成立に争いのない甲第二〇五号証、被告前田本人尋問の結果によれば、被告東洋は、別件高裁決定後においても、同決定によって頒布、頒布のための広告、展示を禁止されたものを含む本件訴訟の対象となっている装置を展示会に出品展示し、そのカタログを頒布し、客先や中間業者に対し、販売活動をしていることが認められる。
右事実に、被告東洋が本件訴訟において、別紙目録一記載の各プログラムの著作権の帰属を争っていることをも考慮すると、被告東洋は、ZA―FMⅡ暫定版プログラム(同目録一(一))、ZA―FXⅡ暫定版プログラム(同目録一(二))及びMICプログラム(同目録一四)を自ら、又は、第三者を利用して、複製しているもので、今後とも複製あるいは翻案をする可能性がある。
よって、原告の、著作権法一一二条一項の規定に基づく、被告東洋が別紙目録一(一)、(二)及び(四)のプログラムを複製、翻案することの差止請求は理由がある。
(二) 著作権侵害を争っている者が、著作権法一一三条一項二号所定の「著作権…を侵害する行為によって作成された物」であるとの「情を知」るとは、その物を作成した行為が著作権侵害である旨判断した判決が確定したことを知る必要があるものではなく、仮処分決定、未確定の第一審判決等、中間的判断であっても、公権的判断で、その物が著作権を侵害する行為によって作成されたものである旨の判断、あるいは、その物が著作権を侵害する行為によって作成された物であることに直結する判断が示されたことを知れば足りるものと解するのが相当であるところ、被告東洋、被告日本テクナートは、別件高裁決定の事件の当事者として同決定が、本件の別紙目録一記載の各プログラムの著作権が原告に帰属する旨判断し、右目録一(一)、(二)及び(四)記載のプログラムの複製を収納した本件別紙目録二の(一)ないし(四)及び(九)の装置が右各プログラムの著作権を侵害する行為によって作成された物であることを前提にそれらの装置の頒布、頒布のための広告もしくは展示の差止めを命ずるものであること(右決定がそのような内容のものであることは弁論の全趣旨により認められる。)は、右決定の告知を受けて知ったものと認められるから、被告東洋及び被告日本テクナートは遅くともその時点において、本件別紙目録一の(一)、(二)及び(四)のプログラムの複製を収納した本件別紙物件目録二の(一)ないし(四)及び(九)の装置が右各プログラムの著作権を侵害する行為によって作成された物である情を知ったものと認められる。
右複製されたプログラムを収納したROMは右各装置の回路基盤に装着されていることは前記のとおりであり、物として各装置全体から見ると一部品にすぎないけれども、いずれの装置もROMを装着した状態で一体として取引されるものであるから、この一体としての装置全体が「著作権を侵害する行為によって作成された物」に当たるというべきである。
よって、別紙目録一(一)、(二)及び(四)のプログラムを収納した別紙物件目録二(二)ないし(四)及び(九)の装置を頒布することは著作権法一一三条一項二号によって著作権を侵害する行為とみなされるから、同法一一二条の規定に基づく右装置の頒布の差止め請求は理由があり、頒布のための広告、展示の差止めは、著作権を侵害する行為とみなされる右装置の頒布の予防に必要な措置と認められるから、同法一一二条二項に基づく頒布のための広告、展示の差止請求も理由がある。
(三) 別紙目録一(一)、(二)及び(四)のプログラムを収納した別紙物件目録二(二)ないし(四)及び(九)の装置は、それぞれ、その中に右各プログラムの複製が収納されたROMを一体として含んでいるものであるから、著作権法一一二条二項の「侵害の行為を組成した物」及び「侵害の行為によって作成した物」に該当するものと認められ、同項に基づく右各装置の廃棄請求も理由がある。(右各プログラムの複製が収納されたROMを除去された右各装置が右請求の対象でないことは明らかである。)
(四) 前記乙第四一号証、乙第四六号証、成立に争いのない甲第一五三号証、弁論の全趣旨によって真正に成立したものと認められる乙第七五号証、被告前田本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、被告東洋及び被告日本テクナートは、CA―7Ⅱプログラムに代えてCA―9に収納するプログラムを開発して、平成元年一月三〇日納品分からこのプログラムを収納したCA―9を製造、販売していることが認められ、その頃以後、CA―7Ⅱプログラムの複製を収納した被告CA―9を被告東洋、被告日本テクナートが製造、販売したこと及び現在でもその在庫があることを認めるに足りる証拠はない。
そうすると、現在では、被告東洋及び被告日本テクナートが、CA―7Ⅱプログラム(別紙物件目録一(三))の複製を収納した被告CA―9A、被告CA―9M、被告CA―9F、被告CA―9D(別紙物件目録二(五)ないし(八))を製造販売するおそれは認められないから、被告東洋に対する別紙物件目録一(三)のプログラムの複製、翻案の差止請求及び右プログラムを収納した別紙物件目録二(五)ないし(八)の装置の頒布、頒布のための広告、展示の差止請求、これらの装置の廃棄請求はいずれも理由がない。
なお、右の判断は、当然のことながら、CA―7Ⅱプログラムの複製、翻案、右プログラムを収納した被告CA―9の頒布等が、原告の許諾なく許されることを意味するものでないことを、被告東洋、被告日本テクナートの誤解を防止するため付言する。
また、被告らが別紙物件目録二(一)の装置に、別紙物件目録一(一)のプログラムの複製を収納したROMを装着して製造、販売したこと、又はそのおそれがあることを認めるに足りる証拠はないから、被告東洋に対する、別紙物件目録一(一)のプログラムの複製を収納した別紙物件目録二(一)の装置の頒布、頒布のための広告、展示の差止請求、この装置の廃棄請求もいずれも理由がない。
(五) 被告らは、現在被告東洋が販売しているZA―FMⅢには、被告東洋が独自に開発したプログラムを収納している旨主張し、被告前田本人尋問の結果及び被告村谷本人尋問の結果中には、これにそう部分があり、また、前記乙第七五号証には、被告東洋が販売するZA―FMⅢには、ZA―FMⅡ暫定版プログラムとは全く異なるプログラムを収納している旨の記載があるとともに、そのプログラムのダンプリストが添付されているところ、このダンプリストと別紙物件目録一(一)記載のプログラムのダンプリストとを対比すると、著作物としての同一性についての詳細な検討は別として、外見上は確かに相違しているものである。
しかし、右乙第七五号証は、本件訴訟の争点にかかわる重要な内容を含むものであるのに弁論終結が予定されていた平成五年一二月一五日の第二七回口頭弁論期日(実際には裁判所の都合により弁論は終結されなかった。)に至って提出された事実、右プログラムがZA―FMⅢを支障なく機能させること、実際に顧客に納品されたあるいは販売用の在庫品のZA―FMⅢにこのプログラムが収納されていること、右プログラムの開発完了の時期、このプログラムを収納したZA―FMⅢの納入先、納入時期等を認めるに足りる証拠は一切ない事実に加えて、被告前田本人尋問の結果、被告村谷本人尋問の結果及び弁論の全趣旨により認められる、被告東洋は、本件についての仮処分事件において、ZA―FMⅡ暫定版プログラム、ZA―FXⅡ暫定版プログラム、MICプログラムは新規なプログラムに変更する予定であり、既にこれらのプログラムを複製していないし、将来も複製するつもりはない旨主張、疎明して、第一審裁判所にその旨信用させ、被告東洋らが、それらのプログラムを複製するおそれがないとの判断を得ておきながら、右一審決定に対する抗告審手続中も、更には抗告審の決定である別件高裁決定で右各プログラムの複製や、右各プログラムを収納した別紙物件目録二(一)ないし(四)、(九)の装置の頒布、頒布のための広告、展示の差止めを命じられた後も、各プログラムの複製や装置の頒布等を行って来たことなどの行為に示される被告東洋の訴訟に臨む態度を考え合わせると、前記被告らの主張にそう証拠から乙第七五号証に添付されているダンプリストのプログラムが被告東洋が現に販売しているZA―FMⅢに実際に収納されていると認めることも、これによって被告東洋がZA―FMⅡ暫定版プログラムの複製を収納した被告ZA―FMⅡ、被告ZA―FMⅢ、ZA―FXⅡ暫定版プログラムの複製を収納した被告ZA―FXⅡ、ZA―FXⅢを製造、頒布するおそれがなくなったものと認めることもできない。
2 被告日本テクナート
(一) 被告日本テクナートは、前記六1(一)ないし(四)のとおりの時期にZA―FMⅡ暫定版プログラムを複製し収納した被告ZA―FMⅢ(別紙物件目録二(三))、ZA―FXⅡ暫定版プログラムを複製し収納した被告ZA―FXⅡ(別紙物件目録二(二))、被告ZA―FXⅢ(別紙物件目録二(四))をそれぞれ製造し、これを被告東洋に納品していたものである。
また、証人中村隆明の証言、被告小島本人尋問の結果によれば、被告日本テクナートは、別紙高裁決定後には、被告ZA―FMⅢ、被告ZA―FXⅢのハードウェア部分を製造したことは認められるが、これらにZA―FMⅡ暫定版プログラム、ZA―FXⅡ暫定版プログラムを複製して収納したものと認めるに足りる証拠はない。
しかし、被告日本テクナートが別件高裁決定後に、それまでは行っていた本件各プログラムの複製を行わないのは、右高裁決定による仮処分に従ったものと認められる上、本件訴訟において、依然として、本件各プログラムの著作権の帰属を争っていることを考慮すると、今後も、被告日本テクナートがZA―FMⅡ暫定版プログラムを複製、翻案し、収納した被告ZA―FMⅢ、ZA―FXⅡ暫定版プログラムを複製、翻案し、収納した被告ZA―FXⅡ、被告ZA―FXⅢを製造し、被告東洋に納品、販売するおそれがある。
よって、原告の、著作権法一一二条一項の規定に基づく、被告日本テクナートが別紙物件目録一(一)、(二)のプログラムを複製、翻案することの差止請求は理由がある。
(二) また、前記1(二)、(三)と同様の理由により、被告日本テクナートが、別紙物件目録一(一)のプログラムを収納した別紙物件目録二(三)の装置、別紙物件目録一(二)のプログラムを収納した別紙物件目録二(二)、(四)の装置を各頒布することの差止請求及び右各装置の廃棄請求も理由がある。
(三) 前記1(四)と同様の理由により、CA―7Ⅱプログラム(別紙物件目録一(三)記載のプログラム)の複製、翻案の差止請求並びに右プログラムを収納した別紙物件目録二(五)ないし(八)の装置及びZA―FMⅡ暫定版プログラム(別紙物件目録一(一)記載のプログラム)の複製を収納した別紙物件目録二(一)の装置の各頒布の差止請求、これらの装置の廃棄請求はいずれも理由がない。
また、被告日本テクナートがMICプログラム(別紙物件目録一(四)記載のプログラム)を複製、翻案したこと、あるいは複製、翻案するおそれのあることを認めるに足りる証拠はないから、右プログラムの複製、翻案の差止請求も理由がない。
(四) 被告ZA―FMⅢについての差止請求等が理由がないとする被告らの主張が採用できないことは前記1(五)のとおりである。
3 被告永井商会
被告永井商会は、前記六1(五)の時期にMICプログラム(別紙物件目録一(四)記載のプログラム)を複製し、収納した被告MIC(別紙物件目録二(九)記載の装置)を製造し、これを被告東洋に納品していたものである。
しかしながら、その時期は昭和五八年末までであり、その後現在まで一〇年余の間に、被告永井商会がMICプログラムを複製又は翻案し、これを収納した被告MICを製造、販売したこと、将来、そのような行為を行うおそれがあることを認めるに足りる証拠はないから、被告永井商会に対する右プログラムの複製、翻案の差止請求、右プログラムを収納した被告MICの頒布の差止請求及び右装置の廃棄請求は理由がない。
八 被告らの故意又は過失及び共同不法行為について
1 被告東洋、被告前田、被告村谷
被告村谷が昭和四九年一一月三〇日から平成四年三月一三日まで被告東洋の代表取締役であったこと、被告前田が昭和五二年五月二〇日から被告東洋の取締役であり、平成四年三月一三日から同社の代表取締役であることは当事者間に争いがなく、被告前田本人尋問の結果により真正に成立したと認められる乙第五四号証、前記乙第五五号証、被告前田本人尋問の結果によれば、被告東洋は、昭和五〇年頃には、被告村谷、被告前田を含めて社員五名、そのうち営業部員三名、事務員一名の会社であり、昭和五八年頃には、高田馬場に営業所を、相模原に工場を保有するようになり、昭和六二年前後頃には、営業所で勤務する社員が約一〇名(役員三名、事務員約三名、営業部員約三名、貿易担当者一名)、工場で勤務する社員が約七名(技術者五名、事務員二名)という陣容となっていたが、小規模な会社であることはかわりなく、役員である被告村谷、被告前田自身も積極的に営業活動に従事し、原告との間の取引、被告日本テクナートや被告永井商会との間の取引も主として被告村谷、被告前田が代表者あるいは取締役として相互に連絡をとって行っていたことが認められる。
ところで、被告東洋から被告日本テクナート又は被告永井商会へ、前記六認定のとおりの製品を発注した際、被告東洋の代表者であった被告村谷及び取締役であった被告前田は、プログラムについては原告が納入した製品のプログラムを複製するように指示していたことは、前記六の各箇所に認定したとおりであり、被告東洋が自ら製品を製造する際にも原告の納入した製品のプログラムを複製したことも前記認定のとおりであるから、前記六認定のプログラム複製行為自体については、被告村谷及び被告前田の故意に基づく指示による行為であったことは明らかであり、被告村谷及び被告前田が右各複製行為によって原告の著作権を侵害するにつき故意又は過失があったか否かは、ZA―FMⅡ暫定版プログラム、ZA―FXⅡ暫定版プログラム、CA―7Ⅱプログラム、MICプログラムの著作権が原告に属していることを知っていたか否か、知らなかったとして、知らなかったことに過失があったか否かによって判断すべきものである。
(一) 原告と被告東洋とのMICの取引が通常の売買契約以上のものではないこと、被告村谷、被告前田は、MICの設計、MICプログラムの作成に何ら関与しておらず、完成したMICの製品の対価として四〇万円支払っただけであることは前記三4(七)及び三6(一)に認定判断のとおりであり、更に、被告村谷本人尋問の結果によれば、被告東洋は、原告との間で、MICプログラムの著作権の譲渡に関する話合いをしたり、MICプログラムのプログラムリスト、チャート等のプログラムの内容を表示した資料を受け取っていないことが認められる。
(二) ところで、コンピュータ・プログラム(以下「プログラム」という。)が著作権法によって保護される著作物となり得ることは、昭和六〇年法律第六二号による著作権法の改正前においては、我が国の法令の明文上明らかではなかった。著作権法についての解説書の中には昭和四〇年代後半に発行されたものでも、プログラムが著作権法による保護の対象となる旨を明記したものがあった(例えば、文化庁「改定版著作権法ハンドブック」昭和四七年六月発行)が、一冊の書籍の中で、執筆者により、プログラムが著作権による保護の対象となる旨の見解とならない旨の見解と断定を控える見解が掲載されているもの(中川善之助・阿部浩二編「著作権法」昭和四八年七月発行。積極説野村義男執筆、消極説土井輝生執筆、断定留保阿部浩二執筆。)もあった。昭和四八年六月に著作権審議会第二小委員会は、プログラムが著作権法で保護されるとの見解を公表し、米国が昭和五五年著作権法を改正してプログラムを保護の対象とした昭和五〇年代には、プログラムが著作権法の保護の対象となるとする学説が多く公表されるようになったが、他方、プログラムの特殊性に着目してプログラムは産業政策的立法によって保護すべきであるとの学説もあり(例えば、中山信弘「コンピュータ・ソフトウェアと著作権法」ジュリスト昭和五七年一一月一五日号)、特に、右中山論文は、集積回路にプログラムを格納したROMをハードウェア化したソフトウェア、あるいはファームウェアとし、米国でもファームウェアを著作物として扱うか否か種々の議論があり、判例も統一されていないことを紹介すると共に、ROMの全てを著作権法でカバーすることが妥当であろうかと疑問を指摘していた。
裁判例としては、東京地方裁判所昭和五七年一二月六日判決(その一般的公表で時期の早いものは、判例時報一〇六〇号(昭和五八年一月二一日号)、判例タイムズ四八二号(昭和五八年二月一日号))、横浜地方裁判所昭和五八年三月三〇日判決(判例時報一〇八一号(昭和五八年八月二一日号)、判例タイムズ五〇六号(昭和五八年一一月一五日号))、大阪地方裁判所昭和五九年一月二六日判決(判例時報一一〇六号(昭和五九年四月一一日号)、判例タイムズ五三六号(昭和五九年一一月二五日号))、東京地方裁判所昭和六〇年三月八日判決(判例タイムズ五六一号(昭和六〇年一〇月一日号))がいずれも、ビデオゲーム機のROMに収納されたプログラムを著作物と認め、これを複製する行為を著作権の侵害に当たる旨判断していた。
一方、産業構造審議会情報産業部会が昭和五八年一二月に公表した中間答申では、プログラムの保護は著作権法ではなくて新規の立法によるべきものとされ、通商産業省はこれを受けて、プログラム権法の立法のための作業を開始し、他方、著作権審議会第六委員会が昭和五九年一月に提出した中間報告では、プログラムは、ファームウェア化されたプログラムを含めて当時の著作権法上の著作物であるが、このことを明確化するため、著作権の例示規定にプログラムを明示すること等が提言され、文化庁はこれを受けて著作権法改正の作業を開始して、通商産業省と文部省・文化庁の方針が対立したが、昭和六〇年三月までには、プログラムは著作権法により保護することに調整がつき、昭和六〇年四月に国会に上程された著作権法の一部改正法律案は成立し、同年六月一四日に法律第六二号として公布され、昭和六一年一月一日から施行された。
以上のような経緯は当裁判所に顕著である。
(三) 右(二)のようなプログラムの著作権法による保護をめぐる裁判例、学説、審議会の報告、関係官庁の立法作業の状況によれば、被告東洋の代表者であった被告村谷、取締役被告前田が、被告永井商会に被告MICを製造させるに当たってMICプログラムをそのまま複製するように指示して複製させた昭和五七年から昭和五八年一二月末まで当時は、プログラムは、何らかの法によって保護されなければならないことは社会的認識が一致していたものであり、権利者の明確なプログラムを権原なく模倣、複製する行為は違法であるとの法意識は一般のものとなっていたもので、そのような行為をあえて行う者について故意あるいは過失を認定するのは当然としても、プログラムが著作物として著作権法の適用があるのか、新種の権利として新たな立法によって保護されるもので、権利の成立、効力、権利の帰属、変動についてもその新立法によって規制されることになるのか、その場合どのような内容となるのか、特に、プログラムが収納されたROMが装置に装着され、一体の製品として取引される場合はどのように法律上扱われるのか、については、法律専門家であっても、確実な意見を述べることができない状況にあったと認めるのが相当である。
右のような状況の下で、前記三認定のような経緯によって開発され、原告から被告東洋に納品されたMICプログラムについて、被告東洋が自ら模倣、複製し、あるいは他人に模倣、複製させる権原があるものと考えて、被告村谷、被告前田が被告永井商会にMICプログラムを複製させて別のROMに収納させ、原告のMICプログラムについての著作権を侵害したことについて故意又は過失があったものとはいまだ認められない。
次に、被告東洋が被告永井商会から納入された被告MICの内一台を顧客に販売納品した昭和五八年四月六日当時の状況は右と同じであり、別の一台の被告MICを顧客に販売した昭和六〇年一月二一日当時にも、被告村谷、被告前田が当該被告MICのROMに収納されたプログラムが、MICプログラムについての原告の著作権を侵害する行為によって作成されたものであるとの情を知っていたものと認めるに足りる証拠はない。
(四) 右(二)のとおり昭和六〇年六月一四日法律第六二号により著作権法が改正され、著作物の例示として一〇条一項九号にプログラムの著作物が加えられ、同条三項のプログラムの著作物に対する保護の及ばない範囲を定める規定、一五条二項の法人著作についての特則、その他のプログラムの著作物の性質に応じた特則が加えられ、昭和六一年一月一日から施行された。
右改正により、プログラムが著作権法の保護の対象となることが明定され、過去に創作されたプログラムも保護の対象であることは経過規定の内容からも明らかであり、機械装置に装着されているROMに収納されているプログラムが対象から除外されるとか特別の規定が設けられるということはないから、そのようなプログラムも著作権法の適用を受け、保護の対象となり得るものであることも明らかとなった。
(五) 右(四)のようにプログラムの著作物に著作権法が適用されることが明白となった状況において、原告と被告東洋とは完全な別法人で両者の間のZA―FMⅡ暫定版、ZA―FXⅡ暫定版及びCA―7Ⅱの取引が通常の売買契約以上のものではないこと、ZA―FMⅡ暫定版、ZA―FXⅡ暫定版、CA―7Ⅱは、いずれも原告が自ら企画し、設計し、製作したものであり、これらに収納されているZA―FMⅡ暫定版プログラム、ZA―FXⅡ暫定版プログラム、CA―7Ⅱプログラムもまた、原告の役員、社員が自ら作成したものであり、被告東洋は、これらの開発に当たっては、原告に顧客の意見を伝え、原告の担当者を顧客先へ同行して意見を交換する機会を作り、顧客先から検体を借り出して試験に供する等の協力をしたが、装置の設計、製造、プログラムの作成そのものには何ら関与せず、原告に販売を促されて発注したものであったことは、前記三4(九)ないし(二)、三6(一)認定のとおりであること、また、被告東洋がZA―FMⅡ暫定版プログラム、ZA―FXⅡ暫定版プログラム、CA―7Ⅱプログラムの著作権を原告から譲り受けたことを証明するに足りる証拠のないことは前記四のとおりであることを被告村谷、被告前田は認識していたのであるから、両名は、これらの状況を客観的に判断し、あるいは弁護士に相談すれば、右各プログラムの著作権は原告にあることを認識できたのに、これを怠り、漫然と右各プログラムの著作権は被告東洋にあるものと考えて被告日本テクナートに、それらのプログラムをそのまま複製するよう指示し、被告日本テクナートに複製させ、原告の著作権を侵害した過失があるものと認められる。
しかし、別件高裁決定より前において、被告村谷及び被告前田が、被告ZA―FMⅢ、被告ZA―FXⅡ、被告ZA―FXⅢ、被告CA―9が原告の著作権を侵害する行為によって作成された情を知っていたことを認めるに足りる証拠はない。
(六) 前記六1(五)認定のとおり、被告東洋が昭和六二年一〇月二日に東京都立衛生研究所へ納入した被告MIC及び平成元年六月三〇日に顧客に納入した被告MICは、その前頃被告東洋が自ら製造し、又は被告永井商会以外の第三者に製造させたもので、その際MICプログラムを複製してROMに収納したものであるところ、前記(四)認定の状況のもとで(一)認定のようなMICプログラム作成の経緯を認識している被告村谷、被告前田には、右(五)と同様、漫然とMICプログラムの著作権は被告東洋にあるものと考えて、被告東洋においてこれを複製し、原告の著作権を侵害した過失があるものと認められる。
なお、被告東洋が昭和六一年八月二八日及び同年九月二六日に顧客に販売、納入した被告MIC各一台については、被告東洋が被告永井商会に製造させた四台の内の一台の可能性があり、これらにかかるプログラム複製について被告村谷、被告前田に故意、過失があると認められないことは前記(三)のとおりであり、右販売の際、被告村谷、被告前田が、それらが原告の著作権を侵害する行為により作成されたものであるとの情を知っていたことを認めるに足りる証拠はない。
(七)前記六2(二)及び(四)認定の別件高裁決定後に被告東洋が自らZA―FMⅡ暫定版プログラムを複製し収納したROMを装着した被告ZA―FMⅢ二台を製造し、その後これらを被告ZA―FXⅢに改造し、又はそれらの行為を第三者にさせ、また、被告東洋が自らMICプログラムを複製し収納したROMを装着した被告MICを製造し、又はそれらの行為を第三者にさせたのは、別件高裁決定においてそれらの行為が原告の著作権を侵害する行為であると判断された後であるから、被告村谷及び被告前田には原告の著作権を侵害する故意があったものと認められる。また、それらの製品及び前記六2(三)認定の被告ZA―FMⅢ二台の販売もそれらの製品が原告の各プログラムについての著作権を侵害する行為によって作成されたものである情を知ってされたものであると認められる。
(八) 被告村谷は被告東洋の代表者として、被告前田は被告東洋の取締役としていずれも被告東洋における職務として、共同して、右のような故意過失により原告の著作権を侵害したものであるから、被告東洋は、商法二六一条三項、七八条二項、民法四四条一項の規定及び民法七一五条の規定により、原告の受けた損害を賠償すべき責任があり、かつ、被告東洋、被告村谷、被告前田は連帯してその責任を負うものである。
2 被告日本テクナート及び被告小島
(一) 前記乙第五九号証、被告村谷本人尋問の結果及び被告小島本人尋問の結果によれば、
(1) 被告日本テクナートの代表者でもある被告小島は、昭和六一年二月頃、被告東洋から、商品の製造供給に不安が起こるようなトラブルになっているから、外注先を変えたいので、被告日本テクナートで引き受けて欲しい旨依頼されたこと、
(2) 被告小島は、昭和六一年二月ないし三月頃、被告東洋からZA―FMⅡ暫定版、ZA―FXⅡ暫定版、CA―7Ⅱと同様の機器の製造を依頼され、右機器、カタログ、取扱説明書を提供され、まず、製造を引き受けられるかどうかの検討をしたこと、
(3) 被告小島は、被告東洋に対し、右機器の製造に必要な設計図面、回路図面、プログラムリスト等の技術資料の提供を求めたが、被告東洋から、原告に全面的に製造委託していたため製造図面を持っていないとの回答を受け、右機器の製造に必要な設計図等の資料の提供を受けることができず、また、被告東洋から、製品については被告東洋が開発費用を負担しているとの説明を受けたこと、
(4) 被告小島は、被告東洋の提供したカタログに、右機器が被告東洋の製品として記載されているのを確認していたこと、
(5) 被告日本テクナートの技術者が、ZA―FMⅡ暫定版、ZA―FXⅡ暫定版、CA―7Ⅱを分解し解析したこと、その際、右機器のROMに収納されているプログラムは全く調べなかったこと、
以上の事実が認められる。
(二) 右認定の事実及びこれらの事実は前記1(四)のとおりの著作権法改正以後のことであることによれば、被告小島は、被告東洋が持ち込んできたZA―FMⅡ暫定版、ZA―FXⅡ暫定版、CA―7Ⅱは、被告東洋が原告に外注して製造していたものであることを知っており、また、被告東洋に技術資料の提供を求めた際、被告東洋から、原告に全面的に製造委託していたため技術資料を持っていないとの回答を受け、右資料の提供を受けることができなかったことで、少なくとも被告東洋は、右各機器の実際の製造に関わっておらず、被告東洋が自らの社員により右各機器を設計、製作し、プログラムを作成したのではないという事情を認識していたのであり、それにもかかわらず、右機器のROMに収納されているプログラムの真の作成者、著作権者はだれであるかを確認せずに、漫然と、ZA―FMⅡ暫定版プログラム、ZA―FXⅡ暫定版プログラム、CA―7Ⅱプログラムを複製し、ROMに収納して被告ZA―FMⅢ、被告ZA―FXⅢ、被告CA―9を製造したのであるから、被告小島には、原告の著作権を侵害するについて過失があったと認められる。したがって、商法二六一条三項、七八条二項、民法四四条の規定により、被告日本テクナートは、原告の受けた損害を賠償すべき責任があり、かつ、被告日本テクナート、被告小島は連帯してその責任を負うものである。
3 被告永井商会、被告武部
(一) 前記乙第五五号証、被告村谷本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第一六九号証、証人武部明の証言及び弁論の全趣旨によれば、
(1) 被告永井商会代表者である被告武部の子で、同社の社員でもあった武部明は、被告東洋について、製品企画をし、これを社外の会社に依頼して製品化し、これを自社ブランドの製品として販売している会社であると認識していたこと、
(2) 武部明は、昭和五七年夏頃の後、被告村谷から、原告の製造したMICを被告東洋の試作機であり、カタログもできあがっていると説明され、これと全く同じ画像処理法最小発育阻止測定装置の量産の依頼を受け、昭和五七年から昭和五八年一二月末頃までの間に四台製造したこと、
(3) 武部明は、被告村谷の説明で、同人の持ち込んできたMICが原告の試作したものと知っていたこと、
(4) 武部明は、被告東洋から、試作機といわれたMIC、取扱説明書、カタログの提供を受けただけであり、回路図面、プログラムリスト等の技術資料を求めたところ、被告前田から、そのような資料が被告東洋にないといわれ、また、MICのプログラムをそのまま使用してかまわないといわれたこと、
(5) 武部明が被告東洋から受け取ったMICには、そのフロントパネルに、「SSC TOYO」という製造銘板があり、武部明は、これに気付いており、また「SSC」が原告を示す表示であることを知っていたこと、
(6) 武部明は、被告東洋との取引経過、取引状況を全て、父で被告永井商会の代表者である被告武部に報告していたこと、
以上の事実が認められる。
(二) しかしながら、前記1(二)認定のような、昭和五七年、昭和五八年当時までの、プログラムの著作権法による保護をめぐる裁判例、学説、審議会の報告等の状況によれば、右(一)(1)ないし(6)の事実を前提としても、前記1(三)と同様の理由により、被告武部あるいは武部明が、原告が被告東洋に納入したMICに装着されたROMに収納されたMICプログラムについて、被告東洋に模倣、複製させる権原があるものと考え、被告永井商会として被告東洋から発注を受けて被告MICを製造する際、MICプログラムを複製し、別のROMに収納したこと、このROMを装着した被告MICを被告東洋に譲渡したことによってMICプログラムについての原告の著作権を侵害したことにつき、被告武部または武部明に故意又は過失があったものとはいまだ認められない。その他、MICプログラムについての原告の著作権を侵害したことについて、被告武部、武部明に故意過失があったこと、ひいては被告永井商会が賠償責任を負うことを裏付ける事実を認めるに足りる証拠はない。
また被告武部につき商法二六六条の三の規定に基づく責任を負うことを認めるに足りる証拠はない。
4 共同不法行為について
(一) 前記六1の(一)ないし(四)及び同六2(三)に認定判断したとおり、被告東洋は、被告日本テクナートに対し、ZA―FMⅡ暫定版、ZA―FXⅡ暫定版、CA―7Ⅱと同様の機器の製作を依頼し、被告日本テクナートは、これを受諾して、ZA―FMⅡ暫定版プログラム、ZA―FXⅡ暫定版プログラム、CA―7Ⅱプログラムを複製して、それぞれROMに収納し、被告ZA―FMⅢ、被告ZA―FXⅢ、被告CA―9を製造し、被告東洋は、被告日本テクナートから、これらの納入を受けて販売したのであり、したがって、被告東洋には、被告日本テクナートの行為を利用する意思があり、被告日本テクナートは、被告東洋の意を受けて、右複製行為をしたのであり、右1、2に判断したとおり、それらの行為の際、被告東洋の被告村谷、被告前田、被告日本テクナートの被告小島に故意又は過失があったものであるから、被告東洋と被告日本テクナートの行為は、共同不法行為に当たるものと認められ、前記六1の(一)ないし(四)、六2の(三)の行為による損害について、被告東洋、被告日本テクナート、被告村谷、被告前田、被告小島は連帯して責任を負うべきものである。
(二) 被告らは、被告東洋と被告日本テクナートは、全く別個独立の企業体であり、ただ、本件で対象となっている装置について、被告日本テクナートが被告東洋から注文を受けて、その製造を請け負ったにすぎず、このような請負契約関係をもって客観的な関連共同があるとはいえない旨主張するが、この主張は、右認定判断に照し、採用できない。
(三) 原告は、前記六2(一)及び(二)の行為についても被告東洋及び被告日本テクナートの共同不法行為が成立する旨主張するが、六2(一)の行為についてはプログラムの複製行為を認めることができず、六2(二)の行為については被告日本テクナートについてプログラムの複製、頒布が認められず、かつ、被告東洋の行為について、被告日本テクナートが責任を負うべき事由を認めるに足りる証拠もないので、いずれも共同不法行為が成立する余地はない。被告日本テクナートがプログラムを除く被告ZA―FMⅢ、被告ZA―FXⅢの本体部分を製造し被告東洋に納入したことをもって、被告東洋の行ったZA―FMⅡ暫定版プログラム、ZA―FXⅡ暫定版プログラムの複製、頒布について共同不法行為として責任を負うものとは認められない。
また、原告は前記六1(五)の行為の内被告永井商会製造分について被告東洋及び被告永井商会の共同不法行為が成立する旨主張するが、右1の(三)、(四)、(六)及び3に判断したとおり、被告東洋、被告永井商会共に、原告の著作権の侵害について責任を負うものではなく、共同不法行為が成立する余地はない。
5 責任論のまとめ
(一) 被告東洋、被告日本テクナート、被告村谷、被告前田、被告小島は、次の行為により原告の受けた損害について連帯して賠償責任を負うものである。
(1) 前記六1(一)認定のZA―FMⅡ暫定版二台の被告ZA―FXⅡへの改造の際のZA―FXⅡ暫定版プログラムの複製。
(2) 前記六1(二)認定の被告ZA―FMⅢ一台の被告ZA―FXⅢへの改造の際のZA―FXⅡ暫定版プログラムの複製。
(3) 前記六1(三)認定の被告ZA―FMⅢ一三台の製造の際のZA―FMⅡ暫定版プログラムの複製。
(4) 前記六1(四)認定の被告CA―9一七台の製造の際のCA―7Ⅱプログラムの複製。
(5) 前記六2(三)認定の被告ZA―FMⅢ二台の製造、販売の際のZA―FMⅡ暫定版プログラムの複製及びその複製物の頒布。
(二) 被告東洋、被告村谷、被告前田は、次の行為により原告の受けた損害について連帯して賠償責任を負うものである。
(1) 前記六1(五)認定の被告MIC中被告東洋の製造分二台の製造の際のMICプログラムの複製。
(2) 前記六2(二)認定の被告ZA―FXⅢ二台への改造のもととなった被告ZA―FMⅢ二台の製造、販売の際のZA―FMⅡ暫定版プログラム(ZA―FXⅡ暫定版プログラムと実質的には同じもの)の複製及びその複製物の頒布。
(3) 前記六2(四)認定の被告MIC四台の製造、販売の際のMICプログラムの複製及びその複製物の頒布。
(三) 被告永井商会、被告武部はいずれも原告主張の損害賠償責任を負うものではなく、その余の被告らも右(一)、(二)以外の原告主張の損害賠償責任を負うものではない。
九 損害額について
1(一) 著作権者は、故意又は過失によりその著作権を侵害した者に対し、その侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、当該著作権者が受けた損害の額と推定される(著作権法一一四条一項)。
右のような推定規定が設けられた政策的目的は、自己の著作権を侵害された著作権者が、著作権侵害による不法行為を理由に損害賠償を求めようとする場合、損害の中心となることの多い得べかりし利益の喪失による損害(逸失利益)の範囲の認定及び損害額の算定については、侵害者の侵害行為がなかったならば著作権者が得られたであろう利益という、現実に生じた事実と異なる仮定の事実に基づく推論という事柄の性質上から、侵害行為との因果関係の存在、損害額算定の基礎となる各種の数額等を証明することに困難がある場合が多いので、現実に、著作権の侵害に当たる利用行為をした侵害者がその侵害行為により得た利益の額をもって著作権者の逸失利益と推定することによって、著作権者の損害証明の方法の選択肢を増やして著作権者の救済を計ると共に、侵害者に推定覆滅のための証明をする余地を残して、著作権者に客観的に妥当な逸失利益の回復を得させることにあるものと解される。そして、右推定規定の前提には、当該著作物を利用して侵害者が現実にある利益を得ている以上、本来の著作権者が、同様の方法で著作物を利用するかぎり同じ利益を得られる蓋然性があるとの推定を裏付ける社会的事実の認識があるものと認められる。
したがって、推定の前提事実である侵害者が侵害の行為により受けた利益の意味も、財務会計上の利益概念にとらわれることなく、推定される事実との関係で定めるべきであり、本件の原告のように、装置を制御するプログラムの著作権者がそのプログラムによって制御する装置の開発を完了し、現実に営業的製造販売を行っている場合には、原告としては既に工場設備や直接当該装置の製造販売に従事する従業員の慣熟のための訓練や管理部門の従業員の雇用は確定したものとなっているのであるから、新たな設備投資や従業員の雇用、訓練を要さず、そのままの状態で製造販売ができる台数の範囲内では、原告の逸失利益とは、当該装置一台分の失われた売上額から当該装置の製造販売のための変動経費のみを控除した限界利益とでもいうべきものの、台数分と考えるべきである。前記八5の(一)及び(二)にまとめた被告永井商会、被告武部以外の被告らが損害賠償責任を負う被告製品の製造販売台数は、原告において新たな設備投資や従業員の雇用、訓練を要さず、そのままの状態で製造販売ができる台数の範囲内にあるものと認められるところ、推定される対象の逸失利益がそのようなものである本件の場合は、推定の前提事実である侵害者が侵害の行為により受けた利益も、被告製品の売上額からその製造販売のための変動経費のみを控除した額と考えるのが相当であり、被告製品の開発費用、製造上の慣熟のために要した人件費(製造の当初、従業員が作業に慣熟していないため本来よりも多く作業時間を要したことによる費用を含む。)、一般管理費、営業外費用、租税公課、製造装置の償却費等は控除の対象とはしないものと解するのが相当である。
被告らは、著作権法一一四条一項所定の「利益」の算出に当たっては、一般管理費、営業外損益及び特別損益を差し引くべきである旨主張するが、被告らの右主張は、先に説明した理由により採用することができない。
(二) また、被告製品は、その基盤に装着されたROMに収納されたプログラムの複製、頒布は原告の著作権の侵害であるが、それ以外の装置本体部分の製造、販売は侵害とはいえないから、このような製品の場合には、推定の前提事実となる被告らの得た利益とは、被告製品全体の製造、販売による利益中の当該著作物の寄与による利益をいうものと解するのが相当である。
被告らは、本件各機器は、それぞれ役割を与えられた部品群が有機的に結合、作動してはじめて財貨としての意義を持つものであり、部品一つ一つだけでは全くの無価値であり何の役にも立たず、仮に本件プログラム自体について原告の得べかりし利益を想定することが可能であるとしても、これと本件右各プログラムを内蔵した機器を販売することによって得られた利益との間には何らの論理的対応関係も認めることができないから、著作権法一一四条一項を適用することができない旨主張するが、著作権法一一四条一項の規定にいう「利益」とは、当該侵害行為によって侵害者が受けた利益のことであり、本件の場合、侵害行為は被告らが前記認定のとおり本件各プログラムの複製を収納したROMを一部品として装着した被告ZA―FMⅡ、被告ZA―FMⅢ、被告ZA―FXⅢ、被告CA―9、被告MICを製造、販売することであるから、これによって得られる利益中の本件各プログラムの複製の寄与による利益の部分を同項にいう利益と解すべきであり、それは被告製品の製造販売による利益を基に算定することが可能であるから、被告らの右主張は失当である。
(三) 原告は、被告製品のうち、被告日本テクナートが製造して被告東洋に納入し、被告東洋が顧客に販売したものについては、被告東洋の売上から被告日本テクナートが製造に要した経費を控除して、被告らの受けた利益として主張しているが、被告小島本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる乙第五六号証、被告前田、被告村谷、被告小島各本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、被告東洋と被告日本テクナートとは別法人で、被告日本テクナートが被告東洋の委託を受けて機器を製造し被告東洋に納入するという取引上の関係があるが、それ以上の資本的、人的関係はないこと、被告製品の取引は、被告日本テクナート側がいわゆる商社金融を得る目的と売買代金債権担保の目的で、両者の中間に商社である訴外某社を介在させ、被告東洋から某社へ、某社から被告日本テクナートへと順次発注され、製品はその逆に、被告日本テクナートから某社へ、某社から被告東洋へと売り渡されるもので、某社も被告日本テクナートからの買い入れ代金と被告東洋への売り渡し代金の差額を利益として取得していることが認められ、これらの事実によれば、右原告の主張は採用できず、被告東洋の受けた利益を認定して、これにより被告東洋の侵害行為による原告の損害の額を推定し、被告日本テクナートの受けた利益を認定して、これにより被告日本テクナートの侵害行為による原告の損害の額を推定し、被告東洋及び被告日本テクナートの共同不法行為にかかる損害については両者を合算して、その賠償額を算定するのが相当である。
2 被告日本テクナートの受けた利益に基づく被告日本テクナートの侵害行為による原告の損害の推定
(一) 被告ZA―FMⅢの製造販売の際のZA―FMⅡ暫定版プログラムを複製する行為による利益の額による原告の損害の推定
成立に争いのない甲第一八六号証、前記乙第五八号証、証人中村隆明の証言、原告代表者尋問の結果、被告小島本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(1) 被告日本テクナートは、訴外某社に対し、被告東洋に納入される被告ZA―FMⅢ一六台を合計二七五三万六〇〇〇円で販売したもので、その一台当たりの価格は一七二万一〇〇〇円となる。
(2) 被告日本テクナートが被告ZA―FMⅢ一六台を製造するために要した材料費、外注費は合計一七九八万二九五三円であり、一台当たりでは一一二万三九三五円であった。
(3) 被告日本テクナートが被告ZA―FMⅢ一六台を製造するために要した作業時問は合計三五一三時間で、計算上一台当たり219.5時間となる。しかし、その内容を詳細にみると、最初の三台のロットが二〇六七時間(一台当たり、六八九時間)、次の三台のロットが六一七時間(一台当たり、約二〇六時間)、次の三台のロットが二七二時間(一台当たり、約九一時間)、次の七台のロットが、五五七時間(一台当たり、約八〇時間)となっており、最初の二ロット分は極端に作業時間が多く、被告製品の開発、製造上の慣熟のために要した時間等を含むものと解されるので、後半の二ロット分一〇台の作業時間合計八二九時間から算出した一台当たり八三時間が通常の一台当りの作業時間と認められる。
次に、被告日本テクナートの製造に関わった直接作業者の時間単価を算出する。
被告日本テクナートは、FA機器、OA機器、医療機器等の受託開発、製造業務を主としつつ、自社製品の製造、販売業務も一部行っているところ、被告製品を製造した当時の被告日本テクナートの役員を含めた社員総数は三二名で、そのうち二〇名が直接に製造に関わる直接作業者であり、その月毎の所定内労働時間は164.5時間、月平均残業時間は四〇時間であったから、二〇名の年間作業時間の合計は四万九〇八〇時間である。
他方、被告日本テクナートの、役員報酬をも含めた社員三二名の総人件費は、昭和六二年九月期が一億七四八三万二〇〇〇円、昭和六三年九月期が一億八五七二万五〇〇〇円であり、右各事業年度の被告日本テクナートの直接作業者二〇名の人件費を、その余の役員、社員と区別すべき特段の事情もないので人数に比例して案分すれば、直接作業者の人件費の合計は総人件費の三二分の二〇に当たり、昭和六二年九月期が一億〇九二七万円、昭和六三年九月期が一億一六〇七万八一二五円となる。
右各事業年度の被告日本テクナートの直接作業者の時間単価は、直接作業者二〇名の人件費を直接作業者二〇名の年間平均作業時間四万九〇八〇時間で割ったものとするのが相当であり、その時間単価を算出すると、昭和六二年九月期が二二二六円、昭和六三年九月期が二三六五円であり、これを平均した時間単価は、二二九六円となる。
したがって、被告日本テクナートが通常被告ZA―FMⅢ一台を製造するために要する作業時間八三時間に、直接作業者の平均の時間単価二二九六円を乗じた一九万〇五六八円が、被告ZA―FMⅢ一台を製造するために要する人件費である。
(4) 被告日本テクナートの昭和六二年九月期の売上高は七億二三〇〇万円、諸経費は五一三六万三〇〇〇円であり、売上高に占める諸経費の比率は約7.10パーセントとなり、昭和六三年九月期の売上高は八億五六〇〇万円、諸経費は五四九一万九〇〇〇円であり、売上高に占める諸経費の比率は約6.42パーセントとなる。この諸経費の中には、福利厚生費、賃借料、交通費、水道光熱費、販売費、一般管理費を含むもので、被告ZA―FMⅢの製造販売に直接要するものとはいえない費目も含まれることを考慮すると、被告日本テクナートが被告ZA―FMⅢ一台を製造販売するために直接要した前記材料・外注費、人件費以外の諸経費が、販売価格一七二万一〇〇〇円の五パーセントである八万六〇五〇円を超えることを認めるに足りる証拠はなく、右金額が相当である。
(5) よって、被告日本テクナートが被告ZA―FMⅢ一台を製造販売することによって得た利益は、販売価格一七二万一〇〇〇円から、材料費、外注費一一二万三九三五円と人件費一九万〇五六八円と直接経費八万六〇五〇円との合計一四〇万〇五五三円を控除した三二万〇四四七円となる。
(6) ZA―FMⅡ暫定版のハード部分とソフト部分すなわちZA―FMⅡ暫定版プログラムとは、それぞれがいずれも汎用性がなく、また、ZA―FMⅡ暫定版が所定の作動をし、所定の性能を維持するためには、双方が不可欠であり、重要性については甲乙つけがたいものである。
しかし、その価値を量的に比較しようとする時、原告がハード部分、ソフト部分の開発に要した費用も一応の基準となりうるものと考えられるところ、ZA―FMⅡ暫定版のハード部分の開発費は約八二〇万円、プログラムの開発費は三〇〇万円であったから、ZA―FMⅡ暫定版の全開発費に対するプログラムの開発費の比率は26.7パーセントである。
他方、他人に対して主張できる権利としての面を考えると、ZA―FMⅡ暫定版のハード部分については、特許権その他の存在が認められないのに対し、プログラムについては原告が著作権を有している。また、製造上の経費の面からは、ZA―FMⅡ暫定版のハード部分の製造には相応の材料費、工賃を必要とするのに対し、ソフト部分の複製はそれよりもはるかに容易であり、その意味では利益獲得への寄与度が大きいともいうことができる。
右のような事情は、ZA―FMⅡ暫定版を模倣した被告ZA―FMⅢについても同様であり、これらの諸事情を総合すれば、被告日本テクナートが被告ZA―FMⅢの製造販売によって取得した利益の内、被告ZA―FMⅢプログラムの寄与の割合は三五パーセントと認めるのが相当である。
(7) したがって、被告日本テクナートが被告ZA―FMⅢ一台を製造販売するにあたって、ZA―FMⅡ暫定版プログラムを複製する行為によって得た利益は、一一万二〇〇〇円(一〇〇〇円未満四捨五入)であり、前記六1(三)認定の一三台と、前記六2(三)認定の二台との合計一五台分の利益は一六八万円となる。
右(7)の事実によれば、原告は、被告日本テクナートが被告ZA―FMⅢを前記六1(三)認定の一三台と、前記六2(三)認定の二台との合計一五台製造販売するにあたってZA―FMⅡ暫定版プログラムの著作権を侵害する行為によって、同額の得べかりし利益を失ったものと推定される。
(二) 被告CA―9を製造販売する際のCA―7Ⅱプログラムを複製する行為による利益の額による原告の損害の推定
前記甲第一八六号証、乙第五八号証、証人中村隆明の証言、原告代表者尋問の結果、被告小島本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(1) 被告日本テクナートは、訴外某社に対し、被告東洋に納入される被告CA―9三〇台を合計四一九六万二四〇〇円で販売したもので、その一台当たりの価格は一三九万八七四六円となる。
(2) 被告日本テクナートが被告CA―9三〇台を製造するために要した材料費、外注費は合計二六二六万八八〇八円であり、一台当たりでは八七万五六二六円であった。
(3) 被告日本テクナートが被告CA―9三〇台を製造するために要した作業時間は合計五〇二六時間で、計算上一台当たり167.5時間となる。しかし、その内容を詳細にみると、最初の一〇台のロットが三四四二時間(一台当たり、344.2時間)、次の一〇台のロットが一〇七〇時間(一台当たり、一〇七時間)、次の一〇台のロットが五一四時間(一台当たり、51.4時間)となっており、最初の二ロット分は極端に作業時間が多く、被告製品の開発、製造上の慣熟のために要した時間等を含むものと解されるので、最後の一ロット分一〇台の作業時間から算出した一台当たり51.4時間が通常の一台当たりの作業時間と認められる。
被告日本テクナートの製造に関わった直接作業者の平均時間単価を算出すると前記(一)(3)のとおり二二九六円となる。
したがって、被告日本テクナートが通常被告CA―9一台を製造するために要する作業時間五一・四時間に、直接作業者の平均の時間単価二二九六円を乗じた一一万八〇一四円が、被告CA―9一台を製造するために要する人件費である。
(4) 被告日本テクナートが被告CA―9一台を製造販売するために直接要した前記材料・外注費、人件費以外の諸経費が、平均販売価格一三九万八七四六円の五パーセントである六万九九三七円を超えることを認めるに足りる証拠はなく、右金額が相当であることは、前記(一)(1)と同様である。
(5) よって、被告日本テクナートが被告CA―9一台を製造販売することによって得た利益は、平均販売価格一三九万八七四六円から、材料費、外注費八七万五六二六円と人件費一一万八〇一四円と直接経費六万九九三七円との合計一〇六万三五七七円を控除した三三万五一六九円となる。
(6) CA―7Ⅱのハード部分の開発費は三六八万七六〇〇円、プログラムの開発費は一二〇万六〇〇〇円であったから、CA―7Ⅱの全開発費に対するプログラムの開発費の比率は24.6パーセントであることの他、前記(一)(6)の諸事情を総合すれば、被告日本テクナートが被告CA―9の製造販売によって取得した利益の内、被告CA―9プログラムの寄与の割合も三五パーセントと認めるのが相当である。
(7) したがって、被告日本テクナートが被告CA―9一台を製造販売するにあたって、CA―7Ⅱプログラムを複製する行為によって得た利益は、一一万七〇〇〇円(一〇〇〇円未満四捨五入)であり、前記六1(四)認定の一七台分の利益は合計一九八万九〇〇〇円となる。
右(7)の事実によれば、原告は、被告日本テクナートが被告CA―9を前記六1(四)認定の一七台製造販売するにあたってCA―7Ⅱプログラムの著作権を侵害する行為によって、同額の得べかりし利益を失ったものと推定される。
(三) ZA―FMⅡ暫定版を被告ZA―FXⅡに改造する際、被告ZA―FMⅢを被告ZA―FXⅢに改造する際の、ZA―FXⅡ暫定版プログラムを複製する行為による利益の額による原告の損害の推定
前記甲第一八六号証、乙第五八号証、証人中村隆明の証言、原告代表者尋問の結果、被告小島本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(1) 被告日本テクナートは、訴外某社に対し、被告東洋が発注元の、被告ZA―FMⅢ一台を被告ZA―FXⅢに改造する作業を完成して納品し、一三四万七〇〇〇円の代金を得た。
(2) 被告日本テクナートが被告ZA―FMⅢ一台を被告ZA―FXⅢに改造するために要した材料費、外注費は一七万九六九七円であった。
(3) 被告日本テクナートが被告ZA―FMⅢ一台を被告ZA―FXⅢに改造するために要した作業時間は二五時間であった。
被告日本テクナートの製造に関わった直接作業者の平均時間単価を算出すると前記(一)(3)のとおり二二九六円となる。
したがって、被告日本テクナートが被告ZA―FMⅢ一台を被告ZA―FXⅢに改造するために要した作業時間二五時間に、直接作業者の平均の時間単価二二九六円を乗じた五万七四〇〇円が、被告ZA―FMⅢ一台を被告ZA―FXⅢに改造するために要する人件費である。
(4) 被告日本テクナートが被告ZA―FMⅢ一台を被告ZA―FXⅢに改造するために直接要した前記材料・外注費、人件費以外の諸経費が、代金一三四万七〇〇〇円の五パーセントである六万七三五〇円を超えることを認めるに足りる証拠はなく、右金額が相当であることは、前記(一)(4)と同様である。
(5) よって、被告日本テクナートが被告ZA―FMⅢ一台を被告ZA―FXⅢに改造することによって得た利益は、代金一三四万七〇〇〇円から、材料費、外注費一七万九六九七円と人件費五万七四〇〇円と直接経費六万七三五〇円との合計三〇万四四四七円を控除した一〇四万二五五三円となる。
(6) ZA―FXⅡ暫定版の開発費は、ZA―FMⅡ暫定版と共通で、ハード部分が約八二〇万円、プログラムが三〇〇万円であったから、ZA―FXⅡ暫定版の全開発費に対するプログラムの開発費の比率は26.7パーセントである。このことの他、前記(一)(6)の諸事情を総合すれば、被告日本テクナートがZA―FMⅡ暫定版を模倣した被告ZA―FMⅢ一台をZA―FXⅡ暫定版を模倣した被告ZA―FXⅢに改造することによって得た利益の内、ZA―FXⅡ暫定版プログラムを複製した被告ZA―FXⅢプログラムの寄与の割合も三五パーセントと認めるのが相当である。
(7) したがって、被告日本テクナートが前記六1(二)のとおり被告ZA―FMⅢ一台を被告ZA―FXⅢに改造するにあたって、ZA―FXⅡ暫定版プログラムを複製する行為によって得た利益は、三六万五〇〇〇円(一〇〇〇円未満四捨五入)である。
被告ZA―FMⅢはZA―FMⅡ暫定版の模倣であり、被告ZA―FXⅡは被告ZA―FXⅢと同じくZA―FXⅡ暫定版を模倣したものであるから、ZA―FMⅡ暫定版を被告ZA―FXⅡに改造する際のZA―FXⅡ暫定版プログラムを複製する行為による利益も、右と同じく一台につき三六万五〇〇〇円であり、前記六1(一)認定の二台分の利益は七三万円となる。
以上の三台分の利益の合計は一〇九万五〇〇〇円となる。
右(7)の事実によれば、原告は、被告日本テクナートが、前記六1(一)認定のとおりZA―FMⅡ暫定版二台を被告ZA―FXⅡに改造する際、前記六1(二)認定のとおり被告ZA―FMⅢ一台を被告ZA―FXⅢに改造する際の、ZA―FXⅡ暫定版プログラムの著作権を侵害する行為によって、同額の得べかりし利益を失ったものと推定される。
(四) 右(一)ないし(三)により推定される原告の損害額は、合計四七六万四〇〇〇円となる。
3 被告東洋の受けた利益に基づく被告東洋の侵害行為による原告の損害の推定
(その1……被告日本テクナートとの共同不法行為が成立する行為関係)
(一) 被告ZA―FMⅢの製造販売の際のZA―FMⅡ暫定版プログラムの著作権を侵害する行為による利益の額による原告の損害の推定
前記乙第五三号証、弁論の全趣旨により原本の存在及び成立の認められる甲第一八一号証、証人中村隆明の証言、原告代表者尋問の結果、被告前田本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(1) 被告東洋は、被告日本テクナートが前記訴外某社に納入した被告ZA―FMⅢ一三台を訴外某社から購入し、これを顧客に合計七八一一万二八〇〇円で販売したもので、一台当たりの平均販売価格は六〇〇万八六七七円となる。
(2) 被告東洋が訴外某社から購入した被告ZA―FMⅢの仕入価格は一台当たり一九八万四一八〇円であった。
(3) 被告東洋の昭和六一年度ないし平成元年度(各年度当年四月から翌年三月まで)の総売上高と役員三名の報酬、販売部門及び製造部門の経費を全て含む販売費及び一般管理費は、次のとおりであった。
総売上高 販売費及び一般管理費
昭和六一年度
五億七九六〇万一〇〇〇円
一億三〇八一万四〇〇〇円
昭和六二年度
五億二八二九万七〇〇〇円
一億三〇三〇万三〇〇〇円
昭和六三年度
四億八三二六万二〇〇〇円
一億二四一一万五〇〇〇円
平成元年度
四億一三二七万五〇〇〇円
一億〇九一六万九〇〇〇円
前記八1認定のとおり、被告東洋は、昭和六二年前後頃には、役員を除いた営業所で勤務する社員、工場で勤務する社員がそれぞれ約七名であり、前者は概ね製品の販売活動に従事し、後者は概ね製品の製造活動に従事しており、役員三名は双方の活動に従事しているものと推認される。
したがって、被告東洋における直接販売経費は、販売費及び一般管理費の二分の一とするのが相当であり、被告東洋の昭和六一年度ないし平成元年度の直接販売経費及び総売上高に占める直接販売経費の率は、次のとおりである。
直接販売経費 直接販売経費の率
昭和六一年度
六五四〇万七〇〇〇円
11.28%
昭和六二年度
六五一五万一五〇〇円
12.33%
昭和六三年度
六二〇五万七五〇〇円
12.84%
平成元年度
五四五八万四五〇〇円
13.21%
右四年度の直接販売経費の率の平均は12.42%である。
したがって、被告東洋が被告ZA―FMⅢ一台を販売するために直接要した販売経費が、平均販売価格六〇〇万八六七七円の12.42パーセントである七四万六二七八円を超えることを認めるに足りる証拠はなく、右金額が相当である。
(4) よって、被告東洋が被告ZA―FMⅢ一台を販売することによって得た利益は、平均販売価格六〇〇万八六七七円から、仕入価格一九八万四一八〇円と直接販売経費七四万六二七八円との合計二七三万〇四五八円を控除した三二七万八二一九円となる。
(5) 前記2(一)(6)のとおり、被告東洋が被告ZA―FMⅢの製造販売によって取得した利益の内、被告ZA―FMⅢプログラムの寄与の割合は三五パーセントと認めるのが相当である。
(6) したがって、被告東洋が被告ZA―FMⅢ一台を販売して得た利益の内、ZA―FMⅡ暫定版プログラムを侵害する行為によって得た利益は、一一四万七〇〇〇円(一〇〇〇円未満四捨五入)であり、前記六1(三)認定の一三台と、前記六2(三)認定の二台との合計一五台分の利益は一七二〇万五〇〇〇円となる。
右(6)の事実によれば、原告は、被告東洋が被告ZA―FMⅢを前記六1(三)認定の一三台と、前記六2(三)認定の二台との合計一五台製造販売するにあたってZA―FMⅡ暫定版プログラムの著作権を侵害した行為によって、同額の得べかりし利益を失ったものと推定される。
前記六1(三)認定の一三台の販売の当時、被告東洋はそれらの被告ZA―FMⅢのROMに収納された被告ZA―FMⅢプログラムが原告の著作権を侵害する行為によって作成された情を知っていたことを認めるに足りないことは、前記八1(五)に認定判断したとおりであるが、被告東洋は、過失により、被告日本テクナートに原告の各プログラムをそのまま複製するよう指示して被告日本テクナートに複製させ、原告の著作権を侵害したのであるから、そのプログラムを収納した被告製品を中間商社である訴外某社を介して納入を受け、これを販売して得た利益は、原告の著作権を侵害する行為によって受けた利益に当たることは当然である。
(二) 被告CA―9を製造販売する際のCA―7Ⅱプログラムの著作権を侵害する行為による利益の額による原告の損害の推定
前記甲第一八一号証、乙第五三号証、証人中村隆明の証言、原告代表者尋問の結果、被告前田本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(1) 被告東洋は、被告日本テクナートが前記訴外某社に納入した被告CA―9一六台を訴外某社から購入し、これを顧客に合計五二二五万三四八〇円で販売したもので、一台当たりの平均販売価格は三二六万五八四三円となる。
(2) 被告東洋が訴外某社から購入した被告CA―9一六台の仕入価格は合計二七〇〇万六四三〇円であり、一台当たり平均一六八万七九〇二円であった。
(3) 被告東洋の昭和六一年度ないし平成元年度(各年度当年四月から翌年三月まで)の直接販売経費の率の平均は前記(一)(3)のとおり、12.42%である。
被告東洋が被告CA―9一台を販売するために直接要した販売経費が、平均販売価格三二六万五八四三円の12.42パーセントである四〇万五六一七円を超えることを認めるに足りる証拠はなく、右金額が相当である。
(4) よって、被告東洋が被告CA―9一台を販売することによって得た利益は、平均販売価格三二六万五八四三円から、仕入価格一六八万七九〇二円と直接販売経費四〇万五六一七円との合計二〇九万三五一九円を控除した一一七万二三二四円となる。
(5) 前記2(二)(6)のとおり、被告東洋が被告CA―9の製造販売によって取得した利益の内、被告CA―9プログラムの寄与の割合は三五パーセントと認めるのが相当である。
(6) したがって、被告東洋が被告CA―9一台を販売して得た利益の内、CA―7Ⅱプログラムを侵害する行為によって得た利益は、四一万円(一〇〇〇円未満四捨五入)であり、前記六1(四)認定の一七台分の利益は六九七万円となる。
右(6)の事実によれば、原告は、被告東洋が被告CA―9を前記六1(四)認定の一七台を製造販売するにあたってCA―7Ⅱプログラムの著作権を侵害する行為によって、同額の得べかりし利益を失ったものと推定される。
前記六1(四)認定の一七台の販売の当時、被告東洋はそれらの被告CA―9のROMに収納された被告CA―9プログラムが原告の著作権を侵害する行為によって作成された情を知っていたことを認めるに足りないことは、前記八1(五)に認定判断したとおりであるが、被告東洋がそのプログラムを収納した被告製品を販売して得た利益は、原告の著作権を侵害する行為によって受けた利益に当たることは、右(一)に判断したとおりである。
(三) ZA―FMⅡ暫定版を被告ZA―FXⅡに改造する際、被告ZA―FMⅢを被告ZA―FXⅢに改造する際の、ZA―FXⅡ暫定版プログラムの著作権を侵害する行為による利益の額による原告の損害の推定
前記甲第一八一号証、甲第一九二号証、乙第五三号証、証人中村隆明の証言、原告代表者尋問の結果、被告前田本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(1) 被告東洋は、被告日本テクナートが前記訴外某社に納入した被告ZA―FMⅢを被告ZA―FXⅢに改造したもの一台を訴外某社から購入し、これを顧客に一一三八万六五〇〇円で販売したものであり、原告が被告東洋に販売したZA―FMⅡ暫定版を被告日本テクナートに被告ZA―FXⅡに改造させたものも、同額で販売されたものとみられる。
(2) 被告東洋が訴外某社から購入した被告ZA―FMⅢを被告ZA―FXⅢに改造したものの、改造前の被告ZA―FMⅢ自体の仕入価格と改造作業についての仕入価格を合わせた仕入価格合計は五〇五万七六〇〇円であった。
このうち、改造前の被告ZA―FMⅢの仕入価格は前記(一)(2)のとおり一九八万四一八〇円であったから、改造作業についての仕入価格は三〇七万三四二〇円となる。
被告東洋が原告から購入したZA―FMⅡ暫定版を被告ZA―FXⅡに改造したものの、改造前のZA―FMⅡ暫定版の仕入価格は一台四〇〇万円であり、これと改造作業についての仕入価格と同じと解される被告ZA―FMⅢから被告ZA―FXⅢへの改造作業についての被告東洋の仕入価格三〇七万三四二〇円を合わせた仕入価格合計は七〇七万三四二〇円となる。
(3) 被告東洋の昭和六一年度ないし平成元年度(各年度当年四月から翌年三月まで)の直接販売経費の率の平均は前記(一)(3)のとおり、12.42%である。
被告東洋が被告ZA―FXⅢを販売するために直接要した販売経費が、販売価格一一三八万六五〇〇円の12.42パーセントである一四一万四二〇三円を超えることを認めるに足りる証拠はなく、右金額が相当である。
(4) よって、被告東洋が被告ZA―FMⅢを被告ZA―FXⅢに改造したもの一台を販売することによって得た利益は、販売価格一一三八万六五〇〇円から、仕入価格五〇五万七六〇〇円と直接販売経費一四一万四二〇三円との合計六四七万一八〇三円を控除した四九一万四六九七円となる。
また、被告東洋が原告から購入したZA―FMⅡ暫定版を被告ZA―FXⅡに改造したもの一台を販売することによって得た利益は、販売価格一一三八万六五〇〇円から、仕入価格七〇七万三四二〇円と直接販売経費一四一万四二〇三円との合計八四八万七六二三円を控除した二八九万八八七七円となる。
(5) 前記2(三)(6)のとおり、被告東洋が改造被告ZA―FXⅢ、改造被告ZA―FXⅡの製造販売によって取得した利益の内、被告ZA―FXⅢプログラム、被告ZA―FXⅡプログラムの寄与の割合は三五パーセントと認めるのが相当である。
(6) したがって、被告東洋が被告ZA―FXⅢ一台を販売して得た利益の内、ZA―FXⅡ暫定版プログラムを侵害する行為によって得た利益は、一七二万円(一〇〇〇円未満四捨五入)である。
また、被告東洋が被告ZA―FXⅡ一台を販売して得た利益の内、ZA―FXⅡ暫定版プログラムを侵害する行為によって得た利益は、一〇一万五〇〇〇円(一〇〇〇円未満四捨五入)であり、前記六1(一)認定の二台分の利益は二〇三万円となる。
右(6)の事実によれば、原告は、被告東洋が、前記六1(二)認定のとおり被告ZA―FXⅢ一台を改造販売するにあたってZA―FXⅡ暫定版プログラムの著作権を侵害する行為によって、一七二万円の得べかりし利益を失ったものと推定される。
また、原告は、被告東洋が、前記六1(一)認定のとおり被告ZA―FXⅡ二台を改造販売するにあたってZA―FXⅡ暫定版プログラムの著作権を侵害する行為によって、二〇三万円の得べかりし利益を失ったものと推定される。
被告東洋がそのプログラムを収納した被告製品を販売して得た利益は、原告の著作権を侵害する行為によって受けた利益に当たることは、右(一)に判断したとおりである。
(四) 右(一)ないし(三)により推定される原告の損害額は、合計二七九二万五〇〇〇円となる。
4 被告東洋の受けた利益に基づく被告東洋の侵害行為による原告の損害の推定
(その2……被告日本テクナートとの共同不法行為が成立しない行為関係)
(一) 被告MICの製造販売の際のMICプログラムの著作権を侵害する行為による利益の額による原告の損害の推定
前記乙第五三号証、原告代表者尋問の結果、被告前田本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(1) 被告東洋が販売した被告MIC五台の販売価格の合計は四〇七万八八〇〇円で、一台当たりの平均販売価格は八一万五七六〇円となる。
(2) 被告東洋が他社から購入した被告MICの仕入価格は一台当たり二五万円であった。
(3) 被告東洋の昭和六一年度ないし平成元年度(各年度当年四月から翌年三月まで)の直接販売経費の率の平均は前記3(一)(3)のとおり、12.42%である。
被告東洋が被告MIC一台を販売するために直接要した販売経費が、平均販売価格八一万五七六〇円の12.42パーセントである一〇万一三一七円を超えることを認めるに足りる証拠はなく、右金額が相当である。
(4) よって、被告東洋が被告MIC一台を販売することによって得た利益は、平均販売価格八一万五七六〇円から、仕入価格二五万円と直接販売経費一〇万一三一七円との合計三五万一三一七円を控除した四六万四四四三円となる。
(5) MICのハード部分とソフト部分すなわちMICプログラムとは、それぞれがいずれも汎用性がなく、また、MICが所定の作動をし、所定の性能を維持するためには、双方が不可欠であり、重要性については甲乙つけがたいものである。
しかし、その価値を量的に比較しようとする時、原告がハード部分、ソフト部分の開発に要した費用も一応の基準となりうるものと考えられるところ、MICのハード部分の開発費は約二八〇万円、プログラムの開発費は二三八万円であったから、MICの全開発費に対するプログラムの開発費の比率は45.9パーセントである。
他方、他人に対して主張できる権利としての面を考えると、MICのハード部分については、特許権その他の存在が認められないのに対し、プログラムについては原告が著作権を有している。また、製造上の経費の経費の面からは、MICのハード部分の製造には相応の材料費、工賃を必要とするのに対し、ソフト部分の複製はそれよりもはるかに容易であり、その意味では利益獲得への寄与度が大きいともいうことができる。
右のような事情は、MICを模倣した被告MICについても同様であり、これらの諸事情を総合すれば、被告東洋が被告MICの製造販売によって得た利益の内、被告MICプログラムの寄与の割合は六〇パーセントと認めるのが相当である。
(6) したがって、被告東洋が被告MIC一台を販売して得た利益の内、MICプログラムを侵害する行為によって得た利益は、二七万九〇〇〇円(一〇〇〇円未満四捨五入)であり、前記六1(五)認定の被告MICの内被告東洋又は第三者製造とされる二台分の利益は五五万八〇〇〇円、前記六2(四)認定の四台分の利益は一一一万六〇〇〇円、それらの合計六台分の利益は一六七万四〇〇〇円となる。
右(6)の事実によれば、原告は、被告東洋が被告MICを前記六1(五)認定の二台と、前記六2(四)認定の四台との合計六台製造販売するにあたってMICプログラムの著作権を侵害する行為によって、同額の得べかりし利益を失ったものと推定される。
前記六1(五)認定の二台の販売の当時、被告東洋はそれらの被告MICのROMに収納された被告MICプログラムが原告の著作権を侵害する行為によって作成された情を知っていたことを認めるに足りないことは、前記八1(六)に認定判断したとおりであるが、被告東洋は、過失により、自社内で、又は第三者に原告のMICプログラムをそのまま複製するよう指示して複製させ、原告の著作権を侵害したのであるから、そのプログラムを収納した被告製品を販売して得た利益は、原告の著作権を侵害する行為によって受けた利益に当たることは当然である。
(二) 別件高裁決定以後に被告ZA―FXⅢに改造した被告ZA―FMⅢの製造販売する際の、ZA―FXⅡ暫定版プログラムの著作権を侵害する行為による利益の額による原告の損害の推定
前記甲第一九二号証、乙第五三号証、原告代表者尋問の結果、被告前田本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(1) 被告東洋が、前記六2(二)認定の被告ZA―FXⅢに改造した元の被告ZA―FMⅢを販売した際の価格を直接認定するに足りる証拠はないが、前記3(一)(1)のとおり、被告東洋の被告ZA―FMⅢの一台当たりの平均販売価格は六〇〇万八六七七円であるから、前記六2(二)認定の被告ZA―FXⅢに改造した元の被告ZA―FMⅢも同額で販売されたものとみられる。
(2) 被告東洋が、前記六2(二)認定の被告ZA―FXⅢに改造した元の被告ZA―FMⅢを自ら製造したとしてその製造費、あるいは第三者から仕入れたとしてその仕入価格を直接認定するに足りる証拠はないが、前記3(一)(2)のとおり、被告東洋が訴外某社から購入した被告日本テクナート製の被告ZA―FMⅢの仕入価格は一台当たり一九八万四一八〇円であったから、前記六2(二)認定の被告ZA―FXⅢに改造した元の被告ZA―FMⅢも同額で仕入れられたものと推認される。
(3) 被告東洋の昭和六一年度ないし平成元年度(各年度当年四月から翌年三月まで)の直接販売経費の率の平均は前記3(一)(3)のとおり、12.42%である。
被告東洋が被告ZA―FMⅢを販売するために直接要した販売経費が、販売価格六〇〇万八六七七円の12.42パーセントである七四万六二七七円を超えることを認めるに足りる証拠はなく、右金額が相当である。
(4) よって、被告東洋が前記六2(二)認定の被告ZA―FXⅢに改造した元の被告ZA―FMⅢ一台を製造販売することによって得た利益は、販売価格六〇〇万八六七七円から、仕入価格一九八万四一八〇円と直接販売経費七四万六二七七円との合計二七三万〇四五七円を控除した三二七万八二二〇円となる。
(5) 前記3(一)(5)のとおり、被告東洋が被告ZA―FMⅢの製造販売によって取得した利益の内、被告ZA―FMⅢプログラムの寄与の割合は三五パーセントと認めるのが相当である。
(6) したがって、被告東洋が被告ZA―FMⅢ一台を販売して得た利益の内、ZA―FMⅡ暫定版プログラムを侵害する行為によって得た利益は、一一四万七〇〇〇円(一〇〇〇円未満四捨五入)であり、前記六2(二)認定の二台分の利益は二二九万四〇〇〇円となる。
右(6)の事実によれば、原告は、被告東洋が、前記六2(二)認定の被告ZA―FXⅢに改造した元の被告ZA―FMⅢ二台を製造販売するにあたってZA―FMⅡ暫定版プログラムの著作権を侵害する行為によって、二二九万四〇〇〇円の得べかりし利益を失ったものと推定される。
(三) 右(一)及び(二)により推定される原告の損害額は、合計三九六万八〇〇〇円となる。
5(一) 原告は、被告東洋が本件で対象となっている製品を納品した日が別件高裁決定の前か後かで、被告東洋の販売経費を区別して主張しており、被告前田本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、別件高裁決定では、被告東洋に対し、ZA―FMⅡ暫定版プログラム、ZA―FXⅡ暫定版プログラム、MICプログラムを収納した被告ZA―FMⅡ、被告ZA―FXⅡ、被告ZA―FMⅢ、被告ZA―FXⅢ、被告MICの頒布、頒布のための広告もしくは展示が差し止められたのに、被告東洋は、別件高裁決定の後においても、展示会に本件で対象となっている製品を出品し、カタログを頒布するといった展示、広告等の営業活動をしていたことが認められ、裁判所の仮処分決定に反してした営業活動による販売経費を、被告東洋の利益算出に当たって控除するのは相当でないから、原告の主張は、営業活動が行われた日が別件高裁決定後のものについて当該活動に要した販売経費を控除すべきではないとの限度で正当なものを含んでいる。
しかし、被告前田本人尋問の結果によれば、別件高裁決定の後に納品された製品でも、別件高裁決定の前の営業活動によって契約が成立していたもの、別件高裁決定の前の営業活動が契約成立の原因となったものが少なくないことが認められ、別件高裁決定の後に納品された製品についての販売経費のうち同決定後の営業活動によるものの金額や割合を認定できる的確な証拠はないから、結局別件高裁決定の後にされた営業活動の経費を区別することはできない。
(二) 前記乙第五三号証、被告前田本人尋問の結果、被告小島本人尋問の結果中には、被告東洋が被告日本テクナートに対し開発費を支払った旨の部分があるが、仮に、被告東洋が被告製品の開発のため被告日本テクナートに対し開発費を支払っていたとしても、これを原告の受けた利益を推定する前提事実としての被告東洋の利益算出に当たって控除するのは相当でないことは、前記1(一)に判断したとおりである。
(三) 前記乙第五八号証には、被告日本テクナートが被告製品を製造するために要した人件費を算出するための人件費の時間単価が年度により四四五二円ないし五〇三〇円であった旨の記載があり、その算定方法は、各年度の被告日本テクナートの直接作業者二〇名又は一九名の年間総労働時間のうち二割を間接労働時間と推定してこれを除外し、年間直接労働時間を算出し、被告日本テクナートの全社員(三二名)の総人件費を年間直接労働時間で除したものを時間単価としたものである。
しかしながら、原告の受けた利益を推定する前提事実としての被告東洋の利益算出に当たって控除する人件費の計算において、当該製品の製造のための直接作業者でない間接部門の労働者の人件費を考慮するのは相当でない。
6 右2、3、4によれば、被告永井商会、被告武部以外の各被告の負担する、被告東洋又は被告日本テクナートの受けた利益によって推定される原告の損害の賠償額は次のとおりとなる。
(一) 被告東洋、被告日本テクナート、被告村谷、被告前田、被告小島の連帯負担分
前記2(四)の四七六万四〇〇〇円と前記3(四)の二七九二万五〇〇〇円の合計三二六八万九〇〇〇円
(二) 被告東洋、被告村谷、被告前田の連帯負担分
前記4(三)の三九六万八〇〇〇円
なお、被告村谷、被告前田、被告小島について、仮に商法二六六条の三の規定に基づく損害賠償責任があると仮定しても、損害額が右金額を超えることを認めるに足りる証拠はない。
7 弁護士費用について
原告が本訴の提起及び遂行のため並びに本訴に先立つ仮処分事件(一審、抗告審)の提起及び遂行のために弁護士である原告代理人らを選任したことは当裁判所に顕著であり、弁論の全趣旨によれば、原告は右仮処分事件について一〇〇万円の着手金を支払い、本訴について着手金五〇万円を支払った外、第一東京弁護士会弁護士報酬規則に定められた報酬を支払う旨約束したものと認められるところ、本件事案の性質、内容、審理の経緯、訴訟の結果その他諸般の事情を考慮すると、原告に生じた弁護士費用のうち四〇〇万円は被告らの著作権侵害の不法行為と相当因果関係のある損害として被告らが賠償する義務があると認める。
右6の(一)と(二)の金額を考慮すれば、右四〇〇万円の内、被告東洋、被告日本テクナート、被告村谷、被告前田、被告小島の連帯負担分は三六〇万円、被告東洋、被告村谷、被告前田の連帯負担分は四〇万円とするのが相当である。
8 損害賠償額のまとめ
よって、被告東洋、被告日本テクナート、被告村谷、被告前田、被告小島は連帯して右6(一)の三二六八万九〇〇〇円と右7の弁護士費用三六〇万円の合計三六二八万九〇〇〇円及びその内6(一)の三二六八万九〇〇〇円に対する不法行為の日以後である平成元年七月一日から、弁護士費用三六〇万円に対する不法行為の日以後で第一事件訴状送達の日の翌日である平成元年七月一八日から、各支払済みまで年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。
また、被告東洋、被告村谷、被告前田は連帯して右6(二)の三九六万八〇〇〇円と右7の弁護士費用四〇万円の合計四三六万八〇〇〇円及びその内前記六1(五)認定の被告MIC中、被告東洋又は第三者製造とされる二台についての損害分五五万八〇〇〇円に対する不法行為の日以後である平成元年七月一日から、前記六2(四)認定の被告MIC四台分と前記六2(二)認定の被告ZA―FXⅢに改造した元の被告ZA―FMⅢ二台についての損害分合計三四一万円に対する不法行為の日以後である平成三年四月一日から、弁護士費用四〇万円に対する不法行為の日以後で第一事件訴状送達の日の翌日である平成元年七月一八日から、各支払済みまで年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。
一〇 謝罪広告請求について
1 前記三4認定の事実に、成立に争いのない甲第九四号証ないし甲第九六号証、甲第一〇九号証、甲第一九三号証ないし甲第一九五号証、原告代表者本人尋問の結果、被告前田本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(一) 原告は、昭和六三年、被告東洋、被告日本テクナートを債務者として、ZA―FMⅡ暫定版プログラム、ZA―FXⅡ暫定版プログラム、CA―7Ⅱプログラム、MICプログラムの複製、翻案の差止め、これらのプログラムを収納した被告ZA―FMⅡ、被告ZA―FXⅡ、被告ZA―FMⅢ、被告ZA―FXⅢ、被告CA―9A、被告CA―9M、被告CA―9F、被告CA―9D、被告MICの頒布等の差止めを求めて当裁判所に仮処分申請をした(昭和六三年(ヨ)第二五三一号外)が、当裁判所は、債務者がCA―7ⅡプログラムについてはCA―9プログラムに変更し、ZA―FMⅡ暫定版プログラム、ZA―FXⅡ暫定版プログラムについては新規のプログラムを制作するため、被告日本テクナートと開発委託契約を締結し、MICプログラムについても新規のプログラムに変更すると主張しているとして、各プログラムについて複製権侵害のおそれがあると認められない、新規のCA―9プログラムはCA―7Ⅱプログラムの翻案に当たるとの疎明はないとの理由で、右申請を却下した。
(二) 原告は、これを不服として、東京高等裁判所に抗告したところ(平成元年(ラ)第三二七号)、同裁判所は、平成元年六月二〇日、原告主張のプログラムの著作権が原告に属することを認め、ZA―FMⅡ暫定版プログラム、ZA―FXⅡ暫定版プログラム、MICプログラムについては複製、翻案をするおそれが消滅したとはいえないとして、これらのプログラムの複製、翻案の差止め、これらのプログラムを収納した被告ZA―FMⅡ、被告ZA―FXⅡ、被告ZA―FMⅢ、被告ZA―FXⅢ、被告MICの頒布、頒布のための広告、展示の差止めを命じ、他方、CA―7Ⅱプログラムの複製、翻案、これを収納した被告CA―9A、被告CA―9M、被告CA―9F、被告CA―9Dの頒布等のおそれは消滅し、CA―9プログラムはCA―7Ⅱプログラムの翻案であるとの疎明はないとして、その余の申請は理由がないと判断した(別件高裁決定)。
(三) 原告は、平成元年七月下旬頃、被告東洋の取引先に対し、「デッドコピー製品についての御注意」と題する文書を送付した。
右文書の内容は、概ね次のとおりである。
「従前、東洋測器(株)は、当社が権利を有するコロニーアナライザーCA―7Ⅱ、ゾーンアナライザーZA―FMⅡ、ZA―FXⅡ、画像処理法MIC装置を販売しておりましたが、昭和六一年五月をもって販売関係を解消いたしました。東洋測器(株)は、当社の各装置のデッドコピー(複製)を行い、それぞれコロニーアナライザーCA―9、ゾーンアナライザーZA―FMⅢ、ZA―FXⅢ、画像処理法MIC装置と紛らわしい名称で販売してまいりました。これに対し、当社は東京地方裁判所に裁判を起こしましたが、東洋測器(株)がプログテムのデッドコピーを中止するということを約束したため差止の決定が出されませんでしたが、この度、東京高等裁判所において、これら東洋測器(株)の各装置が当社の各装置のプログラム著作権を侵害していることが認められ、平成一年六月二〇日付で各装置について、製造、販売、広告、展示の差止の決定が出されました。但し、CA―9については平成一年一月中旬に東洋測器(株)がプログラム変更を行い、変更前(平成一年一月中旬以前)の装置は販売しないということを約束したため、販売差止が出されませんでした。しかし、東洋測器(株)の上記各装置は当社のプログラム、ハードウェアを共に全くデッドコピーしていた製品であり、性能、仕様共に当社の現在の製品(CA―7Ⅱ、ZA―FMⅡ、ZA―FXⅡ、MIC装置)と大きく異なりますので、混同され、ご迷惑を被らぬ様に御注意申し上げます。」
(四) 被告東洋は、右の「デッドコピー製品についての御注意」と題する文書が取引先に送付されたことを知り、また、原告との紛争につき取引先から、照会、問い合わせを受けていたこともあって、原告の送付した右文書に反論し、被告東洋の立場、考え方を示すことにし、平成元年八月、取引先に対し、次の二種類の文書を送付した。
(1) その一つは、「システムサイエンス株式会社の件に関する事情説明書」と題する文書であり、概略次のとおりの内容のものであった。
(ア) 文頭の挨拶の後、「さて、去る七月中旬頃「システムサイエンス株式会社」(以下「システム」という。)名で、「デッドコピー製品についての御注意」と題する書面(以下「書面」という。)が貴社に対し送付されているものと思われます。(もし、送付されていないときは、この書面をお出ししましたことをお許し願いたいと存じます。)また、この問題については、これまでいくつかの照会・問いあわせがありましたので、この際、この問題に対する当社の基本的な考え方を次のとおり明らかにしておきたいものと考え、本書面を差し上げることと致しました。」との前書きがあり、「記」として、次項以下の趣旨の内容が続いている。
(イ) 「システム」は、その「書面」において、東京高等裁判所の決定を引用し自己の主張が、全面的に認められたかのごとくに述べております。しかし、この記載は、正確なものではないことを、まず指摘しておきたいと存じます。
その一つは、「システム」の求めたプログラム4件のうち、認められたのは3件で、当社の「コロニーアナライザーシステムCA―7Ⅱ」オブジェクトプログラムについては理由がないとして認められなかったことであります。
その二は、「システム」の求めた機器9件のうち、認められたのは5件で、当社のコロニーアナライザーCA―9A、同CA―9M、同CA―9F、同CA―9Dについてはいずれも、理由がないとして「システム」の主張が認められなかったことであります。
その三は、「システム」の主張するプログラムや機器については、当社は、現在、全く製造・販売しておらず、当社の販売しているものは、全て当社の開発し製造したもので「システム」の主張するプログラム・機器とは関係のないものであることであります。
(ウ) そして、裁判所の決定は、「システム」のその余の申請を却下し、当事者の責任割合を基準に決める「申請費用及び抗告費用」はこれを二分し、「システム」が二分の一を、当社が二分の一を負担とする旨決定しております。このことはその責任分担割合を均等と認めたものといってよいものであります。
(エ) しかし、もっと重要なことは、これら裁判所の決定が、本裁判を前提とした仮処分申請に対する決定であって、これらプログラムや機器の実質的権利については、本裁判において審理が行なわれ、真実解明に向けて、手続が進められるものであるということであります。貴社に対する書面の中では、これ以上詳しくご説明申し上げることは、さしひかえることと致しますが、当社は、「システム」のいうこれら機器及びプログラムの製作については、当社が多額の開発費を「システム」に対し、支払ってきたこと、そして、「システム」のいうプログラムや機器の製作に当たっては、当社設立(昭和48年)前の同44年より、当社の代表取締役である村谷紀夫が「自動阻止円測定装置」に関心を持ち、「光学式阻止円測定装置」を開発し、指導して今日に至ったという事実と歴史を有していることを、附記しておきたいと思います。
(オ) 当社は「システム」から一方的に仕掛けられた裁判に対し、やむなく防御措置をとって斗わざるをえませんが、その間、「システム」側より貴社に対し、事実に相違する文書等を送付されることもあって、ご迷惑をおかけすることもあるかもしれませんが、当社とのこれまでのお取引に免じ、何卒ご宥恕の上、これまでどおりのお取引を続けていただけますようにお願い申し上げ、この問題についての事情説明とさせて戴きます。
(2) もう一つは、「事情説明書」と題されたものと無題のものとがあるが、ほぼ同文で、概略次のとおりの内容のものであった。
(ア) 文頭の挨拶に続き、「さて、この度システムサイエンス株式会社(以下SSCと申します)より貴社に発送されました手紙につきまして、弊社顧問弁護士と相談いたしました結果、SSCと弊社との裁判について正確を期するため文章にて事情を明らかにしたほうが良いとの指示をうけましたので、ここに今回のいきさつについてご説明をさせていただきます。」として、次項以下の趣旨の内容の記載がある。
(イ) SSCと、弊社との関係は昭和52年にさかのぼります。当時SSC社長が一人で独立し、弊社に「何か仕事をさせて欲しい」と、訪問してまいりました。そこで、弊社の社外技術員の一人としてコロニーアナライザーの開発に従事させました。そのうちSSCも社員が増え会社組織(総員3名)として整いましたのでその後は完全な製造下請会社として仕事を出すようになりました。SSCは電気技術員のみでスタッフが占められていますので、当然のことながら同社には微生物分野の測定機器を自主開発する能力はありません。そして微生物分野での測定の自動化にかかわるノウハウは全て弊社にありますので、弊社はSSCを指導して二、三の機器を開発させました。その製品が貴社にも納品させて頂きました自動阻止円測定装置ゾーンアナライザーZA―FMであり、コロニーアナライザーのオプション装置であるMIC装置であります。
(ウ) ところがこれらの機器の売れ行きが上昇するにつれてSSCは、弊社の指導のもとに製造した製品であるにもかかわらず、あたかもSSC独自で開発したごとくSSCブランドで広告を始め、販売体制も作りだしました。
(エ) そういう推移のもとでSSCは、まず、SSCの広告の中に弊社の製品があたかもまがい物であるかのごとく記載したのをはじめ文章等でも弊社を中傷してまいりました。そして、その次にSSCが持ち出してきた口実が「機器に内蔵されているコンピュータのソフトの著作権はSSCにある」という主張でした。
(オ) 弊社と致しましては開発に係わる費用はすべて弊社が持ちノウハウの全てを教えながら製造させた製品について、何故、このような訴えを起こされなければならないのか納得できず、この間、弁護士と相談しつつ裁判を遂行してまいりました。もちろんソフトの著作権を含め、全ての権利は弊社にあると考え、その旨、裁判でも主張しております。
(カ) 裁判に対応しながら、その一方で問題となっているソフトを検討してみますとSSCが制作したソフトは余りにも無駄が多いものでした。そこでこれを機に弊社で新しくソフトを作ったほうが良いと判断し、即刻、作り始めました。かくして、コロニーアナライザーの新規ソフトは地方裁判所の判断が出る前に完成いたしましたので裁判所に提出しましたところ全く問題がないとの判断を受けました。そしてゾーンアナライザーの方も現在新規ソフトを制作中であることが認められたためSSCの全面敗訴となりました。
(キ) ところがSSCはさらに高等裁判所に事件を持ち込みました。高等裁判所は、下請としてソフトを作ったことに鑑み、弊社に対し今後はSSCのソフトを内蔵した製品を販売等しないようにとの暫定的な判断を下しました。この高等裁判所の判断の一部をSSCは貴社に発送し、あたかも弊社の製品そのものが今後販売等できないかのような印象を与える手紙を添えるという妨害行為を行ったのが今回の問題であります。
(ク) しかし、弊社はSSCの作ったソフトを使わないことを決め、コロニーアナライザーは既に新規ソフトが出来ており、ゾーンアナライザーも近々完成の予定でありますので、高等裁判所の判断は実質的には今後の弊社の活動を妨げるものではありません。弊社は秋までに新しいソフトを入れたゾーンアナライザーを発売する予定であり、これにより弊社の主力商品は全て揃います。
(ケ) そもそも本件は弊社の元下請が弊社に対して持ち出したいい掛かり以外のなにものでもありません。法律的には現在納品させて頂いております製品及び、今後納品予定の機器については貴社にご迷惑をかけることは一切ありません。SSCは意識的に不正確なことをいって弊社の営業活動を妨害しようとしておりますが、このような悪質な行為に対しては断固たる対応措置をとるつもりでおります。
(五) 被告東洋は、社団法人日本農芸化学会が平成元年一一月一〇日発行した日本農芸化学会会員名簿(一九八九年度版)に掲載した一ページ大の広告で、被告ZA―FMⅢ及び被告ZA―FXⅡを他の二種の商品とともに自社の商品として宣伝し、大阪科学機器協会が平成元年一一月一日に発行した八九/九〇年版科学機器ガイド(第六版)に掲載した一ページの四分の一大の広告で、被告ZA―FMⅢを自社の商品として宣伝した。
2 右認定事実に基づいて検討する。
(一) 前記1(四)の(1)の被告東洋の文書中、(イ)の記載、(オ)の記載中、「システム」側より貴社に対し、事実に相違する文書等を送付されることもあって、ご迷惑をおかけすることもあるかもしれない旨の部分、同(2)の被告東洋の文書中、(キ)の記載中、この高等裁判所の判断の一部をSSCは貴社に発送し、あたかも弊社の製品そのものが今後販売等できないかのような印象を与える手紙を添えるという妨害行為を行ったのが今回の問題でありますとの部分、(ケ)の記載中、SSCは意識的に不正確なことをいって弊社の営業活動を妨害しようとしておりますが、このような悪質な行為に対しては断固たる対応措置をとるつもりでおりますとの部分は、原告が発送した文書が、別件高裁決定の内容について意識的に事実に反することを記載したものであり、今後も原告が虚偽の事実を記載した文書等を送付するおそれがあるとするものであり、原告の名誉、信用を害するものと認められる。
しかも、右1(一)、(二)認定の事実によれば、右1(三)認定の原告が発送した文書は、別件高裁決定において、被告CA―9についてはプログラムが変更されており、変更前のものについてプログラムの複製、翻案、頒布等のおそれがないとして、仮処分申請が理由がないものとされたことを明示するなど、別件高裁決定の内容を簡略ではあるがほぼ正確に記載してあることが明らかで、内容が基本的に事実に合致したものであったと認められる。
したがって、被告東洋の文書中の、前記原告が発送した文書が、別件高裁決定の内容について意識的に事実に反することの記載されたものであり、今後も原告が虚偽の事実を記載した文書等を送付するおそれがあるとする部分は真実であるとの証明がなく、むしろ事実に反する記載と認められる。
(二) また、前記1(四)の(1)の被告東洋の文書中、(イ)の記載中、その三として上げられた、別件高裁決定により複製、翻案や頒布等が差し止められたと原告が主張するプログラムや機器については、被告東洋は、現在、全く製造、販売しておらず、同被告の販売しているものは、全て同被告の開発し製造したもので、原告の主張するプログラム、機器とは関係のないものである旨の部分、(ウ)の記載、同(2)の文書中、(キ)の記載中、高等裁判所は、原告が下請としてソフトを作ったことに鑑み、被告東洋に対し今後は原告のソフトを内蔵した製品を販売等しないようにとの判断を下した旨の部分は、別件高裁決定の内容について、被告東洋として説明したものである。
しかし、別件高裁決定により複製、翻案や頒布等が差し止められたプログラムや機器については、被告ZA―FMⅡ以外は、被告東洋が製造、販売していたことは、前記六に認定判断したとおりであり、被告東洋は、当時、全く製造、販売しておらず、同被告の販売しているものは、全て同被告の開発し製造したもので、原告の主張するプログラム、機器とは関係のないものである旨の部分は事実に反するものであり、また、(ウ)の記載中、別件高裁決定が、申請費用及び抗告費用を二分し、原告が二分の一、被告東洋が二分の一負担するものとしたのは、両者の責任分担割合を均等と認めたものである旨の部分も事実に反すること、及び、高等裁判所は、原告が下請としてソフトを作ったことに鑑み、原告のソフトを内蔵した製品を販売等しないように判断したものではなく、原告主張のプログラムの著作権が原告に帰属するものであるからであって、(2)の文書の(キ)の記載もこの点で正確でないことは、いずれも、前記1(二)認定の別件高裁決定の内容から明らかである。
このように、前記被告東洋の文書中、右別件高裁決定の内容についての部分は、自己の受けた裁判の内容を取引先に説明する文書であることを考慮しても、不正確で、事実に反するものであり、原告からみれば勝訴した決定の内容を被告東洋に有利に歪曲して説明された点で、原告の名誉、信用が毀損されたといえなくはないものの、直接に原告の名誉、信用を毀損するものとはいえない。
(三) 更に、前記1(四)の(1)の被告東洋の文書中、(エ)の記載中、被告東洋が、原告のいうこれら機器及びプログラムの製作については、多額の開発費を原告に対し支払ってきた旨、原告のいうプログラムや機器の製作に当たっては、被告東洋の代表取締役である被告村谷紀夫が指導して今日に至った旨、同(2)の文書中、(イ)の記載のうち、原告は電気技術員のみでスタッフが占められているので、微生物分野の測定機器を自主開発する能力はない旨、被告東洋が原告を指導して二、三の機器を開発させた旨の部分、(ウ)記載のうち、原告は、被告東洋の指導のもとに製造した製品であるにもかかわらず、あたかも原告が独自で開発したごとくSSCブランドで広告を始めた旨、(オ)の記載のうち、被告東洋としては、開発に係わる費用はすべて同被告が持ちノウハウの全てを教えながら製造させた製品について、何故、このような訴えを起こされなければならないのか納得できない旨、ソフトの著作権を含め、全ての権利は被告東洋にあると考え、その旨裁判でも主張している旨、(ケ)の記載のうち、そもそも本件は被告東洋の元下請が被告東洋に対して持ち出したいい掛かり以外のなにものでもない旨の各部分は、仮処分の対象となった機器やプログラムの開発の経過、権利の帰属についての説明であるが、原告が開発、製造した機器について原告の開発能力を否定し、被告東洋や被告村谷が指導した、あるいは、開発費用は全て被告東洋がもった等、原告の技術的、経済的能力を低いものとし、原告の権利主張をいいがかりとする点で、原告の名誉、信用を害するものと認められる。
しかも、ZA―FMⅡ暫定版、ZA―FXⅡ暫定版、CA―7Ⅱ、MICの開発やそれらに収納された各プログラムの作成の経過は、前記三、四に認定したとおりであり、MICの企画は被告東洋の依頼がきっかけとなったが、技術的な意味での企画、開発、製造、プログラムの作成は原告が行ったものであり、ZA―FMⅡ暫定版、ZA―FXⅡ暫定版、CA―7Ⅱの企画、開発、製造、プログラムの作成は原告が行ったもので、それらの過程において、被告東洋が協力したことはあっても、それらの機器やプログラムの製作に当たっては、被告東洋や被告村谷が指導したとか、被告東洋はノウハウの全てを教えながら製造させた旨、原告は微生物分野の測定機器を自主開発する能力はない旨の記載は事実に反し、また、ZA―FMⅡ暫定版、ZA―FXⅡ暫定版、CA―7Ⅱ、MICの開発費用を被告東洋が負担した旨の記載も事実に反する。更に、ZA―FMⅡ暫定版プログラム、ZA―FXⅡ暫定版プログラム、CA―7Ⅱプログラム、MICプログラムの著作権が原告に帰属するものであり、本訴における差止請求についての判断からみても、本件(仮処分申請事件)は原告のいい掛かり以外のなにものでもないとの記載も事実に反するものである。
(四) 以上のとおり、前記1(四)の(1)、(2)の被告東洋の文書中には、原告の名誉、信用を害し、かつ事実に反する部分があることは明らかであるが、他方、被告東洋の文書は、原告が前記1(三)の文書を送付したと思われる取引先に対し個別に送付されたもので、その送付先の数を認めるに足りる証拠はなく、雑誌、業界紙等に広告されたものでもなく、無差別に多方面に配布されたことも認められないこと、少なくとも、先に原告からの文書の送付を受けていた取引先にとっては当然のこととして、また、被告東洋の文書のみを送付された取引先にとっても、原告と被告東洋の間には、紛争があり、仮処分申請事件の高裁決定では、原告の申請が認められた部分があることは認識できるもので、被告東洋の文書の内容も、紛争の渦中にある当事者が実際以上に自己に有利な弁明をすることはありがちなこととして、直ちに全面的には信用できないものと認識できたこと等を考慮すれば、原告の名誉、信用を回復するために、原告が請求するような謝罪広告を命ずるまでの必要性は認められない。
なお、右の判断は、謝罪広告の必要性が認められないとするもので、被告東洋が送付した前記1(四)の(1)、(2)の文書中に、原告の名誉、信用を毀損する違法な部分がある旨の判断はいささかも弱められるものではないことを、被告東洋の誤解を防ぐために付言する。
なお、前記1(五)の広告の掲載は、直ちに原告の名誉、信用を毀損するものとは認められない。
3 よって、原告の謝罪広告請求は、理由がない。
一一 結論
1 以上のとおりであるから、原告の請求に対する当裁判所の判断の結論を整理すると次のとおりである。
(一) 全被告との関係で、原告がZA―FMⅡ暫定版プログラム、ZA―FXⅡ暫定版プログラム、CA―7Ⅱプログラム及びMICプログラム(すなわち、別紙物件目録一(一)ないし(四)記載の各プログラム)について著作権を有することの確認請求は、理由がある。
(二) 被告東洋に対する、
(1) 著作権法一一二条一項、一一三条一項二号の規定に基づく、
(ア) ZA―FMⅡ暫定版プログラム、ZA―FXⅡ暫定版プログラム及びMICプログラム(別紙物件目録一(一)、(二)及び(四)記載の各プログラム)を複製、翻案することの差止請求、
(イ) ZA―FMⅡ暫定版プログラム(別紙物件目録一(一)記載のプログラム)を収納した被告ZA―FMⅢ(別紙物件目録二(三)記載の装置)、ZA―FXⅡ暫定版プログラム(別紙物件目録一(二)記載のプログラム)を収納した被告ZA―FXⅡ(別紙物件目録二(二)記載の装置)及び被告ZA―FXⅢ(別紙物件目録二(四)記載の装置)、MICプログラム(別紙物件目録一(四)記載のプログラム)を収納した被告MIC(別紙物件目録二(九)記載の装置)の頒布の差止請求、
(2) 著作権法一一二条二項の規定に基づく、
ZA―FMⅡ暫定版プログラム(別紙物件目録一(一)記載のプログラム)を収納した被告ZA―FMⅢ(別紙物件目録二(三)記載の装置)、ZA―FXⅡ暫定版プログラム(別紙物件目録一(二)記載のプログラム)を収納した被告ZA―FXⅡ(別紙物件目録二(二)記載の装置)及び被告ZA―FXⅢ(別紙物件目録二(四)記載の装置)、MICプログラム(別紙物件目録一(四)記載のプログラム)を収納した被告MIC(別紙物件目録二(九)記載の装置)の頒布のための広告、展示の差止請求並びにそれらの装置の廃棄請求、
は、理由があるが、
(3)(ア) CA―7Ⅱプログラム(別紙物件目録一(三)記載のプログラム)の複製、翻案の差止請求、
(イ) 同プログラムを収納した被告CA―9A(別紙物件目録二(五)記載の装置)、被告CA―9M(別紙物件目録二(六)記載の装置)、被告CA―9F(別紙物件目録二(七)記載の装置)及び被告CA―9D(別紙物件目録二(八)記載の装置)の頒布、頒布のための広告、展示の差止請求、
(ウ) それらの装置の廃棄請求、
(エ) ZA―FMⅡ暫定版プログラム(別紙物件目録一(一)記載のプログラム)を収納したゾーンアナライザーZA―FMⅡ(別紙物件目録二(一)記載の装置)の頒布、頒布のための広告、展示の差止請求、
(オ) 右装置の廃棄請求、
は、いずれも理由がない。
(三) 被告日本テクナートに対する、
(1) 著作権法一一二条一項、一一三条一項二号の規定に基づく、
(ア) ZA―FMⅡ暫定版プログラム及びZA―FXⅡ暫定版プログラム(別紙物件目録一(一)及び(二)記載の各プログラム)を複製、翻案することの差止請求、
(イ) のZA―FMⅡ暫定版プログラム(別紙物件目録一(一)記載のプログラム)を収納した被告ZA―FMⅢ(別紙物件目録二(三)記載の装置)、ZA―FXⅡ暫定版プログラム(別紙物件目録一(二)記載のプログラム)を収納した被告ZA―FXⅡ(別紙物件目録二(二)記載の装置)及び被告ZA―FXⅢ(別紙物件目録二(四)記載の装置)の頒布の差止請求、
(2) 著作権法一一二条二項の規定に基づく、
ZA―FMⅡ暫定版プログラム(別紙物件目録一(一)記載のプログラム)を収納した被告ZA―FMⅢ(別紙物件目録二(三)の装置)、ZA―FXⅡ暫定版プログラム(別紙物件目録一(二)記載のプログラム)を収納した被告ZA―FXⅡ(別紙物件目録二(二)記載の装置)及び被告ZA―FXⅢ(別紙物件目録二(四)記載の装置)の廃棄請求、
は、理由があるが、
(3)(ア) CA―7Ⅱプログラム(別紙物件目録一(三)記載のプログラム)、MICプログラム(別紙物件目録一(四)記載のプログラム)の複製、翻案の差止請求、
(イ) CA―7Ⅱプログラム(別紙物件目録一(三)記載のプログラム)を収納した被告CA―9A(別紙物件目録二(五)記載の装置)、被告CA―9M(別紙物件目録二(六)記載の装置)、被告CA―9F(別紙物件目録二(七)記載の装置)及び被告CA―9D(別紙物件目録二(八)記載の装置)の頒布の差止請求並びにそれらの装置の廃棄請求、
(ウ) ZA―FMⅡ暫定版プログラム(別紙物件目録一(一)記載のプログラム)を収納したゾーンアナライザーZA―FMⅡ(別紙物件目録二(一)記載の装置)の頒布の差止請求並びにそれらの装置の廃棄請求、
は、いずれも理由がない。
(四) 被告永井商会に対する、
(1) MICプログラム(別紙物件目録一(四)記載のプログラム)の複製、翻案の差止請求、
(2) 右プログラムを収納した被告MIC(別紙物件目録二(九)記載の装置)の頒布の差止請求及びその装置の廃棄請求、
は、いずれも理由がない。
(五) 民法七〇九条、商法二六一条三項、七八条二項、民法四四条一項、七一五条一項、七一九条一項、商法二六六条の三、著作権法一一四条一項の各規定に基づく、
(1) 被告東洋、被告日本テクナート、被告村谷、被告前田、被告小島に対し、連帯して、合計三六二八万九〇〇〇円及びその内三二六八万九〇〇〇円に対する平成元年七月一日から、三六〇万円に対する平成元年七月一八日から、各支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める請求、
(2) 被告東洋、被告村谷、被告前田に対し、連帯して、合計四三六万八〇〇〇円及びその内五五万八〇〇〇円に対する平成元年七月一日から、四〇万円に対する平成元年七月一八日から、三四一万円に対する平成三年四月一日から、各支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める請求、
は理由があるが、
(3) 被告永井商会、被告武部に対する金銭請求、被告東洋、被告日本テクナート、被告村谷、被告前田、被告小島に対する右(1)、(2)を超える金銭請求は、いずれも理由がない。
(六) 民法七二三条の規定に基づく、被告東洋、被告村谷、被告前田に対する謝罪広告請求は理由がない。
2 よって、本件各請求中、右理由のある請求を認容し、その余を棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行の宣言について同法一九六条一項を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官西田美昭 裁判官宍戸充及び裁判官櫻林正己はいずれも転補のため署名押印できない。裁判長裁判官西田美昭)
別紙<省略>